はじめに、doroguba氏が、
「オシム日本代表対ガーナ代表」雑感 トータルフットボール懐疑論という記事を書かれていたので、その記事に、反応します。
記事中のdoroguba氏の指摘について、気になった部分を取り上げます。
① 鈴木啓太がふつうに3バックの右としてプレイしていたことに対する「怖さ」同じく後半にDF水本が攻め上がったシーン。右サイドでガーナにボールを奪われてカウンターを食らい、最後は阿部がペナルティエリアラインのギリギリ手前でファウルして止めんですが、その場面を覚えてますでしょうか?
その時の最終ラインの3人は「阿部、今野、鈴木啓太」。DF水本が攻め上がったのを受けて鈴木啓太が淀みなく最終ラインにポジションチェンジしていたんですが、この鈴木啓太のカバーリングはすばらしかったと思います。すばらしかったというか、チームとしてのお約束だったんでしょう。その鈴木啓太の状況判断はすばらしいと思うのですが、ただ、あまりにも「当たり前」にカバーリングが行われていたことに、逆に怖さを感じてしまったんですよね。
基、カバーリング自体は何の問題もなくすばらしいのですが、カバーリングしたあと、鈴木啓太がふつうに3バックの右としてプレイしていたことに対する「怖さ」とでも言いますか。鈴木啓太が3バックでプレイすることが「特殊なこと」でなく、なんとなく「仕様」となっているように感じたんですよね。
→ 「鈴木啓太が、ふつうに3バックの右としてプレイしていたこと」に関して、ボクは、特に問題ないと思います。例えば、これが、(いっときだったとしても、)「阿部・今野・佐藤寿人」の3バックの状態だったなら問題があるかもしれませんが、緊急時に、ボランチが最終ラインに入って守備をするのは、別に不思議なことではありません。
ここから先は、好みの違いになりますが、ボクは、doroguba氏の考え方とは逆に、ファールで試合が止まった後も、今野と鈴木啓太がポジションチェンジしたままで試合を進めるとか、駒野(彼がセンターバックに入らないといけないような、ポジションチェンジは危険だが・・・。)と阿部が入れ替わったままとか、そういうイレギュラーな状態が続くのも面白いと思います。
多分、トータルフットボールの理想って、最初のポジションとか関係なくて、局面局面でポジションが入れ替わっていくスタイルなんでしょうが、まあ、フィールド上の10人全員がフリットのような選手でないと実現できないでしょうね・・・。ユ・サンチョルでもいけるかな?中西永輔でもいけそうな・・・。あとは誰だろう?
② 器用貧乏なイメージ今のオシム日本代表は「ポリバレント」を重視し過ぎで、逆に「スペシャリスト」がいない気がするんですよ。中盤もできるし、最終ラインもできる、状況に応じて前線にも顔を出せるし、サイドでもプレイできるやつがチョイスされ、1部を除いて全ポジションできるように仕込まれてますが、なんちゅうかその流動的なポジションチェンジするしぐさに「器用貧乏なイメージ」を感じてしまうんですよね。「トータルフットボール」というものを、ちょっと甘く考えているように感じるとでもいますか。
→ 最近、「ポリバレント(多様性)」が盛んに叫ばれていますが、ガーナ戦のメンバーで言うと、本来のポジションとは違った位置で起用されたのは、今野と阿部の2人だけではないでしょうか?
doroguba氏が、阿部・今野・鈴木啓太に対してどういう評価をされているのか分かりませんが、ボクは、この3人が、「次元の低いポリバレント」な選手だとは思いませんし、オシム監督がポリバレントを重視したからスタメン出場できたとも思いません。
阿部はもちろん、今野に関しては、ここ1・2年で、攻撃面の成長が著しく、鈴木啓太は、今シーズンのJリーグ最高殊勲選手の有力候補です。3人とも、(海外リーグ所属選手がいない)日本代表でスタメンで起用されても、全く不思議はありません。そして、この3人を同時に起用しようとしたら、ガーナ戦のような構成になってもおかしくありません。
③ スペシャリストの必要性極論で言えば「怖さ」はオシム日本代表の最終ライン3人が、みんなソリンに見えたとでも言いましょうか。そんなにソリンはいらないし、1人いれば十分と思ったからとでも言いますか。まぁ、特にすぐれたスペシャリストがいないならポリバレントで固めた方がいいということなんでしょうが、私は次元の低いポリバレントをたくさん集めるよりも次元が低くても要所にスペシャリストを配した方がいい気がするんですけどね。
→ doroguba氏の言うとおり、要所にスペシャリストを配置することのの必要性は感じます。
ただ、これに関しては、まだ、一度もベストメンバー(=海外組あり)で試合をしていないので、オシム監督がどういう風に考えているのか、分かりかねます。例えば、中村俊輔や松井大輔は起用されるのか?また、コンディションが良くなれば、小野伸二や石川直宏、平山相太のような選手は日本代表に選ばれるのか?
