■ 快進撃を続ける両チームの激突天皇杯の3回戦。1回戦は早稲田大に勝利して2回戦はJ1のベガルタ仙台をアウェイながら5対2で下して初の3回戦進出を決めたグルージャ盛岡がユアテックスタジアム仙台でJFLのHonda FCと対戦した。同様にHonda FCも快進撃を見せており、1回戦でJ2のFC岐阜に勝利すると2回戦ではJ2で昇格争いをしている松本山雅にアルウィンで勝利。今年の天皇杯の主役になっている両チームが3回戦で激突した。
盛岡は「4-2-2-2」。GK土井。DF鈴木達、DF畑本、DF久保、DF八角。MF益子、MF垣根、MF牛之濱、MF安楽。FW谷口堅、FW梅内。攻撃の中心となる右SHのMF牛之濱は福岡U-18出身。福岡のトップチームで5シーズンプレーした。左SHのMF安楽は昨オフにJFLのMIOびわこ滋賀から加入。2015年はJFLで22試合で7ゴールを挙げている。フォワードの軸となるFW谷口堅はJ2時代の鳥栖でプレーした経験がある。
対するHonda FCは「4-2-3-1」。GK清水谷。DF富田、DF須藤、DF鈴木、DF細貝。MF松本、MF栗本、MF柴田、MF古橋、MF大町。FW久野。注目選手は何と言ってもトップ下でプレーする35歳のMF古橋。もともとはHonda FCで大活躍して2004年の途中にC大阪に引き抜かれたが2005年にはJ1のベストイレブンに輝いている。その後は山形や湘南でもプレーしたが2014年に古巣であるHonda FCに復帰した。
■ 後半の終了間際に劇的な決勝ゴール試合はカテゴリーが下となるHonda FCが優勢。MF古橋を中心に攻め込むと前半26分に左サイドの裏を取った1トップのFW久野のパスを受けたMF大町が右足で決めてHonda FCが先制に成功する。J2の金沢から期限付き移籍中のMF大町は3試合連続ゴールとなった。距離的にはそこまで遠くないということもあって大勢のサポーターが終結した盛岡だったが前半はほとんどいいところを見せられなかった。
1対0とHonda FCがリードして迎えた後半12分にロングボールからDFラインの裏を抜け出しかけた盛岡のMF牛之濱に対して後ろからユニフォームを引っ張ったHonda FCのCBのDF鈴木のプレーがファールを取られて1点を追う盛岡にPKが与えられる。リプレーを見るとファールを冒したのはエリアの外だったのでPKではなくて直接FKからの再開が妥当な場面だったが家本レフェリーは迷うことなくPKを宣告した。
このときに盛岡のボランチのMF垣根が相手選手といざこざを起こすと一発レッドで退場。盛岡は10人になるがここで得たPKをFW梅内が決めて後半14分に1対1の同点に追いついた。どちらのチームにとってもすっきりしない攻防からタイスコアになったが後半17分に今度は盛岡の右SHのMF牛之濱が2枚目のイエローカードを受けて退場。盛岡は2人目の退場者を出して2人少ない9人での戦いを余儀なくされる。
その後は2人多いHonda FCがずっと攻め込む展開になる。完全なハーフコートゲームになったが盛岡のGK土井が奮闘。何度も好セーブを見せて延長戦に突入しそうな雰囲気になったが後半49分にHonda FCは右SBに回っていたDF細貝のクロスからファーサイドに走り込んできたDF中川が合わせて土壇場で決勝ゴールを奪った。2対1で勝利したHonda FCは3試合連続でJリーグクラブを撃破してベスト16入りを決めた。
■ 2人の退場者を出したグルージャ盛岡試合前から注目度の高い試合だったが中身の濃い試合になった。いろいろなことが起こったので振り返るのも一苦労であるが、この試合の家本レフェリーのジャッジは批判されても仕方がない。退場者が出た後も両チームの選手は冷静にプレーしたので試合が荒れることはなかったがレフェリーに対する不満が蓄積されてラフプレーに走る選手が出てきても不思議はないほどストレスのかかるジャッジが多かった。
中でもPKを宣告した判断は明確な誤りだったと言える。リプレーを見ると明らかにエリア外での攻防である。ボールも選手も動いている中で審判団は判断しなければならないので「エリア内なのか?エリア外なのか?」の判断は非常に難しくて『どちらとも言える。』というシーンは多いがこの場面に関しては微妙ですらなかった。J1で何度もビッグマッチを担当している主審としてはお粗末なミスだったと言える。
盛岡がPKを獲得した一連のシーンで盛岡のMF垣根に出たレッドカードに関しては肝心のシーンが映像には映っていなかったので是非を述べることは出来ないが公式記録を見ると『乱暴』で一発レッドと記されている。映像を見ると先にイエローカードを提示した後に続けてレッドカードを出しているので「2枚目のイエローカードで退場になったのか?」、「一発レッドで退場だったのか?」はよく分からない。
その後の後半17分にMF牛之濱に2枚目のイエローカードを出した場面もカードを出すのは控えるべきだったのではないかと思う。もちろん、やや危険なファールだったのは確かだが2枚目のイエローカードを出すほど悪質だったとは思えない。(イエローカードを提示した後、)すぐにレッドカードを出したわけではなかったので前半にMF牛之濱に対してイエローカードを提示したことを忘れていた可能性もある。
「イエローカードを出す基準は一定であるべき」と言えるが、その一方で1枚目のイエローと2枚目のイエローは重みが全く異なる。全く同じ基準でイエローカードを出していると試合中に退場者が続出するだろう。幸いにして退場になったMF垣根を除くと両チームの選手はかなり冷静にプレーしたので大きなトラブルはなかったが大宮 vs 川崎Fのときのような騒動が起きても不思議はないほどジャッジは不安定だった。
■ 35歳になった今も高いクオリティを持つ残念ながら家本レフェリーのジャッジに大きな注目が集まる試合になったが、4回戦に進んだHonda FCの戦いぶりは見事だった。後半17分に2人目の退場者が出た後は11人対9人という圧倒的に有利な状況になったが攻めきれず。「9割型ボールを支配しているのに決められない。」というもどかしい展開になったが後半のアディショナルタイムに劇的な決勝ゴールが生まれた。DF中川が大ヒーローになった。
この勝利によってHonda FCは1回戦でFC岐阜、2回戦で松本山雅、3回戦で盛岡を撃破したことになる。3試合連続でJリーグクラブから勝利を奪うというのは快挙である。現在は何人かがプロ選手となるので『プロ・アマ混成』となるが、Honda FCというと典型的な企業クラブであり、選手たちは「会社のために頑張る。」という気持ちが強い。ということもあってJリーグのクラブとはいろいろな部分が異なる。
注目のMF古橋の存在感は大きかった。右足のキックに定評のある選手でC大阪時代は優秀なプレイスキッカーとして知られていたがポジショニングが良くていいタイミングでボールを受けて味方選手が攻め上がる時間を作るシーンがたくさんあった。2012年と2013年は湘南でプレーして、2014年にHonda FCに復帰しているので最後にプレーを観たのは湘南時代となるが、質の高いプレーは相変わらずだった。
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