■ 天皇杯の2回戦天皇杯の2回戦。J1のベガルタ仙台とJFLのブラウブリッツ秋田がユアテックスタジアムで対戦した。秋田はTDKサッカー部が前身で、2010年から「ブラウブリッツ秋田」として活動をしている。「ブラウブリッツ」とは、ドイツ語で「青」を意味する「ブラウ」と「稲妻」を意味する「ブリッツ」を合わせたもので、エンブレムには、秋田名物のなまはげと稲妻が取り入れられている。
TDK時代の2007年にJFLに昇格して、ブラウブリッツ秋田になってからは、2010年が8位で、2011年が14位で、2012年は13位という成績を残している。2013年は24節を終えた時点で6位と好位置に付けているが、2013年2月26日にJリーグ準加盟が認められた。2014年からスタートするJ3への参加が有力となっているクラブの1つで、今シーズンから読売クラブなどで活躍した与那城ジョージ監督がチームを指揮している。
ホームの仙台は「4-2-2-2」。GK関。DF佐々木、渡辺、角田、蜂須賀。MF富田、梁勇基、松下、武藤。FW赤嶺、中原。主力のFWウイルソンやMF太田吉はベンチスタートで、東アジアカップの日本代表のGK林がベンチから外れるなど、カップ戦用のメンバーを組んできた。DF菅井、DF田村など、SBの怪我人が続出していることもあって、サイドハーフが本職であるDF佐々木が右サイドバックで起用された。
対するアウェーの秋田は「4-2-3-1」。GK鈴木。DF平井、江崎、初田、川田。MF新里、熊林、半田、三好、前山。FW松田。長らく、ザスパ草津の顔として活躍したベテランのMF熊林がチームの中心を担っており、地元の秋田県にある若いクラブを引っ張っている。1トップでプレーするのは、FC東京や京都などでプレーした経験のあるFW松田で、2011年には33試合で20ゴールを挙げてJFLの得点王に輝いている。
■ 仙台が3対0で勝利!!!試合は開始1分にホームの仙台が先制する。MF梁勇基のCKから相手のクリアボールを拾った右SBのDF佐々木がミドルシュートを放つと、これが鮮やかにネットを揺らして、立ち上がり早々に仙台が先制ゴールを奪う。いきなり失点を喫した秋田だったが、その後は、落ち着いたプレーで試合のリズムを作って、何度か流れるようなパスワークを見せたが、ゴールは生まれず。1対0と仙台がリードして折り返す。
後半も秋田がパスでつなぐ自分たちのサッカーを見せて、試合のペースを握ろうとするが、後半18分に左サイドでセットプレーを与えると、MF梁勇基のキックからFW赤嶺が決めて2対0となる。リーグ戦では、18試合で2ゴールと不振が続いているFW赤嶺にとっては久々のゴールとなった。さらに、後半37分にも、MF武藤の折り返しのパスからMF松下がネットを揺らして試合を決める3点目のゴールを挙げる。
試合の終盤には、右SBでプレーしていたトリニダード・トバゴ出身のFW平井を最前線に上げて、彼の身体能力を生かした攻撃でゴール前を脅かすシーンを作るが、なかなか決定機は作れない。結局、3対0で仙台が危なげなく勝利して3回戦に進出した。一方の秋田は、パスワークで見せ場は作ったが、シュートは5本だけ。ミドルシュートがポストに当たる不運もあって、格上の仙台からゴールを奪うことはできなかった。
■ FW赤嶺が久々のゴール1部リーグに属する仙台と3部リーグ相当のJFLに所属する秋田では、カテゴリーが2つ異なる。JFLのクラブも力はあるので、こういうケースでは、仙台の方に大きなプレッシャーがかかるが、開始早々にDF佐々木のミドルシュートで先制できたのが大きかった。0対0で時間が進んでいる限り、カテゴリーが下の秋田ペースであり、仙台は焦りを感じるようになるが、前半1分のDF佐々木のゴールで楽になった。
FWウイルソンやMF太田吉がベンチスタートになるなど、ベストメンバーではなかったが、効果的に得点を奪った。1点目も、2点目もセットプレーから奪っているが、セットプレーの質というのは、J1とJ2、あるいは、J2とJFL、あるいはJ1とJFLで差の付く部分である。MF梁勇基のような精度を誇る選手というのはJFLにはなかなかいなくて、ゴール前の高さや強さでも仙台が上だった。
