■ 育成力が高いのは横浜FMと広島とG大阪大きく分けると「高校のサッカー部」と「Jリーグのユースチーム」の2つに分けることができるが、まず最初は「Jリーグのユースチーム」に限定して話を進めていきたいと思う。下の表2はJリーグのユースチームのみで、過去3年間(2012年から2014年まで)の合計をまとめてトータルの出場時間の多いチームから順番に並べたものである。(※ 出場ゼロの選手は人数にはカウントされていない。)
このとおりで出場時間で1位になったのは横浜FMで、のべ人数と試合数も1位だった。DF栗原やMF齋藤学やGK榎本哲など今の横浜FMを支えている選手も多いが、DF丹羽竜(鳥栖)やMF水沼(鳥栖)やMF長谷川(C大阪)など他クラブで活躍している選手が多いのが特徴の1つで、キーパーからフォワードまでどのポジションもまんべんなくいい選手が出てくる点も横浜FMユースの特徴と言える。
出場時間で2位になったのは広島で、のべ人数と試合数は3位で、得点数はJリーグのユースチームの中では一番多かった。横浜FMと同様で(自クラブだけでなく)他クラブで活躍している選手が多い点が特徴で、DF駒野(磐田)、DF槙野(浦和)、DF森脇(浦和)、MF柏木(浦和)などが代表例と言える。大きなブランクもなく、ここ15年ほどは毎年のように優秀な選手を生み出している。
3位になったのはG大阪ユースだったが、結局、横浜FMと広島とG大阪の3チームは、例年、どの項目でも上位に入っており、他のJリーグのクラブと比較すると頭1つあるいは頭2つリードしている。この中で、「広島とG大阪の育成力の高さ」に関してはあらゆるところで語られているので大方の人のイメージ通りだと思うが、横浜FMに関しては意外に感じる人が多いかもしれない。
「3強」に続くのは東京Vである。東京Vは2008年にJ2に降格してからずっとJ2生活が続いている。したがって、「東京Vのユースからトップチームに昇格して東京Vのトップチームで活躍している選手」が対象外となる点は大きなハンディとなる。J1の数字をカウントしているので、全員が東京Vを離れた選手になってしまうが、そういう事情があるにも関わらず4位というのは脅威と言うしかない。
表2. 過去3年間のJ1リーガーの出場時間のランキング (ユース編)
ランク | チーム名 | 2012年-2014年 | 主な出身選手 |
人数 | 得点 | 試合数 | 出場時間(分) |
1 | 横浜FM | 47 | 70 | 1004 | 71,403 | 栗原勇蔵、齋藤学、水沼宏太 |
2 | 広島 | 42 | 84 | 823 | 62,238 | 駒野友一、森崎兄弟、槙野智章 |
3 | G大阪 | 45 | 64 | 842 | 57,664 | 稲本潤一、大黒将志、家長昭博 |
4 | 東京V | 38 | 54 | 766 | 56,239 | 菅野孝憲、森本貴幸、高木兄弟 |
5 | 柏 | 38 | 67 | 676 | 50,580 | 大谷秀和、酒井宏樹、工藤壮人 |
6 | C大阪 | 30 | 69 | 582 | 42,225 | 柿谷曜一朗、山口蛍、南野拓実 |
7 | FC東京 | 33 | 39 | 567 | 40,670 | 武藤嘉紀、権田修一、李忠成 |
8 | 大分 | 21 | 19 | 402 | 30,741 | 西川周作、清武兄弟、松原健 |
9 | 清水 | 24 | 27 | 386 | 26,934 | 山本真希、石毛秀樹、山本海人 |
10 | 千葉 | 13 | 71 | 327 | 25,857 | 佐藤兄弟、阿部勇樹、山口智 |
11 | 浦和 | 22 | 31 | 331 | 21,718 | 原口元気、山田直輝、加藤順大 |
12 | 磐田 | 15 | 18 | 268 | 19,304 | 太田吉彰、上田康太、山本康裕 |
13 | 鹿島 | 11 | 22 | 245 | 19,012 | 曽ヶ端準、野沢拓也、土居聖真 |
