■ 第42節J2の第42節。19勝13敗9分けで勝ち点「66」のV・ファーレン長崎(4位)と、19勝15敗7分けで勝ち点「64」の徳島ヴォルティス(6位)が長崎県立総合運動公園陸上競技場で対戦した。J2のPO争いは「京都の3位」は確定しているが、残りの3枠を巡って4位の長崎、5位の千葉、6位の徳島、7位の札幌、8位の松本山雅の5チームが争っている。4位の長崎は「引き分け以上」、6位の徳島は「勝利」という結果をつかむと(無条件で)PO出場が決定する。
ホームの長崎は「3-4-2-1」。GK金山。DF岡本、山口、高杉。MF岩間、井上、金久保、古部、神崎、佐藤洸、奥埜。FW幸野。シャドーの位置で起用されているMF佐藤洸がチームトップの12ゴールを挙げている。複数の選手でスタメンの座を争っているウイングバックは、MF古部とMF神崎が起用された。MF神崎は今シーズン11回目のスタメンとなる。5ゴールを挙げているFW水永、プレイスキックに定評のあるMF金久保はベンチスタートとなった。
対するアウェーの徳島は「4-2-2-2」。GK松井。DF藤原、千代反田、橋内、アレックス。MF柴崎、濱田、宮崎、大崎。FW津田、ドウグラス。エースのFW津田は39試合で14ゴール、FWドウグラスは28試合で12ゴールを挙げている。広島からレンタル移籍中で2列目で起用されているMF大崎は40試合で8ゴールを挙げている。徳島は今シーズンはCBに怪我人が続出しているが、この試合はDF橋内とDF千代反田のCBコンビとなった。
■ 1対0で徳島が勝利試合の前半はホームの長崎ペースとなる。「引き分け以上」で自力でPO出場を決めることができる長崎は、U-20日本代表のFW幸野が積極的にシュートを放って攻撃をリードする。シュートの意識が高い長崎は前半だけで10本のシュートを記録したがゴールは生まれず。対する徳島は相手のプレスを掻い潜ることができなくて、前半はシュートなし。シュート本数の差ほど「内容の差」は無かったが、それでも長崎が優勢でハーフタイムに突入する。
後半になると、前半に上に長崎が勢いよく攻めてきてゴール前の際どいシーンを作るようになる。防戦一方になりかけた徳島は後半15分にエースのFW津田をベンチに下げて、ベテランのDF斉藤を投入。点が欲しい状況にも関わらず、2トップから1トップに変更して試合を落ち着かせようとする。すると、後半22分にMF斎藤を起点に、トップ下にポジションを移していたMF柴崎のパスからMF宮崎が押し込んで劣勢だったアウェーの徳島が先制に成功する。
後半25分に長崎はFW水永とMF金久保を投入。人数をかけて同点ゴールを狙うが、後半34分に長崎の右ストッパーのDF岡本が一発レッドで退場。1点ビハインドの長崎が10人となる。10人になった後も長崎がボールを保持して攻め込んだが、同点ゴールは生まれず。結局、4位の長崎と6位の徳島の直接対決は1対0でアウェーの徳島が勝利して勝ち点「3」を獲得。長崎と千葉を抜いて4位でPO出場が決定して、1回戦はホームで千葉と対戦することになった。
■ 昇格初年度で6位試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、徳島のPO出場が決定したが、長崎に関しては、どうなったか、はっきりしなかった。札幌が勝利した場合、札幌も勝ち点「66」になって、千葉・長崎・松本山雅・札幌の4チームが勝ち点「66」で並んで、そうなると、得失点差の関係で千葉と札幌が「圏内」になって、長崎はPOの出場権を得ることが出来なかったが、幸いにして、札幌が引き分けに終わったので、長崎も6位でPOの切符を獲得することができた。
長崎は41節は松本山雅(H)、42節は徳島(H)と対戦した。ともにPOを狙っているチームであるが、ホーム2連戦ということで、有利な立場だった。2試合とも1万人を大きく超える観衆が集まって雰囲気も良かったが、2試合とも0対1で敗れた。2対0で勝利した40節の千葉戦(A)の戦いは見事で「4位でPO出場」という可能性が高まっていたので、一番下の順位である6位でPOに進むことになったのは残念に感じるが、それでも、J2初年度で6位というのは見事である。
