■ オフシーズンに突入 オフシーズンに突入して、移籍話が紙面をにぎわすようになってきた。自動昇格でJ1昇格を決めた甲府と湘南は、「他のJ1クラブよりも早くオフシーズンに突入した。」というメリットを最大限に生かさなければならないが、さっそく、湘南ベルマーレは栃木SCからユーティリティープレーヤーのDF宇佐美とサイドアタッカーのMF荒堀を獲得した。
大物選手では、清水のFW大前がドイツ1部のデュッセルドルフに移籍することが決定した。166センチの身長なので、フランクフルトのMF乾よりも小さいが、こういうタイプの選手は、ブンデスリーガでは少ないので、ドリブルや運動量は大きな武器になるだろう。
チーム自体は、それほど強くないので、「守備の時間が長くなって、ボールが回ってこない。」ということも十分に考えられるが、辛抱して、少ないチャンスを生かしてほしいところである。ゴトビ監督になってからは、右サイドに張ることが多かったが、どこのポジションで起用されるのか、どういう役割を与えられるのか、注目したい。
■ ゼロ円移籍移籍金に関しては、特に、報道はされておらず、ゼロ円か、微々たる額だと推測できる。ゼロ円移籍に関しては、いろいろな意見があると思うが、現状では、仕方がない。「元のクラブに移籍金が入る形で移籍できればベスト」と言えるが、そういう環境は整っていない。
契約期間を延長しようとしても、選手は、よほどのことが無い限り、応じないだろうし、クラブ側も、契約期間を伸ばそうとすれば、その分、給料を引き上げる必要がある。しかしながら、引き上げた年俸分が移籍金で回収できる可能性というのは、残念ながら、今の段階では、限りなく低い。
今後、日本人選手の価値が上がって、3億円や4億円の移籍金が獲れるようになれば、積極的に延長契約を交わして、確実に移籍金を獲得できる状況を作ろうとするだろうが、今は、難しい。「ゼロ円移籍」が起こった場合、選手あるいはフロントを必要以上に批判する人が出てくるが、現実を無視して批判するというのは、もっともらしく聞こえるときもあるが、あまり意味は無い。
■ ゼロ円移籍は日本だけか? ここで、引っかかるのは、「ゼロ円移籍は日本だけなのか?」ということである。
・欧州のクラブはしたたかなので、「ゼロ円移籍」はありえない。
・ゼロ円移籍する選手は薄情である。
・ゼロ円移籍を許しているJリーグのフロントは馬鹿である。
という意見もあるが、果たしてそうなのか。「ヨーロッパサッカートゥデイ」の開幕号は、夏の移籍市場でクラブを離れることになった選手が、どういう形でチームを去っているのか、区分けされているので、カウントしてみた。
夏の移籍市場は8月31日にクローズされるが、「全ての移籍情報を反映させた選手名鑑の決定版」と明記してある。もちろん、間違った情報もあると思うが、それなりに信頼できる情報だと判断した。(※ 今回は、この時点で移籍先の決まっていない選手と引退した選手はカウントしていない。)
大きく分けると、「完全移籍」、「レンタル移籍」、「契約満了で他チームに移籍」、「レンタル期間終了で元のクラブに戻る」、「契約解除で他チームに移籍」、「移籍して移籍先との共同保有になる」の6つに分類されるが、リーガ・エスパニョーラ、プレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガで、表にまとめると、以下のようになった。
表1. リーガ・エスパニョーラ
リーガ・エスパニョーラ |
完全移籍 | 26 | 17.9% |
レンタル移籍 | 27 | 18.6% |
契約満了 | 52 | 35.9% |
レンタル終了 | 36 | 24.8% |
解除 | 4 | 2.8% |
移籍先との共同保有 | 0 | 0.0% |
| 145 | 100.0% |
表2. プレミアリーグ
プレミアリーグ |
完全移籍 | 40 | 28.2% |
レンタル移籍 | 24 | 16.9% |
契約満了 | 57 | 40.1% |
レンタル終了 | 19 | 13.4% |
解除 | 2 | 1.4% |
移籍先との共同保有 | 0 | 0.0% |
| 142 | 100.0% |
表3. セリエA
セリエA |
完全移籍 | 39 | 19.8% |
レンタル移籍 | 69 | 35.0% |
