■ 今シーズン限りで退団セレッソ大阪のレヴィー・クルピ監督(60歳)が今シーズン限りでチームを離れることになった。天皇杯はすでに敗退しているので、J1の33節の鹿島戦がホームでの最後の試合となる。クルピ監督は、一度、2011年シーズン終了後にチームを離れたが、2012年の途中にC大阪の監督に復帰して「J1残留」を果たすと、2013年は32節が終了した時点で「リーグ4位」と好成績を残しており、初優勝の可能性もわずかに残している。
クルピ監督が育てた選手はたくさんいる。先日のベルギーとの試合は、FW柿谷、MF香川、MF清武、MF山口螢と教え子である4人がスタメンで起用されて、さらに、MF乾もベンチに控えていた。近年、海外組が増加しており、日本代表選手の所属クラブがバラバラになっているが、C大阪というクラブで力を伸ばした選手がこれだけたくさんいるというのは、コンビネーション等のことを考えても有益なことである。
2012年のロンドン五輪で4位になった関塚ジャパンも、C大阪で育った選手が一大勢力を築いていた。MF清武、MF山口螢、MF扇原、FW杉本(当時は東京V)の4人が最終登録メンバー18人に選ばれて、MF清武、MF山口螢、MF扇原の3人は五輪代表の心臓だったが、使い勝手がいいというか、適応能力が高いというか、クルピ監督の指導を受けた選手は、海外のクラブに移籍しても重宝されており、「使いやすい選手」、「使われやすい選手」をたくさん育ててきた。
日本人だけでなく、韓国代表でプレミアリーグでプレーしているMFキム・ボギョンもクルピ監督によって育てられた選手で、GKキム・ジンヒョンは無名の大学生から韓国代表キーパーに育った。唯一、FW柿谷に関しては、クルピ監督も、一度、さじを投げており、徳島の美濃部監督が手塩にかけて育てた選手と言えるので、「クルピ・チルドレン」に入れていいのかどうか、微妙なところはあるが、いずれにしても、優秀な選手をたくさん育ててきた。
■ クルピ監督は何が優れているのか?なぜ、クルピ監督はたくさんの優秀な選手を育てることができるのか?1つには「こいつはいける。」と思った選手は、何があっても使い続ける頑固さを持っている。個人的に印象に残っているのは、MF乾(現フランクフルト)のケースである。C大阪がJ2に所属していた2009年の夏場にMF乾がスランプに陥って「全くダメ」という状態がかなり続いたが、それでも、MF乾をスタメンから外すことはなかった。
MF清武は2010年に大分からC大阪に移籍してきたが、当初は、MF香川、MF乾、MF家長の控えだった。結局、シーズン前半戦はほとんど出番は無かったが、MF香川のドルトムント移籍が決定すると、すぐにMF清武を後釜に指名して、その後は、ずっと試合で使い続けた。MF清武の場合は、ある程度の能力を備えた状態で移籍してきたが、海外のクラブに移籍したり、日本代表の常連になるようなレベルに達したのは、クルピ監督の力が大きかったと思う。
特徴と言えるのは、早い段階から「自由」と「責任」を与えて、チームの軸に据えることである。「上の立場の選手が次々にいなくなる。」というチーム事情もあって、新しい選手が出てきやすいというところはあるが、『若い選手の潜在能力を見極める眼』を持っていて、かつ、抜擢するタイミングも優れているので、クルピ監督が「いける」と判断して抜擢された選手が失敗に終わったケースは(ブラジル人を除くと)皆無に近い。
そして、MF香川、MF乾、MF清武などが育ったことから、「クルピ印」はブランド化している。18歳のMF南野が「次代のミスターセレッソ」と言われていて、なかなかゴールという結果が出なかった時期もスタメンで起用されていたが、身近な先輩が次々に成功しているので、本人もその気になっていて、周囲の人も「MF南野も凄い選手になるだろう。」と太鼓判を押している。成功例がたくさんあると、後に続く選手の成功率も高くなる。
■ 一番の功績もちろん、「勝てる監督かどうか?」、「チームを勝たせることのできる監督かどうか?」というと、微妙なところはある。一応、2013年のリーグタイトルの可能性は残しているが、首位の横浜FMが連敗して、4位のC大阪が連勝することが最低条件なので、無冠のままでチームを去る可能性が高くなっている。タイトル数というのは、優秀な監督であるかどうかを判断するときの1つの材料になるので、その点を重視して、監督としてあまり評価しない人もいるだろう。
それも1つの見方だと思うが、個人的には、無冠だからと言って、クルピ監督の評価が下がるわけではないと思う。当然、結果というのは大事なものであるが、クルピ監督はそれ以上のものを残しているので、「タイトル数」というのは、クルピ監督を評価するときの重要ポイントではないと思う。むしろ、そこにこだわり過ぎるのは、クルピ監督という人の本質を見誤ることになるので、避けた方が無難である。
6年半ほど前にC大阪でボランチのポジションでプレーする18歳のMF香川のプレーを観たとき、大きな衝撃を受けたが、それでも、5年後、マンチェスターUでプレーするような選手になるとは全く想像できなかった。さらには、MF乾も、MF清武も、MFキム・ボギョンも、C大阪に加入した当初は、欧州の3大リーグでプレーするような選手になるとは想像できなかったが、みんな予想以上の成長を遂げて世界に旅立っていった。
中でも、MF香川が一番の愛弟子と言えるが、日本人のサッカー選手にも、無限の可能性が秘められていることを日本中に示したことが、クルピ監督の一番の功績ではないかと思う。ブラジル時代も多くの選手を一流選手に育てたと言われているが、「日本人だから。」と色眼鏡で見ることなく、純粋にサッカー選手としてどうなのかを評価することができたので、これまでに存在していた「日本人」という枠組みから外れた世界基準の選手を育てることができたと思う。
Jリーグの試合を観ていて、楽しいことの1つは、若い選手が出てきて、いいプレーをして、自信を付けて、デビューした当初には全く予想できなかったほどの活躍をして、選手として、あるいは、人間として成長していく姿を観察することであるが、2007年の途中にC大阪の監督に復帰してから、そういう例をいくつも見せてくれた。記録的にはそこまで優れた監督とは言えないが、間違いなく、記憶に残る指導者で、誰からも愛された指導者だったと言える。
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