■ PKのジャッジは妥当だったか?サンパウロで開催されたブラジルとクロアチアの開幕戦は3対1でブラジルが逆転で勝利した。2ゴールを挙げたFWネイマール、3つのゴール全てに絡んだMFオスカーという注目の若手2人が主役になったが、レアル・マドリーのMFモドリッチを中心としたクロアチアの中盤の構成力の高さも光った。いきなりの好カードだったが、期待どおりかそれ以上の好ゲームだったと言える。
開幕カードは日本人のトリオ(西村さん、相楽さん、名木さん)が主審&副審を担当することになった。何事もなく平穏無事に終わればよかったが、ブラジルの逆転ゴールとなるMFネイマールのPKにつながったFWフレッジとDFロブレンの攻防に関しては、「ノーファールだったのではないか?」、「PKに値するプレーではなかった。」という意見も出ており、賛否両論である。
「誤審」とメディアで報じられる可能性もあるが、まず言えるのは「誤審」ではないということである。サッカーの場合、「ファールとも言えるし、ノーファールとも言える。」というグレーゾーンがあって、このシーンは完全にグレーゾーンである。『西村さんが正しい。間違いなくPKである。』とは言えないが、『完全に間違っている。これは誤審だ。』と断定することもできない。
これと同じようなシーンに直面したとき、PKを取る主審もいるだろうし、PKを取らない主審もいるだろう。何となくのイメージでは、前者(=PKを取る)が20%程度で、後者(=PKを取らない)が80%程度になると思うので、実際のところ、PKを取らない主審の方が多いとは思うが、どちらか一方だけが正しくて、どちらか一方だけが間違っているわけでない。
ただ、クロアチアの選手やサポーターが「PKではなかった。」と憤慨する気持ちは分かる。常識の範囲内であれば、文句を言う権利はあると思うが、そうは言っても、最終的にはグレーゾーンのジャッジに関しては「審判の判断」を受け入れるしかない。どのように判断しても不利益を被った側から批判をされる。「ジャッジに不満を持っている人がいる=誤審」とは言えないのである。
■ 国際映像で流れた3つのリプレーこのシーンは見る角度によって印象が大きく変わる。国際映像ではPKが宣告された直後に3回リプレーが流れたが、最初の映像はゴール裏の方向にあるカメラから撮った映像だった。これを観るとCBのDFロブレンは何もしていないように見えた。なので、最初にリプレーを観たときは、「これはマズイ。」、「揉め事になりそう。」、「西村さんはやってしまったなあ・・・。」と思った。
ただ、2つ目の映像と3つ目の映像で印象は変わった。2つ目は逆サイドのゴール裏から撮った映像になると思うが、DFロブレンの左手がFWフレッジの左肩を掴む感じになっている場面がばっちりと映っている。そして、最後に流れた3つ目の映像はFWフレッジが左足でシュートを打とうとしているところをDFロブレンが左手を使って大きな力で妨げているように見える。
3つ目の映像はバックスタンド側にあるカメラで撮った映像で、副審の名木さんがいた方角にあったカメラだと思うが、西村さんのポジションから推測すると、西村さんが実際に自分の目で見たのは3つ目の映像に近かったと思う。そうなるとDFロブレンが手を使って引き倒したように見えても不思議はないし、毅然として態度でPKスポットを指差したのも納得できる。
どの位置のカメラで撮った映像を見るかで印象が大きく変わってくるのは興味深いところである。3つの映像全てを繰り返し見ていくと、「ちょっとPKは厳しいかな・・・。」と思うが、当然、主審は1つの方向からしか見えておらず、しかも、瞬時に判断を下さなければならない。ペナルティエリア内の攻防を正しくジャッジすることの難しさがよく分かるワンシーンだったと言える。
■ FIFAの評価はどうなるか?こういう感じで賛否両論渦巻く状態になるとFIFAによる3人の評価が低くなる可能性は否定できないが、ゴール前で守備側の選手が手を使って相手の動きを阻止しようとするプレーに関して、西村さんが神経質になっていたのは明らかである。それは、前半の早い時間帯にあったブラジルのCKのときに、キックの直前に笛を吹いて両チームの選手に注意したことからも推測できる。
FIFAの上層部から「W杯では手を使う行為を厳しく取り締まるように!!!」という通達が出ていた可能性は非常に高いが、「今大会のジャッジ基準を示すことができた。」という意味では開幕戦の主審としての役目を十二分にこなしたという考え方もできる。クロアチアの選手やスタッフが判定に文句を言っていることと、FIFAが下す西村さんへの評価というのは次元の異なる話である。
なかなか大変なシーンに直面してしまったが、重大局面で逃げることなくPKというジャッジを下した西村さんの決断力は評価したいところである。結局のところ、試合後に審判の判定で大きな騒動になるのは、PKを取ったときとレッドカードを出したときの2つである。微妙なシーンでPKを取らなかったり、レッドを出さなかった場合は大きな騒動になりにくい。
Jリーグでも試合中にほとんどPKを取らない主審が何人かいるが、PKを取らなかったり、レッドを出さない方が無難である。ジャッジに注目が集まりにくくなって、批判される可能性も低くなるが、そういう姿勢が審判として正しいかというとそういうわけではない。開幕戦という大きな注目が集まる中、「ブラジルのPK」とジャッジした西村さんの勇気は称えたいところである。
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