■ サポーターの声 J1で10年目のシーズンを迎えるアルビレックス新潟は、2005年の40,114人をピークに、7年連続で平均の観客動員数が減っている。地方の優等生クラブと言われた新潟にいったい何が起こっているのか、動員が回復する見込みはあるのか。リーグ全体の動員数に関わる大きな話であり、地方クラブの希望の星になっていたクラブが直面している問題なので、見過ごすことはできない。
その答えを探していく上で、手がかりになりそうなのは、新潟のオフィシャルマガジンの「アルビレックス新潟プレビュー」という雑誌である。先日、2012年シーズンの特別総集編が発売されたが、「アルビを想うサポーター1000人の本音を編集!」をいうサブタイトルが付けられており、サポーターの声が分かる内容に仕上がっている。今回、この本を、新潟のサポーターの方から譲り受けて、一通り読んでみた。
この本は、完全に新潟のサポーター向けの雑誌で、全128ページで構成されている。えのきどいちろうさんや戸塚啓さんのコラム、柳下監督や田村社長のインタビュー記事、アルビレックス新潟レディースの選手紹介にもページが割かれているが、128ページのほとんどは、サポーターズボイスというタイトルの下で、新潟のサポーターから寄せられた声(苦言・提言・期待など)で埋められている。
■ 7つの質問 サポーターに投げかけた質問内容は、以下の7つで、ビッグスワンで行われた鳥栖戦(30節)、川崎F戦(32節)、札幌(34節)の後に、回答が寄せられている。その中で、30節の鳥栖戦と32節の川崎F戦はホームで敗れており、「J2降格が濃厚」となった時期に寄せられた意見も多く含まれるので、過激な意見もいくつか見られる。
(1) 今シーズンのアルビについて思っていることをお聞かせください。
(2) 来シーズンのアルビに、補強や改革が必要だと考えるところは?
(3) 来シーズンのアルビに期待することは?
(4) 来シーズンのアルビのためにしたいこと、できると思うことは?
(5) 来シーズン、期待する23歳以下のアルビの選手は?
(6) 来シーズン、期待するアルビの選手は?
(7) 来シーズン、アルビに欲しいと思う選手は?
面白かったのは、最後の(7)のところである。ベスト20を書き出して見ると、下のようになる。過去に新潟に在籍した経験のある選手が多くランキングに含まれているが、日本代表の中心選手であったり、Jリーグでゴールを量産している他クラブのストライカーの名前も目立つ。新潟のサポーターが何を求めているのか、どういう選手が必要だと思っているのか、感じ取ることができる。
ちなみに、この本が発売されたのは、昨年の12月15日なので、当然のことながら、FW田中達也の新潟入りが決まるはるか前の回答結果である。12月の初めの時期というのは、FW田中達の移籍先が注目されていた頃であり、具体的な移籍先の候補は挙がっていない段階なので、今回は、サポーターの希望とフロントの意図が一致したと考えられる。
1位:マルシオ・リシャルデス (106人)
2位:酒井高徳 (52人)
3位:佐藤寿人 (50人)
4位:田中達也 (43人)
5位:川又堅碁 (33人)
6位:遠藤保仁 (26人)
7位:エジミウソン (23人)
8位:曹永哲 (21人)
9位:三浦知良 (20人)
10位:前田遼一 (20人)
11位:メッシ (14人)
11位:レアンドロ (14人)
13位:長谷部誠 (13人)
13位:豊田陽平 (13人)
15位:中村憲剛 (11人)
16位:岡崎慎司 (10人)
16位:長友佑都 (10人)
18位:ペドロ・ジュニオール (8人)
18位:香川真司 (8人)
18位:本田圭佑 (8人)
■ サポーターの不満の声上の(3)、(4)、(5)、(6)、(7)の項目については、前向きな話であり、寄せられた意見もポジティブなものが多いが、(1)あるいは(2)の項目については、クラブへの不満を訴える声と反省を求める声が中心になっている。賛否両論あったと思うが、いきなり、10ページから24ページまで、15ページに渡って「苦言」が続いていくので、かなり重たい内容になっている。目立つのは、
・点が獲れないので、観ていて面白くない。
・ホームで勝てなさすぎる。
・危機感が感じられない試合が多かった。
・中心選手を引き抜かれ過ぎる。
・補強がうまくない。
・黒崎監督を引っ張り過ぎた。
という意見で、そのほかにも、
・無料招待券をばらまきすぎている。
・シーズンパスを持っている人を粗末に扱いすぎている。