14 | 大宮 | 10 | 9 | 202 | 15,489 | 今井智基、金澤慎、新井涼平 |
15 | 札幌 | 12 | 12 | 210 | 15,186 | 西大伍、藤田征也、奈良竜樹 |
16 | 湘南 | 11 | 5 | 186 | 14,244 | 遠藤航、菊池大介、古林将太 |
17 | 川崎F | 7 | 19 | 157 | 12,014 | 永木亮太、高山薫、都倉賢 |
18 | 名古屋 | 14 | 3 | 153 | 10,424 | 吉田麻也、ハーフナー・ニッキ |
19 | 新潟 | 5 | 3 | 100 | 7,541 | 酒井高徳、川口尚紀、泉澤仁 |
20 | 神戸 | 7 | 16 | 101 | 6,732 | 小川慶治朗、岩波拓也、松村亮 |
21 | 京都 | 3 | 6 | 77 | 6,598 | 角田誠、久保裕也、原川力 |
22 | 福岡 | 1 | 2 | 24 | 1,922 | 鈴木惇、安川有、田中佑昌 |
23 | 愛媛FC | 3 | 0 | 33 | 1,751 | 吉村圭司、前野貴徳、藤直也 |
24 | 仙台 | 1 | 0 | 2 | 25 | 奥埜博亮 |
■ 全ての項目で1位となった国見高校今度の表3は高校サッカーに限定したときのランキングである。ここでは1位から30位までを書き出しているが、トータルの出場時間で1位に輝いたのは国見高校で、それだけでなく、のべ人数も、試合数も、得点数も1位だった。上の表2のとおり、Jリーグのユースチームの中で得点数がもっとも多かったのは広島ユースで84得点だったので、114得点という国見高校はダントツの数字である。
当然、1番多いのはFW大久保(川崎F)で3年間で合計48ゴールをマークしている。2位は26ゴールのFW渡邉千(FC東京→神戸)で、3位はMF兵藤(横浜FM)の14ゴールで、4位はMF渡邉大(大宮)の9ゴールで、5位がFW平山(FC東京)で8ゴールとなる。彼らが高校に在籍していた時期は「国見卒の選手は大成しない。」、「時代遅れのサッカー」など一部からの「国見バッシング」は執拗なものがあった。
3位の市立船橋高、5位の鹿児島実業高、6位の藤枝東高、7位の静岡学園高、8位の清水商高などは伝統校と言えるが、このあたりを抑えて2位に入った流通経済大柏高はどちらかというと最近になって台頭してきた学校である。清水のFW大前と名古屋のMF田口を擁して全国制覇に輝いたときの強さは印象深い。流通経済大に進学してからプロの世界で活躍している選手もたくさんいる。
3位に入った市立船橋高はDF増嶋(柏)とFWカレン・ロバート(スパンブリーFC)が在籍していたときの人気は凄まじいものがあった。このあたりの年代の選手がたくさんプロ入りしており、今もいろいろなチームで活躍しているので、3位というのは納得できる。近年は一時と比べると勢いがなくなっているが、それでもMF中村充(鹿島)などが出てきている。キーパーやCBに優秀な選手が多いのが特徴である。
4位は前橋育英高となったが、この学校は優秀なボランチをたくさん輩出している。フランスW杯の日本代表のMF山口素が代表例と言えるが、その後も、MF青木剛(鹿島)、MF細貝(ヘルタ・ベルリン)、MF青木拓(浦和)、MF小島秀(徳島→浦和)などが出てきた。プロ入り後、同じ前橋市で活動するザスパで活躍する選手が多いのも特徴の1つで、MF松下裕(横浜FC→群馬)やMF小林竜(群馬)もOBとなる。
5位の鹿児島実業高は少数精鋭である。人数は少ないが、ほとんどの選手がチームの中心として活躍している。MF遠藤(G大阪)が代表格と言えるが、MF松井大(磐田)とDF那須(浦和)以外にもFW赤嶺(仙台→G大阪)、DF伊野波(磐田)、DF岩下(G大阪)、DF上本(仙台)が活躍している。アトランタ五輪代表チームで大活躍したMF前園(横浜Fなど)とFW城(市原)も鹿児島実業高のOBとなる。
