■ ダービーとクラシコダービー(クラシコ)について、Wikipediaでは、「まず都市単位や州単位による地理的な要因によって発生して、その上に様々な特性が加わりながら両者の間に敵対心が芽生え始めてダービーマッチへと発展する。」、「その主な特性としては、社会階級や所得格差などによる社会的な特性や宗派・民族間の対立などによる政治的な特性、クラブチーム同士が持つ過去の禍根などによる歴史的な特性が挙げられる。」と説明されている。
まず、ダービーなのか、クラシコなのか。ダービー(=Derby)は英語で、クラシコ(=Clásico)はスペイン語となるが、日本では、ダービーも、クラシコも、ほとんど同じ意味で使用されているような気がする。近年、Jリーグでも、ダービーあるいはクラシコと銘打った試合がたくさん組まれるようになったが、言いだしっぺの人が「ダービー」と呼ぶのか、「クラシコ」と呼ぶのかを決めてしまって、その後は、1つの呼び方で定着していくのが、パターンになっている。
日本で「ダービー」あるいは「クラシコ」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、『横浜ダービー』だと思う。Jリーグが始まった当初、横浜マリノスと横浜フリューゲルスの2チームの試合が「ダービー」と呼ばれて盛り上がったことを記憶している人はたくさんいると思う。その後、いろいろなことがあって、現在は、横浜Fマリノスと横浜FCの試合が「横浜ダービー」と呼ばれるようになったが、他のダービーやクラシコとは全く違う因縁があるので、熱くなる気持ちは分かる。
その他では、「大阪ダービー」、「静岡ダービー」、「埼玉(さいたま)ダービー」、「千葉ダービー」、「東京ダービー」などが、大きな注目を集めるダービーマッチと言えるが、市や県を超えたダービー(クラシコ)もある。もっとも有名なのは、やはり、川崎FとFC東京が戦う「多摩川クラシコ」で、言い始めた当初は、「なんでそんな大袈裟な名前を付けたのか?」、「クラシコって・・・。」という批判も受けたが、完全に定着していて、盛り上がりも凄い。
一方で、ちょっと強引さを感じるダービー(クラシコ)もある。川中島ダービー(甲府×新潟)、天地人ダービー(山形×新潟)、富士山ダービー(清水×甲府)などで、2都市で全く因縁が無いわけではないが、「無理があるなあ・・・。」と感じるときもある。ただ、ダービー(クラシコ)と銘打つことで、一般の人たちにアピールしやすくなるのは間違いないところで、「何とかして対戦を盛り上げたい。」という気持ちはよく分かるので、否定する必要はない。
■ 「クラシコ」というDVD多摩川クラシコの場合、2007年の対戦からこのように呼ばれるようになったので、歴史は浅いが、最近、注目されるようになったのは、長野県にある2チームのダービーマッチで、松本山雅とAC長野パルセイロのカードである。2012年から松本山雅はJ2に所属しており、長野はJFLなので、ここ最近は、ダービー(クラシコ)からは遠ざかっているが、北信越リーグの頃から相当に盛り上がっていたことは、サッカーファンには知られている。
因縁のカードとして、広く知られるきっかけになったのは、2010年に公開された『クラシコ』というドキュメンタリー映画である。ともに「北信越リーグ」に所属していた2009年の戦いをフィーチャーしたもので、公開当時から、かなり話題になっていて、DVD化もされているが、先日、「
クラシコ
」のDVDを購入して視聴した。なぜ、この2チームは対立しているのか、互いにどんな感情を抱いているのか、よく伝わってくる良作に仕上がっていると思う。
結局、2009年の北信越リーグを制したのは、JAPANサッカーカレッジだった。現在、J1のアルビレックス新潟でレギュラーのCBとして活躍しているDF舞行龍ジェームズが所属していたが、この年、北信越リーグに参加していたのは、次の8チームである。『クラシコ』というタイトルなので、長野と松本山雅の2チームを追ったドキュメンタリー映画と思われているところもあるが、FC上田ジェンシャンなど、その他のチームも適度にフィーチャーされている。
・JAPANサッカーカレッジ
・AC長野パルセイロ
・ツエーゲン金沢
・松本山雅FC
・サウルコス福井
・グランセナ新潟FC
・FC上田ジェンシャン
