■ 合わせて0勝3敗1分けのスタート2015年のACLの第1節は2月24日(火)と2月25日(水)に行われたが、日本勢は大苦戦した。G大阪はホームで中国の広州富力に0対2で敗れて、鹿島もホームでアジア王者のウェスタン・シドニー・ワンダラーズに1対3で敗れて、浦和はアウェイで水原三星に1対2で逆転負け。唯一、柏はアウェイで全北現代と対戦して0対0の引き分けで勝ち点「1」を獲得したが、4チーム合わせて0勝3敗1分けというのは情けない話である。
もちろん、敗因というのは各々のチームで異なるので、杓子定規に敗因を語るのは軽率な行為である。G大阪はほとんどの時間帯でボールを支配していたが、大黒柱のMF遠藤の出来が極めて悪かったことがなかなか決定機を作れない最大の要因だった。鹿島は出来としてはかなり良かったと思うが、逆転ゴールを奪うためにやや前掛かりになったところを突かれて勝ち越しゴールとダメ押しゴールを許した。
一方、浦和は「(アウェイなので)引き分けでもOK」という試合だった。その目論見通りに1対1のままで終盤戦を迎えたが、後半の終了間際にセットプレーから逆転ゴールを許した。ここでの失点シーンはチームとして落ち度があったというよりは、決勝ゴールを奪ったFWレオにマンマークで対峙していたDF森脇の個人としてのミスが原因で、「全くボールの行方を見ない。」というかなり奇妙な対応になってしまった。
実は4チームの中で一番苦しい戦いになったのは柏である。序盤から全北現代にかなり攻め込まれたが、GK菅野やDF鈴木大らの活躍もあって何とか勝ち点「1」を獲得した。最大のライバルと言える全北現代とのアウェイ戦で勝ち点「1」を獲得した柏はいいスタートを切ったが、G大阪と浦和は痛い負けで、鹿島はH組が強豪揃いであることを考えると早くも決勝トーナメント進出に黄色信号が灯ったと言える。
■ 2011年以前と2012年以降で大きな差ここからの巻き返しを期待したいが、ACLに関して気になることが2つある。1つはここ数年で日本勢の成績が急落している点である。ACLは2009年から「GLで2位以内に入ったチームが決勝トーナメントに進出できる。」というレギュレーションになったので、2009年以降の日本勢の出場チームと勝敗をまとめてみると表1のようになる。(※ その前の2007年に浦和、2008年にG大阪がアジアを制覇している。)
これを見ると分かるとおり、2011年までは大きく勝ち越しているが、2012年以降はほぼイーブンである。決勝トーナメントに進出した数は2009年が4チーム、2010年が2チーム、2011年が4チーム、2012年が3チーム、2013年が1チーム、2014年が3チームなので70.8%の確率で決勝トーナメントに進んでいる。この数字は決して低くはないが、細かく見ていくと、やはり、2011年以前と2012年以降で大きな差がある。
2009年から2011年までの3年間は12チーム中10チームが決勝トーナメントに進んでいるので確率は83.3%となるが、2012年から2014年の3年間は12チーム中7チームなので58.3%と急落している。2011年あたりまでは殆どのチームが少なくとも決勝トーナメントには進出することができたが、2012年以降は半数近くがGLで姿を消している。(ほとんど上位に進出できていない点は変わらないが・・・。)
表2. 日本勢のGLの成績 (2009年以降)
| | TOTAL | 順位 |
| | 平均勝ち点 | 勝ち | 負け | 分け | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 |
2009年 | 鹿島・川崎F・名古屋・G大阪 | 2.08 | 15 | 4 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 |
2010年 | 鹿島・川崎F・G大阪・広島 | 1.88 | 14 | 7 | 3 | 1 | 1 | 2 | 0 |
2011年 | 名古屋・G大阪・C大阪・鹿島 | 1.83 | 13 | 6 | 5 | 1 | 3 | 0 | 0 |
2012年 | 柏・名古屋・G大阪・FC東京 | 1.42 | 9 | 8 | 7 | 0 | 3 | 0 | 1 |
2013年 | 広島・仙台・浦和・柏 | 1.38 | 8 | 7 | 9 | 1 | 0 | 1 | 2 |