表3. 過去3年間のJ1リーガーの出場時間のランキング (高校サッカー編)
ランク | チーム名 | 2012年-2014年 | 主な出身選手 |
人数 | 得点 | 試合数 | 出場時間(分) |
1 | 国見高 | 34 | 114 | 775 | 56,893 | 大久保嘉人、徳永悠平、平山相太 |
2 | 流通経済大柏高 | 28 | 60 | 617 | 42,469 | 大前元紀、林彰洋、田口泰士 |
3 | 市立船橋高 | 27 | 32 | 507 | 36,548 | カレン・ロバート、増嶋竜也 |
4 | 前橋育英高 | 26 | 31 | 492 | 36,053 | 細貝萌、田中亜土夢、青山直晃 |
5 | 鹿児島実業高 | 17 | 55 | 417 | 33,936 | 遠藤保仁、松井大輔、那須大亮 |
6 | 藤枝東高 | 17 | 36 | 397 | 31,949 | 中山雅史、山田暢久、山田大記 |
7 | 静岡学園高 | 24 | 10 | 382 | 28,629 | 大島僚太、狩野健太、吉田豊 |
8 | 清水商高 | 22 | 15 | 373 | 26,659 | 名波浩、川口能活、小野伸二 |
9 | 桐光学園高 | 19 | 37 | 359 | 26,530 | 中村俊輔、藤本淳吾、田中裕介 |
10 | 青森山田高 | 12 | 14 | 268 | 21,297 | 柴崎岳、ロメロ・フランク、伊東俊 |
11 | 星稜高 | 7 | 60 | 199 | 17,186 | 本田圭佑、豊田陽平、鈴木大輔 |
12 | 習志野高 | 9 | 16 | 217 | 16,234 | 玉田圭司、栗澤僚一、守田達弥 |
13 | 東海大五高 | 8 | 15 | 190 | 14,675 | 藤田直之、末吉隼也、清水航平 |
14 | 奈良育英高 | 9 | 1 | 152 | 12,924 | 楢崎正剛、北本久仁衛 |
15 | 麻布大学附属高 | 6 | 27 | 161 | 12,848 | 太田宏介、小林悠、小野寺達也 |
16 | 金光大阪高 | 4 | 0 | 121 | 10,716 | 林卓人、斉藤大介、中村太亮 |
17 | 帝京高 | 13 | 11 | 211 | 10,682 | 中田浩二、田中達也、関口 |
18 | 滝川二高 | 12 | 19 | 178 | 10,255 | 岡崎慎司、加地亮、金崎夢生 |
19 | 山形中央高 | 6 | 12 | 122 | 10,063 | 菅井直樹、渡部博文 |
20 | 前橋商業高 | 6 | 7 | 116 | 9,443 | 高橋秀人、岩上祐三 |
21 | 熊本国府高 | 6 | 1 | 115 | 9,342 | 藤本康太、西弘則、六反勇治 |
22 | 広島皆実高 | 5 | 4 | 103 | 9,264 | 森重真人、渡大生、朝日大輔 |
23 | 三重高 | 3 | 6 | 102 | 9,180 | 水本裕貴 |
24 | 帝京三高 | 5 | 1 | 111 | 9,154 | 西部洋平、亀川諒史、宮沢正史 |
25 | 三郷工高 | 3 | 6 | 101 | 9,039 | 中澤佑二 |
26 | 鵬翔高 | 5 | 37 | 127 | 8,993 | 興梠慎三、増田誓志 |
27 | 日生学園第二高 | 3 | 3 | 97 | 8,654 | 千葉和彦、尾崎瑛一郎 |
28 | 初芝橋本高 | 8 | 1 | 111 | 8,400 | 酒本憲幸、岡山一成、辻尾真二 |
29 | 大船渡高 | 3 | 6 | 97 | 8,374 | 小笠原満男 |
30 | 琴丘高 | 6 | 6 | 120 | 8,113 | 播戸竜二、増川隆洋 |
