2007年12月8日、その日も私は大勢の観客(23,162人)の一人として広島ビッグアーチにいた。J1・J2入替戦の第2試合。vs 京都サンガF.C.戦。第1試合を1-2で落としたサンフレッチェ広島には、もう後が無い。
試合は終始押し気味に進むものの、なかなかゴールをわることができない。駒野のミドルシュートも、寿人のヘディングシュートも、柏木のシュートもバーをたたいた。1-0の勝利でも残留できるのに、その1点がなんと遠いことか。
そして、試合終了間際のロスタイム。 槙野が放ったオーベーヘッド気味のシュートは、ゴールポストに当たり、「コーン」という音を響かせた。一瞬、時間が止まったように感じた。その直後に試合終了。結果は0-0。2度目のJ2降格が決定した。 あの「コーン」という音が今でも耳の奥に残っている。
2006年の途中から指揮を執ったペトロヴィッチ監督は、積極的に若手を起用し、魅力的な攻撃サッカーを展開したが、結果がすべてのプロの世界。J2降格の責任を取って当然退任するものと思っていた。
しかし、フロントはその日のうちに続投を要請したという。当時としては、本当に驚きの決断であった。この優勝への道のりは、あの日から始まったのかもしれない。あれから5年、実にいろいろな出来事があった。
2007年 天皇杯準優勝(決勝の鹿島戦では完敗)
2008年 ゼロックススーパーカップ優勝(鹿島との大荒れのPK戦の末)
2008年 J2優勝(一度も首位を明け渡すことなくブッチギリ)
2010年 ACL出場(グループリーグ敗退)
2010年 ナビスコカップ準優勝(決勝の磐田戦では後5分が耐え切れず延長の末に敗れる)
その間、ユース育ちの駒野、柏木、槙野もチームを去って行った。今のチームの基礎をつくり、選手を育てたペトロヴィッチ監督も2011年でお別れ(ペトロヴィッチ監督には、今も心から感謝している)。
そして、初の生え抜き森保一監督のもと、2012年シーズンが始まった。大方の評論家の順位予想も低かったが、私も心配していた。 正直「J2降格だけは勘弁して欲しい」と願っていた。それが、まさか優勝争いをするとは…。
*虹が出た2012年11月24日、その日も私は32,724人の一人として広島ビッグアーチにいた。チケットは完売。3時間前に到着したら、既に入場を待つ長蛇の列が補助球場を取り囲み、上の通路にまで伸び、さらに突き当りで折り返していた。
12時半、入場の列が動き出した頃には、小雨が降りだした。入場して、いつもの席を目指す。幸い席を確保でき、座った頃には雨脚が強くなってきた。紫の合羽を身にまとい、ジッと座って試合開始を待つ。寒い。雨は強くなったり、弱くなったりを繰り返す。
その時、広島ビッグアーチの大型ビジョンの上空に綺麗な虹が浮かび上がった。久しぶりに見る綺麗な虹。2重にも3重にも重なったように見えた。 ざわめく観客席。何か良いことが起こりそうな予兆であるかのようだった。そして、いよいよ試合が始まった。
*「気持ちには引力がある」試合中、この言葉を思い出していた。サンフレッチェ広島ユースの森山佳郎監督が選手に言い続けている言葉だ。この試合、球際の激しい争いで、ことごとくボールが広島側に転がったように見えたからだ。
序盤こそ硬さが見られたものの、徐々にペースを握り、選手たちの動きが良くなっていった。逆に降格の可能性のあるセレッソ大阪の方が何かを恐れているようで、選手の動きが悪かった。激しいといっても決してラフプレーではなく、あくまでもフェアに、「勝ちたい」というより「勝つんだ」という気持ちの入ったプレーが続く。
そんな気持ちにサッカーの神様が味方してくれたのかもしれない。結果は、ご承知のとおり4-1での勝利。4-0というスコアのまま無失点で終わらず、最後に1点取られるあたりが、サンフレッチェらしいといえばらしい。しかし、昨シーズン3-0から逆転され、4-5で負けた同じ相手に、危な気ない試合運びでしのぎ切った。
私は家にiPhoneを忘れてしまったこともあり、他会場の途中経過は見ていなかった。当然、ホームの仙台が新潟に勝つだろうと思っていた。途中で何度か後ろの席から「新潟が勝っている」という声が聞こえた。そして、試合終了のホイッスル。ざわつく場内。しばしの静寂。と、突然喜びだす控え選手たち。場内にも仙台戦の結果がアナウンスされたが、歓声が大きくてしっかりと最後まで聞き取れなかった。