攻撃においては、武器を持った選手・武器を生かせる選手が揃っている点が強みである。MF佐藤洸は得点感覚、MF奥埜はテクニックとサッカーセンス、FW幸野は運動量とテクニック、FW小松はスピードと高さ、FW水永は強さと高さ、MF古部は縦への推進力、MF金久保は右足のキック、MF山田晃はドリブルがセールスポイントとなるが、高木監督は彼らが持っている「いい部分」だけがクローズアップされるようにうまい具合にチームに落とし込んできた。
J2に昇格して1年目の長崎の場合、クラブとしての「格」が不足しているので、十分な資金力があったとしても、総合力の高い選手を獲得するのは難しい。したがって、ビッグネームを獲得するのは難しいが、補強した選手の顔触れを見ると、「武器を持っているにも関わらず前のチームでは生きなかった選手(生かされなかった選手)」がほとんどで、高木監督が埋もれていた部分を引き出して、選手を輝かせることに成功した。
■ 4位で初のプレーオフ出場一方の徳島はあまり自分たちのサッカーはできなかったが、何とか失点をせずに時計を進めると、後半22分にゴール前に飛び出して行ったMF宮崎が決めて値千金の決勝ゴールを奪った。その後も長崎が攻め込む時間が続いたので、後半34分に長崎のDF岡本が退場になって数的優位になるまでは落ち着くことのできる時間はほとんどなかったが、しぶとく1対0で逃げ切って「4位」とアドバンテージを持ってPOに進むことになった。
ポイントになったのは、後半15分にFW津田を下げて、ボランチのMF斉藤を投入した選手交代である。引き分けに終わっていたら、長崎はもちろんのこと、千葉や松本山雅よりも下の順位になっていたので、ストライカーを下げてボランチを投入するというのは、「セオリーに反する交代カードの切り方」と言えるが、MF斉藤を投入したことで幾分かは、相手のパワーを押さえることが出来て、さらには、MF斉藤のパスが決勝ゴールの起点になった。
「このままではマズイ。」という徳島がエースを下げるという選手交代を行うのはリスクがある。日本代表の試合でもそうであるが、「攻撃的なポジションの選手を投入すればチームが攻撃的になる。」と考えている人は多いので、例えば、負けている状況でザッケローニ監督が「守備的なポジションの選手を投入する。」という交代をしたら、ヒステリーを起こす人もいる。結果が出なかった場合、(詳しくない人に)批判されやすい交代策である。
ただ、後半の立ち上がりから長崎が攻め込んできたので、小林監督の中には、「ここで食い止めないとマズイ。」という判断があったと思う。そして、長崎の攻撃を食い止めることができたとしても、徳島がガムシャラにゴールを狙いに行かなければならない時間帯は確実にやってくるので、大きな決断だったと思うが、非常に効果的な交代となった。この試合で徳島が勝利して、4位という順位でPOに進むことができた要因の1つであることは間違いない。
結局、POの1回戦は、3位の京都 vs 6位の長崎、4位の徳島 vs 5位の千葉のマッチアップとなったが、一番、楽な気持ちで戦えるのは長崎だろう。長崎の場合は、1回戦で負けてしまったとしても、2013年は大成功のシーズンと言えるので、無欲に近い精神状態で戦うことができる。逆にプレッシャーがかかるのは、J1経験の豊富な京都と千葉の2チームである。J1に昇格できないと大きな批判を浴びるだろうし、大木監督あるいは鈴木監督の立場は危うくなる。
徳島はその中間と言える。4位になった2011年以来のJ1昇格のチャンスで、2度目のチャンスとなるので、クラブも、選手も、サポーターもPOに賭ける思いは強いと思うが、入れ込み過ぎると逆効果となる。長崎に近い精神状態で戦えるか、京都や千葉に近い精神状態になってしまうのか。POに進出した4チームの実力差はさほど大きくないので、精神状態が勝負の行方を左右するポイントの1つになるのではないか。
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