■ 30位までに入らなかった名門校というと・・・。上の表3は1位から30位までのチームを記述しているが、いくつかの有名な高校が漏れているので、31位以下で気になったチームをピックアップしてみた。それが表4である。意外に感じるのは東福岡高校で、出場時間は46位と平凡だった。インテルのDF長友はJリーグを飛び越えて海外リーグで活躍しているが、DF長友よりも下の世代というのは絶頂期と比べるとやや小粒になっている。
セクシーフットボールで一世を風靡した野洲高校も58位と低めの順位である。こちらもMF乾はJリーグからドイツに渡っているが、他にはMF村田和(清水)とMF楠神(C大阪)が目立つ程度で、「野洲のOBがJ1で大活躍している。」という流れにはなっていない。MF乾が2年生のときに全国制覇を成し遂げたが、当時の中心選手だったMF青木孝(群馬→未定)も含めて、J2が主戦場になっている選手が多い。
小倉・中西・中田を擁して日本一に輝いた四日市中央工高は冬の選手権ではまずまず安定した成績を残しており、五輪世代のFW浅野(広島)が大きな期待を集めているが、近年、J1で活躍している選手は少ない。もっとも意外に感じるのが清水東高校で、DF内田篤(シャルケ)がいて、FW荒田やMF菊岡などはJ2で活躍しているが、過去3年でJ1でプレーしたのはFW高原(当時・清水)のみとなる。
こうしてユースや高校のOBの顔ぶれを見ていくと、高校のチームの方がOBの特徴がはっきりしている。国見高はフィジカルの強い選手が多くて、野洲高や静岡学園高はテクニシャンが多くて、前橋育英高はボールを捌くことができるボランチが多くて、市立船橋高は統率力のあるCBが目立つ。(※ プロの世界に進むことができた選手に限らず、そういう特徴を持った選手は継続的に出てくる印象がある。)
対してユースチームは目立った傾向はない。その理由として、同ポジションで、年が近くて、似たタイプの選手をトップチームに2人・3人と送り出しても、トップチームの強化につながらないという点が挙げられる。高校の場合、卒業後の進路先は分散されるので、同タイプの選手を何年か続けて輩出することで生じる問題は何もないが、ユースになると問題ありで、この点はユースの育成の難しさである。
表4. トータルの出場時間が31位以下だった主なチーム (高校サッカー限定)
ランク | チーム名 | 2012年-2014年 | 主な出身選手 |
人数 | 得点 | 試合数 | 出場時間(分) |
33 | 作陽高 | 4 | 6 | 94 | 7,868 | 青山敏弘、櫻内渚、平岡翼 |
35 | 大津高 | 10 | 4 | 109 | 7,438 | 巻誠一郎、植田直通、豊川雄太 |
40 | 韮崎高 | 4 | 9 | 101 | 7,017 | 羽中田昌、中田英寿、柏好文 |
41 | 八千代高 | 9 | 8 | 143 | 7,007 | 羽生直剛、米倉恒貴、山崎亮平 |
46 | 東福岡高 | 9 | 7 | 119 | 5,961 | 本山雅志、長友佑都、古賀正紘 |
54 | 鹿児島城西高 | 2 | 28 | 65 | 5,359 | 大迫勇也、大迫希、吉井孝輔 |
58 | 野洲高 | 9 | 11 | 151 | 5,069 | 乾貴士、村田和哉、楠神順平 |
63 | 立正大淞南高 | 7 | 14 | 94 | 4,184 | 岡野雅行、金園英学、松田兄弟 |
71 | 四日市中央工高 | 7 | 0 | 57 | 3,485 | 小倉隆史、中西永輔、坪井慶介 |
98 | 富山第一高 | 3 | 6 | 49 | 1,848 | 柳沢敦、中島裕希 、西野泰正 |
118 | 清水東高 | 1 | 1 | 18 | 627 | 杉山隆一、高原直泰、内田篤人、 |
129 | 東海大一高 | 1 | 0 | 6 | 346 | 澤登正朗、森島寛晃、伊東輝悦、 |
132 | 武南高 | 2 | 0 | 6 | 291 | 上野良治、室井市衛、大熊裕司 |
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