契約満了 | 18 | 9.1% |
レンタル終了 | 53 | 26.9% |
解除 | 12 | 6.1% |
移籍先との共同保有 | 6 | 3.0% |
| 197 | 100.0% |
表4. ブンデスリーガ
ブンデスリーガ |
完全移籍 | 36 | 26.3% |
レンタル移籍 | 25 | 18.2% |
契約満了 | 56 | 40.9% |
レンタル終了 | 17 | 12.4% |
解除 | 3 | 2.2% |
移籍先との共同保有 | 0 | 0.0% |
| 137 | 100.0% |
■ ここから分かることここから分かるのは、
(1) 完全移籍はそれほど多くない。
(2) 契約満了でフリー移籍となるケースも少なくない。
(3) レンタル移籍は多い。(特に、セリエAは多い。)
の3点である。
どのリーグにも共通することであるが、完全移籍はそれほど多くない。4大リーグを合わせても、合計で141人である。チーム数は20+20+20+18で78チームなので、1チーム平均で、1.81人である。また、総数は621件なので、移籍金が発生していると考えられる完全移籍というのは22.7%に過ぎない。
4大リーグに所属しているクラブなので、それ以外のリーグに所属するクラブと比べると、裕福であり、きっちりとした契約を結んでいて完全移籍するケースが多いかと思ったが、そういうわけでもない。もちろん、メガクラブの争奪戦になるような選手は、完全移籍するケースがほとんどであるが、それ以外は「フリー移籍も多い。」というのが、現状である。
割合が高いのは、レンタル移籍である。特に、セリエAのレンタル移籍の割合が、他の3つと比べると、倍程度になっているのは、面白い。また、他の3つには無い「移籍先との共同保有」があるというのも、セリエAの特徴と言えるだろう。
■ ゼロ円移籍をどう考えるのか?昨今、欧州は不景気なので、その影響が大きいと思うが、4大リーグでも、完全移籍の割合は高くない。したがって、Jリーガーが欧州のクラブに移籍するとき、「ゼロ円移籍」が起こっても不思議ではないし、また、Jリーグの各クラブのフロントの経験不足・力量不足だけが原因とは言えないのではないか。
また、付随して、半ば常識になっている「ゼロ円で移籍したとしても、移籍先で大事にされない。」というのも、本当に正しいのか。ほとんどの選手が完全移籍で加入してくるのであれば、そうかもしれないが、完全移籍というのは、4~5人に1人程度である。よって、「そんなに関係ないのでは?」という気もする。むしろ、ここまでレンタル移籍の割合が高いと、「レンタル移籍よりはマシ」と言えるのではないか。
さらには、「欧州の中堅以下のクラブは選手を売ることで経営を成り立たせている。Jリーグも、そうならないと駄目である。」という意見も、果たしてそうなのか。もちろん、FWネイマールのような選手が出てきて、50億程度の破格の金額で売却できれば、しばらくの間、経営は安泰だと思うが、こういうのは、レア中のレアである。
15年ほど前は、欧州サッカーもバブル期だったので、選手を転売して儲けることができたと思うが、状況は変わってきている。Jリーグでも、欧州のクラブでも、南米のクラブでも、よほど頑張らないと、移籍金で利益を出すのは、難しいのではないか。もちろん、程度の差はあるが、選手を育成して、移籍金を得て、それを元手に新しい選手を獲得して、また、選手を売って移籍金を得る、というサイクルを完成させるのは、至難の業である。
欧州サッカーに関する情報は、以前と比べると、飛躍的に増えているが、依然として、上の上の目立つところしか見えていない・感じていないというケースが多い。海外移籍を希望する選手が、「自分はクラブに育ててもらったので、移籍金でクラブに還元したい。」と公言するのは立派だと思うが、それをすべての選手に求めるのは、フェアではないと思うし、「情」の部分に期待するのは、アマチュア的な発想だと思う。
移籍に関しては、どうしても感情的になることもあるが、Jリーグの移籍の制度が変更されて、3年以上が経過している。そろそろ、一方的に選手あるいはフロントを悪者にするのではなくて、建設的で、現実的な方法を探る時期に入ってきたと思う。
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