どうやら仙台が負けたらしい。優勝か?寿人がピッチの上で頭を抱え、蹲っていた。あの姿を忘れないだろう。その後、しばらく広島ビッグアーチでは幸せな時間が続いた。
*「King of local」広島ビッグアーチで、毎試合掲げられる横断幕の一つに「King of local」と書かれたものがある。私の好きな言葉だ。2012年のJ1は、まさに「King of local」の座を掛けたベガルタ仙台との一騎打ちとなった。
ベガルタ仙台との試合は、拮抗した良い試合になることが多い。試合は2-2の引き分けに終わったが、あのアウェイ仙台戦が今シーズンのベストゲームだったように思う。優勝が決まった翌日、スカパー!で仙台 vs 新潟の試合を観た。
終了間際に祈るサポーター、終了後に呆然とするサポーター、うなだれるサポーターを見ていると、胸が締め付けられるようだった。自分たちがあのようになっていてもおかしくない展開だった。しかし、流した悔し涙の量では、仙台には負けないだろう。お互い地方クラブとして、これからも共にJリーグを盛り上げていきたいと思う。
*夢はきっと叶うまさか今シーズン、サンフレッチェ広島がリーグ優勝するなんて、ファンの私でも思ってもみなかった。素直に謝りたい。いつか優勝する日が来るとしても、天皇杯かナビスコカップで、リーグ優勝はないのではないかとすら思っていた。嬉しい大誤算だ。
優勝が決まった試合を観戦した後も、録画した試合を見返したり、選手たちが出演したスポーツ番組の録画を見たり、新聞やWebサイトで関連記事を見ている。シーズンイヤーDVDを予約しようとか、優勝記念グッズは何を買おうかとか、来シーズンのユニフォームには星マークがつくのかとか、クラブワールドカップで決勝まで勝ち進んでチェルシーと対戦したらどうしようなどと考えている。実に幸せなことだ。
Jリーグは、他国の主要リーグと比べ、J2も含めて上位と下位のチームの実力差が小さくて、スリリングで面白いと私は思う。ガンバ大阪でさえ降格の危機に瀕していることでもわかるとおり、浦和レッズや鹿島アントラーズでも常に安泰とはいえない。
今年優勝できたからといって、来シーズンは、どうなるか分からない。心配性の私は、「J2降格だけは勘弁して欲しい」と来シーズンの開幕前も心配していることだろう。これから、チームはどうなるだろうか。相変わらずお金は無いし、憎らしいほど強いチームにはなれないだろう。
地方クラブとして、今のように愛嬌のあるチームであり続けて欲しい。そう強く願っている。そして、生きている間に広島にもサッカー専用スタジアムができればこの上ない喜びだ。そんな日がいつか来ると信じている。夢はきっと叶う。サンフレッチェ広島だって優勝できたのだから…。 (END)
[ライター]
ハンドル名 : TOMIZO
年 代 : 40~49歳
性 別 : 男性
地 域 : 中国
[補足]
・このエントリーは、TOMIZOさんが優勝から2日経った2012年11月26日の自分の想いについて、記録するために書いてFacebookのノートにアップした文章です。「面白かった。」、「良かった。」と感じたときは、右下の拍手ボタンを押して、TOMIZOさんを称えてください。
[寄せられたコメント]
・素晴らしい。中央至上主義を省みないマスコミが取り上げない地方クラブとそのサポの熱情が手に取るように感じられる素晴らしい記事です!(JOさん)
・サポーターのリアルな思いがひしひしと伝わる記事でした。サンフレッチェおめでとう!(蜜柑さん)
[おしらせ]
・サッカーコラム J3 Plus+では、読者エントリーを受け付けています。「自分はこう思っている。」、「あのことについて、一言言いたい。」というご意見がある方の投稿をお待ちしています。
(トピックスの例)
・試合の感想やレポートなど。(国内外、プロアマ問わず。)
・天皇杯、ナビスコカップ、秋春制などの制度や仕組みについて考えること。持論など。
・自分の応援するチームの紹介(選手について、クラブについて、スタジアムについてなど)
・日本代表について(選手起用、戦い方、監督に対して思うことなど。)
・2012年のマイ・チームを振り返ってみて。(課題や収穫について。)
などなど。題材を選んで、タイトルを付けて、文章をまとめて、こちらに投稿してください。
(方法)
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