2014年 | 広島・横浜FM・川崎F・C大阪 | 1.50 | 10 | 8 | 6 | 0 | 3 | 0 | 1 |
2015年 | G大阪・浦和・鹿島・柏 | 0.25 | 0 | 3 | 1 | ? | ? | ? | ? |
| TOTAL | 1.64 | 69 | 43 | 36 | 6 | 11 | 3 | 4 |
■ ACLでの苦戦の原因は選手のレベルの低下なのか?何故、これだけの差があるのか?当然、いくつかの理由が考えられるが、一番、大きいのは、このあたりの時期(2011年あたり)から海外組が激増したことである。日本代表の主力級だけでなく、その下の代表クラス、さらに言うと代表クラスに届いていないような選手まで欧州のクラブからオファーを受けてJリーグを飛び出していった。こうなるとJリーグ全体の層が薄くなってACLで勝つのはなかなか難しくなる。
「日本人選手のレベルが下がったことがACLで苦戦している原因だ。」という人もいるがこれは正しいとは言えない。普通に考えると分かる話であるが、日本人選手のレベルが上がれば上がるほど、現地での日本人選手の評価が高まれば高まるほど、欧州のクラブから目を付けられて欧州移籍を希望する選手が増えるので、いい選手が流出する可能性が高くなって、ACLで勝ち進むのは難しくなる。
「日本人選手のレベルが上がればACLで好成績を残すことが出来て、日本人選手のレベルが下がったときはACLで好成績を残すことが出来ない。」というのであれば、比較的、話は簡単である。とにかく、いい選手をたくさん育てれば道が開けていくが、現状はむしろ逆である。いい選手が増えたとしたら、さらに日本人選手の欧州移籍に拍車がかかるので、それまで以上にACLで好成績を残すのが難しくなる。
究極はたくさんの有力な選手が欧州に移籍したとしても、残った選手たちで中国や韓国やオーストラリアなどのクラブを上回ることであるが、これはなかなか難しい。現状はアジアの中でそこまで日本サッカー界が突出しているわけではないし、ライバルを出し抜いて日本サッカー界が突出するのは相当に難しい。「それが可能である。」と考える人は『現実が見えていない。』と他者から言われても仕方がないだろう。
「欧州組が活躍すればするほど、いい選手がたくさん出てくれば出てくるほど、日本人選手の欧州移籍に拍車がかかるので、ACLで勝つのが難しくなる。」というのはもどかしいところである。早い話、日本サッカー界のシンボルと言えるMF本田圭やDF長友やMF香川やMF内田篤などが欧州のステージで居場所を失って撤退を余儀なくされたとしたら、日本勢はACLで好成績を残すようになるだろう。
Jリーグに戻って来る彼らが大きな戦力になるだけでなく、後に続くはずだった若手選手が海外のクラブに移籍する確率も低くなるので、優秀な選手の流出は抑えられる。本当にACLのことだけを考えると万々歳であるが、当然のことながら、そういうことが現実になったとしたら、「日本サッカー界は危機的状況を迎えた。」と言えるので、そうなることを望む人は誰もいないはずである。
■ 極端に悪いACLの1節と2節の成績個人的には現時点ではCLに出場する選手が何人かいて、ELに出場する選手も少なくない。浦和とG大阪がACLを制覇した時代と比べてACLよりもはるかにレベルの高いステージで活躍している選手は格段に増えているので、日本勢がACLで勝てなくなるのはある程度は仕方がないことで、日本サッカー界全体のことを考えると「Jリーグにとどまる選手が増えてACLで好成績を残すようになる。」というよりはいいと思う。
優秀な選手を輩出することが必ずしもACLでの好成績を約束されないことは大きなジレンマと言えるが、バックアップ体制をさらに強化することでACLで好成績を残す可能性を高めることができるのは間違いない。金銭的な面でさらなる援助をすることも1つであるが、「Jリーグの開幕の時期を早める。」という手も考えられる。(ACL組をバックアップするために考えざる得ない状況になってきていると思う。)
今度の表2は2009年以降にACLに出場した日本のクラブの節ごとの成績である。2015年は1節のみを反映させているが、「何が問題なのか?」は一目瞭然で1節と2節の成績が非常に悪い。ACLの序盤で躓いてしまうチームが多いが、これを改善するためにはJ1の開幕戦をACLの開幕戦よりも前に持ってきて、「ACLの開幕戦を新シーズンになって最初の公式戦にはしないようにする。」ということも考えざる得ない。
