■ 松田浩監督が退任J2の栃木SCは9月13日(金)に松田浩監督が退任となって、川崎Fや鳥栖などで監督を務めた経験のある松本育夫監督の就任を発表した。メキシコ五輪の銅メダルメンバーの1人である松本監督は71歳で、Jリーグ史上初となる「70代の監督」となる。2004年から2006年の3年間と、2010年の1年間、鳥栖の監督を務めているが、実際には、2010年は尹晶煥現監督が舵取りを任されていたので、本格的に監督の椅子に座るのは、2006年以来なので、久々である。
松田監督は栃木SCの監督に就任して5年目のシーズンだった。JFLから昇格してきて1年目の2009年は17位だったが、2年目の2010年と3年目の2011年は10位で、4年目の2012年は11位だった。最終的には二桁順位に終わっているが、2010年も、2011年も、2012年も、シーズンの終盤で失速して順位を落としただけで、シーズンの大半は一桁順位をキープしていたので、栃木SCでの仕事ぶりは高く評価されている。
中でも印象に残っているのは、2011年である。シーズン途中までFC東京と優勝争いを繰り広げて、「3年目でのJ1昇格」が現実味を帯びた時期もあった。松田監督らしい組織的な守備とカウンターを武器として洗練されたチームに仕上がったので、期待は膨らんだが、9月初旬のFC東京戦で大黒柱のMFパウリーニョが怪我をして長期離脱となると急失速して、昇格レースから脱落して、結局、10位でフィニッシュすることになった。
■ ピークだった2011年もともと3年契約だったので、3年目となる2011年限りで栃木SCを離れることになると思っていた。誠心誠意、チームに尽くしていたので、J1昇格という大きなチャンスを逃して、もう一度、気持ちを奮い立たせるのは難しいと思った。なので、続投が決まったときは非常に驚いたが、FWリカルド・ロボ、MF水沼、DF那須川、DF大久保らが抜けた穴は大きくて、以後は、2011年ほどのチーム力を発揮することはできなかった。
今シーズンで言うと、長崎・徳島・松本山雅・岡山などが、J1初昇格を目指して戦いを続けている。2011年に昇格まであと一歩に迫った徳島、昨年も8位とプレーオフ出場のチャンスがあった岡山は別であるが、長崎と松本山雅の2チームは、昇格レースに加わるのは、初めてとなる。地元は盛り上がっていると思うが、「最初のチャンス」という意外と大事で、また、来年も同じようなチャンスが巡ってくるかというと、そうではないケースの方が多い。
初めてJ1昇格が現実味を帯びてきて、初のJ1昇格へ突っ走る時、街全体に活気が生まれて、思いもよらないパワーが生まれることがあるが、期待に反してJ1昇格に失敗すると、クラブにかけられていた期待感は、急激に萎んでしまう。「旬の時期」というものがあるが、栃木SCの場合は、2011年というのがそれに相当する。2012年も、2013年も、いい位置に付けた時期はあったが、クラブとしてのピークは過ぎていた。
■ 大黒柱のMFパウリーニョ4年目の2012年も終盤に失速して11位に終わった。「やり尽くした。」という印象だったので、このときも去就が注目されたが、またしても、契約を更新した。元日本監督の岡田監督などは、「監督の賞味期限は3年」という趣旨の話をよくしているが、松田監督のバイタリティーというのは、本当に凄いと思う。栃木SCは2009年にJ2に昇格してから、ずっと松田監督がチームを指揮していて、上昇してきたチームなので、1つの時代が終焉したと言える。
返す返すも残念に思うのは、2011年シーズンで、MFパウリーニョが離脱してから急ブレーキがかかったが、今シーズンも同様で、5月26日(日)の横浜FC戦(16節)でMFパウリーニョが怪我をして、現在もピッチを離れている。16節までの成績が8勝4敗4分けなので、1試合平均では「1.75」の勝ち点を稼いでいるが、17節以降、松田監督の最終戦となった9月11日(水)の愛媛FC戦(26節)までの成績は、2勝8敗6分けなので、1試合平均は「0.75」と激減している。
それだけ大きな存在であり、攻守の大黒柱と言えるが、守備だけでなく、攻撃においても不可欠な存在である。栃木SCの特徴と言えるのはショートカウンターであるが、ボランチのMFパウリーニョの高いボール奪取力が肝になっていて、ここでボールが奪えなくなると、得点チャンスが少なくなって、得点力不足が深刻になる。「2011年のFC東京戦でMFパウリーニョが怪我をしなかったら・・・。」というのは、栃木SCがJ1昇格を果たすまで、ずっと言われ続けるだろう。
MFパウリーニョは対人プレーに強くて、接触プレーを厭わない選手である。ボール奪取力に関して、J2のみならず、J1でプレーする選手を含めても、ボランチのポジションではナンバーワンだと思うが、FC東京のMF米本もそうであるが、こういうタイプの選手は、怪我をしやすい。しかも、全治まで半年以上かかるような大きな怪我をする可能性が高いが、アグレッシブさがウリなので、加減してプレーすることもできない。
■ ほとんどなかった余裕度「MFパウリーニョの代役を用意できなかった。」という部分に関して、クラブを批判する意見もあるが、これは仕方がないと思う。栃木SCのクラブ規模では、大黒柱の長期間の離脱を想定した選手補強を行うのは、無理である。MFパウリーニョのサブにお金をつぎ込むのであれば、別のところにつぎ込んだ方が、はるかに有益である。リスクはあるが、その方がJ1昇格の可能性は高くなるので、この点を持ってクラブを批判するのは、酷だと思う。
そして、ボランチの相方がなかなか育ってこなかったことは、誤算である。ボランチの要のMFパウリーニョがいなくなっても、もう1人のボランチが存在感を発揮できたならば、ダメージを最小限に抑えることができたと思うが、MFパウリーニョは飛び抜けた能力を持っているので、相方がどんな選手でも関係ない。そして、MFパウリーニョがいるときは、彼に頼り切った方がスムーズに事が運ぶので、「もう一人のボランチ」が育ってこなかった。
栃木SCにとって、都合よく話が進んでいたならば、2011年などはJ1昇格を達成できた可能性もあったが、シーズンは長いので、いくつかの誤算が生じる。そういうときに、クラブ規模が大きければ大きいほど、リカバーできる可能性が高くて、サブに同じレベルの選手が控えていたり、すぐに補強を行って、ダメージを最小限に抑えることができるが、栃木SCの場合、そのあたりの余裕度はほとんどなかった。
松本監督は短期政権で、来シーズンは、新しい監督がやってくることになると思うが、攻撃的なポジションを中心にして、それなりに駒は揃っている。よほどのダメ監督を連れて来ない限り、プレーオフ争いには加わることができると思うが、クラブ規模がもっと大きくならない限り、今後も、綱渡りのシーズンが続くだろう。セカンドチャンスやサードチャンスを作れるくらいの懐の大きさが無いと、J1昇格にたどりつくのは難しいと思う。
そのためには、動員力のアップは不可欠である。JFLには栃木市をホームタウンに活動している栃木ウーヴァFCがあるが、今の段階は、栃木SCが圧倒的に有利な立場であり、県民の関心も栃木SCに向けられていると思うが、過去最高の平均観客動員は2011年の「4,939人」である。今シーズンも「4,540人」なので、大きな差は無いが、J1を目指すクラブとしては、かなり寂しい数字である。
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