FW赤嶺にゴールが生まれたのも大きい。昨年は30試合で14ゴールを挙げて、リーグ戦で2位に入る原動力となったが、今シーズンは調子が上がって来ない。スタメンから外れる機会も多くなっているが、リーグ戦で順位を上げていくためには、欠かせない選手である。表情を見る限りでは、元気のなさが伝わってくるので、自信を失っていたり、考え過ぎているのかもしれないが、ゴールをきっかけにしたいところである。
■ チームを引っ張る熊林親吾一方の秋田は、元草津のMF熊林、元鳥栖のGK浅井、元柏のFW菅原、元京都のFW松田など、Jリーグを経験している選手をたくさん抱えている。また、就任1年目の与那城ジョージ監督も経験の豊富な指導者なので、格上で「東北地方の雄」のベガルタ仙台にひと泡吹かせようと奮闘したが、力は及ばなかった。いきなりDF佐々木に先制ゴールを奪われたのは誤算だった。
ただ、興味深いサッカーをしている。後方からロングボールを蹴ることはほとんどなくて、とにかく、中盤のMF熊林にボールを集めて、コンビネーションで崩していこうとする。先制ゴールを奪った後、仙台が積極的にボールを奪いに来なくなったという事情もあるが、軽快にパスが回って、相手の守備陣を崩す場面もあった。格上の仙台を相手にこのサッカーを貫くのは、勇気のいることであるが、いいサッカーを見せた。
与那城監督はずっと読売クラブでプレーしており、京都やFC琉球や北九州でも監督を務めている。どのチームでも、ショートパスを多用したチームを作ってくるが、攻撃においても、守備においても、11人が連動していることが多くて、統一感のあるチームである。ゴールや勝利には結びつかなかったが、自分たちの目指すサッカーをある程度のレベルでは披露することができたのではないかと思う。
中心になっているのは、Jリーグでのプレー経験の豊富なMF熊林であるが、彼はメッセージ性のこもったパスを周囲に送ることができる。パスを受けた選手に何をしてほしいのか、どういうプレーをするのがベストなのか、伝わってくる気の利いたパスが出せる選手で、高いイメージを持った選手なので、故郷である秋田に戻って、充実した日々を送っているように見える。
■ オリジナリティが必要JFLも残り10試合になったが、現在のところ、11勝8敗5分けで6位に付けている。2位の長野パルセイロとの差が「12」あるので、2位以内というのは難しい。おそらく、来シーズンは、新設される「J3」に所属することになると思われるが、J1の仙台を相手にしても、通用した部分がいくつもあったので、手ごたえを感じることができたのではないかと思われる。
唯一、気になったのは、最前線で待っているエースのFW松田になかなかボールが入らなくて、チームの武器の1つである185センチのFW松田の高さを生かすようなシーンをほとんど作れなかったことである。今後は、ショートパス主体で攻めつつ、適度にロングボールを織り交ぜて、相手の目先を変えるという臨機応変さというのも必要になってくるが、今のやり方にこだわるのは、正しい道だと思う。
勝ち点を得るためには、守備を固めて、ショートカウンターで攻めるというのが、手っ取り早い。しかしながら、Jリーグのクラブ数も増えてきて、他クラブと同じサッカーをしていては、埋没してしまう。現在のところ、J1とJ2を合わせると40クラブがあるが、J3がスタートすると、50クラブ程度になるので、さらに競争は激しくなる。今以上に、オリジナリティが必要になってくる。
どのチームも同じように努力を重ねていて、「上に行きたい。」と願っているが、やはり、後発のクラブは、「何か」が無いと、J3あるいはJ2の中位以下のグループから抜け出すことはできないだろう。秋田県は人口が多いわけでもなくて、大企業がたくさんあるわけでもないので、なかなか大変な環境だと思うが、いいサッカーをしていると、自然と注目度が高まってくる。いろいろな面でプラスの効果が表れてくるだろう。
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