・観客動員数が減っているのは、気になる。
など運営に関する不満も多かった。そして、2012年の開幕特集号で「史上最強」というフレーズを使って、期待感を煽った出版社(ニューズ・ライン)に苦言を呈する意見もあった。とにかく、サポーターがフラストレーションを溜めていることがよく分かる構成になっている。
その苦言が適切なものなのかどうかはともかくとして、不満を持っている人が多いだけでなく、「アルビを良くしたい。」と考えている人が多いことも伝わってくる。50代や60代の人の意見や、専業主婦など女性の意見も多くて、さらには、柏崎市や燕市新発田市など、新潟市以外の地域の人の意見も目立つ。幅広い年齢層の人から関心を持たれていることは、新潟というクラブの特徴の1つである。
■ ホームで勝てない?? さて、「ホームで勝てないことが、観客動員減につながっているのではないか?」という意見が多いので、これを検討するために、J1昇格後の新潟のホームとアウェーの成績をまとめると、表5のようになる。1年目の2004年はアウェーの方が勝ち点を稼いでいるが、2年目以降は、順調にホームで勝ち点を稼いでおり、2008年までは、アウェーよりもはるかに多くの勝ち点を稼いでいる。
「勝ち点/試合」というのは、1試合平均の勝ち点である。さらに下の表6は、過去5年間のJ1の平均値で、ホームチームは1.55程度で、アウェーチームは1.20程度に落ち着くが、新潟に関しては、2009年(=1.18)と2012年(=0.88)のホームゲームの数字が極端に悪くなっていて、平均を大きく下回っている。
確かに2008年あたりまでは、「上位チームでも、ビッグスワンで勝つのは難しい。」という雰囲気があったが、最近は、そういう感じはなくなってきている。とはいっても、極端にホームで勝てなかったのは、2009年と2012年の2シーズンだけである。2010年は大きく勝ち越しており、2011年は平均程度である。したがって、「ホームで勝てない。」というのが、観客動員数の主要因とは考えにくい。
表5. 新潟のホームとアウェーの比較 (J1昇格後)
| | 勝 | 引き分け | 敗 | 得点 | 失点 | 勝ち点/試合 | 差 |
2004年 | H | 4 | 4 | 7 | 22 | 28 | 1.07 | -0.33 |
A | 6 | 3 | 6 | 25 | 30 | 1.40 |
2005年 | H | 7 | 5 | 5 | 25 | 23 | 1.53 | +0.59 |
A | 4 | 4 | 9 | 22 | 39 | 0.94 |
2006年 | H | 8 | 4 | 5 | 26 | 20 | 1.65 | +0.82 |
A | 4 | 2 | 11 | 20 | 45 | 0.82 |
2007年 | H | 9 | 3 | 5 | 27 | 23 | 1.76 | +0.53 |
A | 6 | 3 | 8 | 21 | 24 | 1.24 |
2008年 | H | 9 | 4 | 4 | 25 | 19 | 1.82 | +1.18 |
A | 2 | 5 | 10 | 7 | 27 | 0.65 |
2009年 | H | 4 | 8 | 5 | 22 | 22 | 1.18 | -0.59 |
A | 9 | 3 | 5 | 20 | 9 | 1.76 |
2010年 | H | 8 | 7 | 2 | 30 | 19 | 1.82 | +0.76 |
A | 4 | 6 | 7 | 18 | 26 | 1.06 |
2011年 | H | 6 | 6 | 5 | 25 | 20 | 1.41 | +0.53 |
A | 4 | 3 | 10 | 13 | 26 | 0.88 |
2012年 | H | 3 | 6 | 8 | 15 | 21 | 0.88 | -0.59 |
A | 7 | 4 | 6 | 14 | 13 | 1.47 |
表6. J1の1試合当たりの平均の勝ち点 (ホーム/アウェー)
| Home | Away |
2008年 | 1.57 | 1.20 |
|
2009年 | 1.56 | 1.18 |
|
2010年 | 1.55 | 1.19 |
|
2011年 | 1.55 | 1.21 |
|
2012年 | 1.46 | 1.29 |
|
→ (下)に続く。
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