■ 甘口辛口サンケイスポーツに「甘口辛口」という絶賛連載中のコラムがある。産経新聞の編集委員の今村忠氏が主な執筆者で、スポーツ全般が対象のコラムであるが、先日は東アジアカップのことを取り上げていた。FW柿谷とFW豊田の2人がクローズアップされて、移籍によって才能が開花した例として挙げられている。「不要」や「構想外」といったイメージのあるプロ野球の移籍とは異なっているという内容である。
大まかな内容については、間違ってはいないと思うが、引っ掛かったのは、冒頭の箇所で、『日本代表とはいえ初めて見るような選手がほとんどだったが』と書かれている。今村氏は大相撲を得意分野としているようだが、スポーツ新聞にコラムを連載するような人が、全く言っていいくらいJリーグの知識が無いというのは問題であり、スポーツ新聞のレベルの低さを示しているように感じる。
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【甘口辛口】日韓戦活躍の2人は“都落ち”で奮起…野球とは移籍のイメージが違う■ 知識の乏しい識者ただ、この人は、よく知らないことに関しては、「よく知らない。」と素直に記述している分、まだマシである。そして、タイトルからも分かる通り、「プロ野球のことはそれなりに知っているけれども、サッカーのことはほとんど分からない。」という40代や50代や60代の野球ファンのことを念頭に置いて書かれたコラムだと思うので、深く考えないのがベターだと思う。
問題なのは、サッカーが専門の解説者や評論家やライターで、サッカーで飯を食っているにも拘らず、「Jリーグの知識の乏しい人が少なくない。」という現状で、この点は無視することはできない。今回の東アジアカップは海外組と国内の常連組が不在だったので、フレッシュな顔ぶれとなったが、そういう人たちにとっては辛い大会であり、東アジアカップの日本代表に関して、ピントが外れな論調が目立った最大の要因だと感じる。
ここ数日、いわゆる「識者」が、東アジアカップの日本代表を評価・査定しているような記事を読む機会が多かったが、「初めて、その選手のプレーを観たんじゃないの?」と皮肉を言いたくなるような記事に出くわすことが何度もあった。知識が無いにも関わらず、識者扱いされて、自分が無知なことを棚に上げて、東アジアカップで初めて観た選手をこき下ろすシーンに出くわすのは、気分のいいものではない。
■ オシム監督のコメントパフォーマンスの悪かった選手や期待に応える活躍ができなかった選手を批判することは悪いことではない。むしろ、正常なことだと思うが、同じように選手を批判するにしても、予備知識がほとんどなくて、「初めてその選手のプレーを観た。」というレベルの人が批判するのと、継続的に試合を観ていて、対象となる選手のいいところや悪いところを踏まえた上で批判することは、結論が同じでも、全く別の話である。
数年前にイビチャ・オシム監督は「日本のメディアは40年前と比べてほとんど進歩していない。」という趣旨のコメントを残しているが、強く否定することはできない。サッカー大国と比べると、伝える側の知識の量に雲泥の差があって、(今村氏のコラムは「甘口・辛口」というタイトルであるが、)選手や監督やチームを「辛口」で批判したいのであれば、「識者」と呼ばれるにふさわしい知識を持っていないとダメだと思う。
文章力などは能力の問題も絡んでくるが、知識に関しては、試合を観て、勉強しようとする意欲があるか、無いかの問題が大きい。読者の持つ情報量が少なくて、否定的なことを言っておけば、サッカーのことを深く考えていて、正論であるかのように聞こえた時代はとうに過ぎている。今のサッカーファンは、その人が本当に識者と呼ばれるに値するのか、文章を読んだり、発言を聞いたりするだけで、すぐに分かる。
北京五輪以外でFW豊田のプレーを初めて観た人、MF山田大のプレーを初めて観た人、DF森重という選手がどういう選手なのか分からないというような人たちが、エラそうなことを言っているのが、今の日本サッカー界の姿である。コンフェデまでのザッケローニ監督のメンバー固定化にもっとも助けられていたのは、実は、メンバー固定化を過剰なまでに批判していた「知識の乏しい識者」なのかもしれない。
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