表2. ACLの日本勢の節ごとの成績 (2009年以降)
| 平均勝ち点 | 勝ち | 負け | 分け |
1節 | 1.21 | 9 | 12 | 7 |
2節 | 1.29 | 8 | 9 | 7 |
3節 | 1.71 | 12 | 7 | 5 |
4節 | 1.92 | 13 | 4 | 7 |
5節 | 2.13 | 15 | 3 | 6 |
6節 | 1.67 | 12 | 8 | 4 |
今シーズンはACLの1節と2節を戦った後、3月7日(土)と3月8日(日)にJ1の開幕戦が行われるが、実は今年はちょっと特殊である。調べてみると2010年から2014年までの5年間はACLの初戦を終えた後にJ1の開幕戦を行っている。一方、2009年はJ1の開幕戦を戦った後にACLの初戦を迎えている。(ちなみに、2009年は鹿島と川崎FとG大阪と名古屋が出場しているが、ACLの1節は3勝1敗と好成績を残している。)
また、表2のとおり、最終節となる6節はちょっと落ちるが、1節→2節→3節→4節→5節はキレイに右肩上がりに平均勝ち点が増えていく。もちろん、節が進むにつれて試合の重要度は増していくのが普通なので、右肩下がりになるよりはマシと言えるが、やはり、1節と2節の出遅れは非常に気になるところである。これがACLに出場する日本勢の大きな問題点であり、好成績を阻んでいる原因の1つであることは確かである。
ただ、「J1の開幕時期を早めればいい。」と口で言うのは簡単であるが、実行に移すのは相当に難しい。ACLの開幕戦よりも前にJ1の開幕戦を行おうとすると各チームは今よりも2週間ほど始動を早くする必要がある。昨シーズンのように「天皇杯の決勝を早めに行う。」という風に変えてしまえば不可能ではないが、山形など北国のチームは4節あるいは5節あたりまでホームで試合を開催できなくなる恐れがある。
「しのごの言わずに日程はこれまでどおり。各チームがACLの開幕戦に合わせて調整すべき。」という意見もあると思うが、そうなると、長いシーズンを乗り切るのが難しくなる。ACLのステータスが高くて、勝ち進むメリットが大きいのであれば、そういうやり方をするチームも出てくると思うが、現状はそこまでのリスクを賭けるメリットがACLには無い。問題点は見つかるが、解決策はなかなか見つからない。
◆ ACLの第2節のオッズはどうなっているのか??? →
スポーツブックの36BOLで3月3日(火)と3月4日(水)に行われるACLの第2節の日本勢のオッズはどうなっているのか?を調べてみると、柏は「柏が勝利→1.15倍」なので大丈夫と言える。浦和も「浦和が勝利→1.55倍」なのでこちらも問題ないと思われる。また、城南と対戦するG大阪は「ガンバが勝利→2.39倍」。アウェイにもかかわらず「ガンバ勝利」の方が低いオッズになっている。対して、鹿島は「鹿島が勝利→3.01倍」なのでアウェイで苦しい戦いになることが予想されるが、「FCソウルが勝利→2.15倍」なので、『そこまで大きな差があるわけではない。』と思われているようだ。
表3. ACLの第2節のオッズ
E組 | 山東魯能 | 2.41 |
全北現代モータース | 2.74 |
引き分け | 3.12 |
E組 | 柏レイソル | 1.15 |
ベカメックス・ビンズオン | 11.50 |
引き分け | 7.00 |
F組 | 城南FC | 2.71 |
ガンバ大阪 | 2.39 |
引き分け | 3.20 |
F組 | 広州富力 | 1.50 |
ブリーラム・ユナイテッド | 6.59 |
引き分け | 3.55 |
G組 | 浦和レッズ | 1.55 |
ブリスベン・ロアー | 5.91 |
引き分け | 3.50 |
G組 | 北京国安 | 2.13 |
水原三星 | 3.05 |
引き分け | 3.30 |
H組 | ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ | 4.11 |
広州恒大 | 1.79 |
引き分け | 3.32 |
H組 | FCソウル | 2.15 |
鹿島アントラーズ | 3.01 |
引き分け | 3.30 |
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