doroguba氏は、「スペシャリスト」が軽視されている現状に不満をお持ちのようですが、ボクは、今後、オシム監督が、「ポリバレント」的な選手か、「スペシャル」的な選手か、どちらか一方を選ぶ二者択一の選考をするとは思えません。(そもそも、中村俊輔や松井大輔を含めて、そんなにどちらか一方に偏った選手は日本にはいませんが・・・。)
オシム監督になってから、小笠原や小野、中村俊輔(も含む?)といった選手が代表から外れたことと、羽生・二川・中村直志・山瀬といった「考えて走れる」選手が中盤に多く選考されたことを鑑みて、
”オシムジャパンには、走れる選手しか必要ない。ただ、それはオシム監督のメッセージであって、オシム監督は、彼ら(小笠原・小野・中村)が意識を改めてくれることを期待している。”という論調が主流になっています。もちろん、こういう意図はあると思いますが、ボクは、それ以上に、自身で日本代表に選出した選手(羽生・二川・中村直志・山瀬・梅崎ら)に対して、「走れることは重要だけど、国際試合で活躍するには、やっぱり、個の力が必要なんだよ」ということを、国際試合で苦境を経験させることで、伝えたいのではないかと思います。
そう考えると、不自然なほど、中盤の選手が多くて、Jリーグで印象的な活躍を見せている選手はみんな呼んでいるかのような選考も納得できます。Jリーグを底上げするには、一番、手っ取り早いし、効果的ですからね。
オシム監督は、ジーコ氏のように中盤にずらっとスター選手を並べるようなことはしないかもしれませんが、オシム監督も、「スペシャルな選手」の重要性は、十分に認識していると思います。これまでの5試合のようなメンバーでは、苦しい試合になることは、事前に想定していたと思います。
ガーナ戦でようやく、オシムジャパンのベースが見えました。それは、「トータルフットボール」の香りのするサッカーでしたが、これは、あくまでベースです。ここにいろんな選手(=スペシャルな選手)を組み込んでいくことになるでしょう。
こうちゃんさんのいうとおり、「アジアカップまでは、結果は気にせず」に見守っていきましょう。未完成なものに対して勝手に自分の色を塗って、それを批判するのは、やっぱり公平ではないように思います。
以下、関連リンク。
じじ
370 2006/10/05
【日本×ガーナ】 感じたトータルフットボールの香りdoroguba氏
「オシム日本代表対ガーナ代表」雑感 トータルフットボール懐疑論 オシム日本代表の「トータルフットボール懐疑論」に対するご意見についての意見 オシム日本代表「トータルフットボール懐疑論」について、3たび!酩酊氏
文明の衝突
意見を書こうと思ったのですが、dorogubaさんのところに書き込んでおられたshancさんの意見が、まとまっていて、非常に分かりやすかったので、引用させていただきます。
確かに本来のポジションが最も力を発揮出来ると思いますが、相手もこちらのポジションを踏まえた上でそれらを潰すようにポジションを取るわけです。その結果膠着する。
膠着した場合、個々の能力に劣る日本では格下には勝てても格上には勝てません。その膠着を打破しミスマッチを作り出すためのポジションチェンジ。普通に戦って勝てないなら、ある種の攪乱状態を作り出してそこに活路を。
その状態だけを取り出して考えるとdorogubaさんの仰るように本来のポジションでない分不利に思えるかもしれませんが、その混乱状態の中で普段より起こりやすくなる判断の遅れやミスを突くという非常に人間的で現実的な答えだと思うのです。
格上がパーフェクトな試合をしたら格下は勝てないわけでミスを狙うわけですがそのミスをこちらから能動的に増やしてやろうと。リスクも当然ありますが積極的で面白いと思います。
■ リスクを背負うことの必要性dorogubaさんやKINDさんは、強者の視点から考えて、ポジションチェンジを否定的に考えられているのではないかと思います。dorogubaさんはチェルシーを例に出されていますが、確かにチェルシーだったら、ほとんど全てのポジションで、マッチアップする選手の能力が相手を上回っているので、わざわざ、リスクをおかしてポジションチェンジするまでもなく、前線の選手の個人能力でこじ開けることが出来ます。マケレレとテリーのポジションが変わっていることで生じるデメリットは、テリーが攻撃参加することで生まれるメリットをはるかに上回るでしょう。
しかしながら、日本代表が世界と戦っていくためには、デメリットはあっても、ある程度リスクをおかすのは必要ではないかと思います。
結局、ボランチの選手(例えば、鈴木啓太)をセンターバックに下げて相手フォワードに対応させることで生まれるデメリットを帳消しにするだけのメリットを、センターバックの選手(例えば、今野)が前線に上がっていくことで生み出すことができるかが重要でしょうね。
■ オートマティックなポジションチェンジではない理想的なトータルフットボールは、フォワードの選手とセンターバックの選手が入れ替わったとしても成り立つするものなのでしょうが、現実では不可能です。(フォワードの選手よりも得点力のあるディフェンダーがいて、ディフェンダーよりもディフェンス能力の高いフォワードがいるとしたら、この2人が入れ替わると効果は出ますが、これは、ありえないでしょう。)
「佐藤と坪井が入れ替わるポジションチェンジなんて・・・」、という話がありましたが、それは、メリットがデメリットをはるかに上回っています。何も考えずに、オートマティックにポジションチェンジを行っているのであれば、そういうシーンも出てくるのでしょうが、考えてサッカーをしている限り、ありえないと思います。
■ リスクヘッジのために最後に、どんなサッカーにおいても基本になりますが、特に人数をかけて頻繁にオーバーラップを用いるスタイルでいくのであれば、フィールド上のどこかに、明確なストロングポイントが欲しいところです。
今のオシムジャパンは、ボールの落ち着きどころがないので、中途半端にボールを奪われる可能性もあって、現状では、センターバックがオーバーラップをしても、メリットよりも、デメリットの方が大きいかもしれませんね。
例えば、「平山の頭」、「中村俊輔のキープ力」、「松井大輔のドリブル突破」などは、国際舞台でも、十分にストロングポイントになりえます。トータルフットボール的なサッカーに、こういったストロングポイントを組み合わせることができるかが、今後の課題でしょう。
- 関連記事
-