・ヴァリエンテ富山
ちなみに、北信越という場合は、新潟県・長野県・富山県・石川県・福井県の5つの県を指す。(※ 北陸は富山県・石川県・福井県の3つ。)その後、松本山雅がJ2に昇格して、長野と金沢がJFLに昇格しているが、2009年の北信越リーグには、強豪チームが揃っていたことが分かる。(結局、2009年の北信越リーグの最終順位は、JAPANサッカーカレッジが1位で、長野が2位で、金沢が3位で、松本山雅は4位だった。)
■ 松本と長野の対立関係2009年シーズンの北信越リーグの戦いが中心となるドキュメンタリーなので、思うような結果を残すことができなかった長野のサポーターや松本山雅のサポーターの落胆する姿もDVDに出てくるが、なぜ、松本山雅と長野の2チームは対立しているのか。何も知らない他県の人には理解しにくいところもあるが、明治時代の廃藩置県による「藩」から「県」への変更と、その後の合県・分離政策が引き金になっているというので、100年以上に渡る因縁がある。
信濃の14県は、北信・東信エリアが「長野県」、松本のある中信・南信そして飛騨国が「筑摩県」となり、その筑摩県の県庁舎が松本町に設置されたのです。約5年間、松本は県庁所在地だったのです。しかし、明治9年の県庁舎焼失による混乱の間に、筑摩県(飛騨国を除く)は、長野県へ併合されました。県庁舎焼失には、一説に放火であったとも言われています。国策が大きく作用した出来事であるが、その後、二度と、松本に県庁が設置されることはなかったのです。(http://www.nova-city.jp/deta/matumoto/s0307.html)以前、松本市にあるアルウィンに行ったとき、試合が終わって、アルウィンから松本駅前にあるバスターミナルに戻るシャトルバスの中で、席が隣になった市内在住と思われる松本山雅の(40代か50代くらいでイチローファンの)女性サポーターと話をした。そのとき、話題になったのは、松本山雅のAC長野パルセイロの対立の話で、「何でそんなに対立しているのか、ちょっと理解できない。」という質問をしたところ、率直にいろいろと答えてくれた。
その方は松本側の人なので、対立関係にある(とされる)長野側の人にも言い分があると思うので、片方からの見方になってしまうが、『長野の人が松本のことを上から目線で見てくることが気に入らない。』という趣旨の話をしてくれた。そして、子供の頃から、「長野の人は嫌な奴らだ。」と刷り込まれて生きてきたので、長野パルセイロに負けることは許されないし、公式戦だけでなく練習試合でも負けたらダメであると熱く語ってくれた。
■ 新しいダービーの形ただ一方で、「今は松本山雅がJ2で、長野はJFLなので、最近はダービーが出来ていない。」、「早くパルセイロにもJ2に上がってきて欲しい。」という話もしていた。長野市と松本市の対立構造は、松本の人が長野のことを強く意識していて、長野の人は何かに付けて突っかかって来る松本の人たちをめんどくさく感じているという構図のようだが、サッカーに限っては、もう少しスマートで、「一緒に大きなクラブになりたい。」という思いはビシビシと伝わってくる。
一番、近くにあるクラブというのは、意識せざる得ない。ただ、熱くなりやすい要素が満載なので、これまでは、ツマラナイ人たちのツマラナイ言動が盛り上がりに水を差すこともあった。欧州や南米の本場のクラシコやダービーの悪いところだけを真似して、大きな騒動に発展することもあったが、根深い因縁関係を持つ松本山雅と長野パルセイロの「信州ダービー」は、今後、どういう風に発展していくのだろうか・・・。
長野パルセイロはスタジアムの問題があって、今シーズン、JFLで上位に入っても、J2に昇格することはできないが、美濃部監督の下、JFLでは2位のカマタマーレ讃岐に勝ち点「1」差を付けて首位を走っている。実力的にはJ2に昇格できるだけのものを持っているので、近い将来、J2に昇格するのは確実な情勢である。作られたダービーやクラシコではないので、負の感情が渦巻くダービーマッチとなる可能性も無いとは言えないが、作られたダービーやクラシコではないからこそ、日本の中の新しいダービーマッチの形を示してくれるのではないか?という期待感もある。
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