■ 日本サッカー界の弱点「日本サッカー界の弱点」と言われて久しいポジションがCBとGKの2つである。「ある程度以上のサイズが必要とされるポジションであること」、「育成するのは難しいポジションであること」などなど、いくつかの理由から「世界基準で考えると、質も、量も十分とは言えないポジションである。」と考えている人がほとんどである。
このことは欧州リーグで活躍するGKやCBがほとんど出てきていない点からも明らかである。もちろん、コミュニケーションが必要なポジションなので、外国籍の選手が食い込むのは難しいという事情もある。同レベルの実力であるならば、「自国の選手を優先するのがベター」という考え方もあると思うが、それにしても寂しい限りである。
一時期、ボランチが本職と言える元日本代表のDF中田浩がバーゼルでCBのポジションで活躍したが、それ以外で一定以上の活躍を見せたのはベルギーリーグのGK川島と、VVVとサウサンプトンでプレーしているDF吉田の2人くらいである。そもそもとして、GKやCBになると海外のクラブからオファーを受けることが自体が珍しい。
■ 「世界基準のCB」になれそうな選手キーパーについては、今、GK川島がベルギーのトップクラブの1つであるリエージュで頑張っているが、後に続く選手はなかなか出て来ない。欧州でプレーした経験のあるGK林彰(鳥栖)が「もっとも欧州リーグに近い日本人キーパー」と言えるが、欧州リーグでの「日本人キーパーの実績」が乏しいので、欧州でプレーする機会を得ること自体が難しい。
一方のCBはDF吉田がプレミアリーグでよく頑張っているが、近年になって「世界基準のCB」になれそうな選手がようやく出てきた。G大阪のDF西野にも大きな期待がかかるが、やはり、DF岩波(神戸)とDF植田(鹿島)の2人である。アジア大会でもコンビを組んだが、186センチの選手が日本代表の最終ラインに2人並んでいるというのは新鮮である。
この2人については、その魅力が186センチのサイズだけでないところに大きな可能性を感じる。CBで186センチというのは世界基準で考えると「標準レベル」と言えるが、プラスアルファで武器になるものをいくつも持っている。今後、この2人がどんなキャリアを歩んでいくのか?というのは日本のサッカーファンの楽しみの1つになるだろう。
■ 大きな武器となるフィード力神戸の下部組織出身で20歳のDF岩波はプロ1年目の2013年から神戸の主軸として活躍している。昨シーズンはJ2リーグでプレーして神戸のJ1昇格に大きく貢献して、今シーズンはJ1リーグの舞台でプレーしているが、CBの主軸であるDF河本とDF北本の2人が怪我や病気のために満足に試合に出場できなかった時期にチャンスをつかんだ。
過去にも大型CBとして大成が期待された選手は何人かいるが、10代の頃から出場機会を得るのは難しい。Jリーグには小柄なアタッカーが多いので、そういう選手と対峙するときも問題なく対応できないとJクラブでレギュラーを掴むのは難しい。遠回りするケースが多いが、DF岩波はチーム事情もあって早くから出場機会を得ることができた。
大きな特徴の1つと言えるフィードについては、今の時点でも日本人のCBの中ではトップクラスと言える。右足でのサイドチェンジを得意としているが、ロングボールを蹴ったときの球質の良さというのは日本人のCBの中では群を抜いている。精度が高いだけでなく、受け手に優しいロングパスを蹴ることができるのがウリの1つとなる。
そして、長いボールを蹴るだけなくて、短いパスも正確につなぐことができるし、楔のパスを通すこともできる。「フィードがうまい。」と評される選手であっても、長いレンジのパスか、短いレンジのパスか、どちらか片方だけという選手も少なくないが、DF岩波は長いレンジのパスも、短いレンジのパスも、どちらのレンジのパスも得意にしている。
■ どんな場面でも冷静にプレーできること守備に関しては、まだ完全には体が出来上がっていないので、プレーがソフトになることもある。「強さ」や「激しさ」といった部分はもうワンランク上のレベルに達することができると思うが、186センチの高さがあって、落下点の予測もまずまずなので、イーブンの状態で相手選手とハイボールの勝負になったときは簡単に競り勝つことができる。
シュートブロックというのも特徴の1つで、さらには、先のアジア大会でも2度ほど見られたが、キーパーがゴールマウスを飛び出してしまった後、ゴールライン上でボールをクリアするシーンは多い。神戸でプレーしているときにもそういうシーンをよく見るが、「守備のセンス」を持ったCBであることもDF岩波の特徴の1つと言えるだろう。
そして、何と言っても、「精神的に落ち着いているところ」である。もしかしたら、高さやフィード力以上にDF岩波の武器と言えるのかもしれない。自分のミスなどで失点をしたときは冷静さを失ってしまう選手もいるが、DF岩波は精神的に安定している。異議などで余計なイエローカードをもらうこともほとんどなくて、精神的にも成熟している。
■ 日本人の大型CBで珍しいタイプここ20年ほどを振り返ってみても、日本代表クラスのCBというのは闘争心旺盛なタイプが多かった。オフトジャパンや加茂ジャパンや第一次岡田ジャパンで守備の要だったDF井原は数少ない例外と言えるが、パートナー役を務めることが多かったDF柱谷やDF秋田やDF小村は激しさや熱さや闘争心を全面に押し出して戦うタイプだった。
その後を継いだトルシエ監督は「フラット3」を採用したこともあって、頭のいい選手を重宝した。DF森岡、DF宮本、DF中田浩などはクレバーさをウリにするタイプだったが、右ストッパーのDF松田はエネルギッシュなCBだった。冷静沈着な選手がほとんどの最終ラインの中でDF松田は異色の存在だったが、彼の熱さはアクセントになった。
「日本代表史上最強のCBコンビ」と言われることが多い南アフリカW杯のときのDF闘莉王とDF中澤の2人も熱さを持った選手で、ザックジャパンの主力だったDF今野やDF吉田もどちらかというと試合中に熱くなるタイプだった。したがって、DF岩波のように大型CBで冷静なタイプというのは日本代表クラスのCBでは珍しいと言える。
■ 大事に育てていかなければならないタレント数少ない課題と言えるのは小柄なアタッカーへの対応の仕方となる。クイックネスがある方ではないので、スピードやキレで勝負するアタッカーと対峙した時に脆さを見せることがある。また、経験豊富なベテランフォワードと対戦するときに翻弄される場面も見受けられる。東京Vでプレーしていた元日本代表のFW高原にやられた試合が印象的である。
ほとんどの能力も同じであるが、特に「クイックネス」というのは磨こうとして磨くのは難しい能力の1つである。これからこの部分が劇的に改善されることは考えにくいが、試合経験を積むことである程度は「経験」でカバーできるようになるだろうし、今回のアジア大会においては、スピードで翻弄される場面というのは1度もなかった。
1993年と1994年生まれの世代は幸いにして、DF岩波、DF植田、DF西野と185センチを超える長身で、かつ、それ以外にもたくさんの武器を持った有望なCBが3人も出てきた。リオ五輪代表チームの大きな武器と言えるが、そのさらに下の世代にも彼らのようなサイズと可能性のあるCBが出てきているかというと今の段階では「No」である。
彼らのようなCBが継続的に輩出されるようになってくると日本サッカー界はさらに上のレベルに到達することができるが、そのレベルに達するにはまだまだ時間がかかるようだ。なので、なおさら、こういう素材というのは大事に育てて行かなければならないし、サッカーファンから大きな期待がかけられるのは間違いないところである。
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