■ 第32節FW田中達也が台頭してきたとき、「こういう選手が出てきたか・・・。」と驚いた記憶がある。それまでは、ドリブラーというと、相手を抜くためのドリブルテクニックを持っている選手は多かったが、それがシュートまでつながらずに、「得点のニオイがするドリブラー」というのは、少なかったが、彼は、シュートを打つためのドリブル、ゴールを奪うためのドリブルができた。
帝京高校時代から名の知れた選手であり、「和製・オルテガ」と言われるほどのドリブラーだったが、「ドリブルだけでは、プロの世界では通用しない。ゴールを決めないと評価されない。」ということを、18歳や19歳や20歳の頃から理解しており、プロに進んで、「和製・オルテガ」からの脱皮に成功した。
印象的なのは、「エメ・タツ」のコンビである。爆発的スピードを持つFWエメルソンと打開力のあるFW田中達のコンビは破壊力満点で、「縦に早い」という実にレッズらしいサッカーを見せて一時代を築いた。「この時代のレッズのサッカーが一番好きだ。」というレッズサポーターは多い。2003年は26試合で11ゴール、2004年は23試合で10ゴールを挙げているが、この時期がもっとも輝いていた頃であり、アテネ五輪代表チームでも攻撃の中心となった。
■ アクシデントが発生悔やまれるのは、2005年10月15日の柏レイソル戦でのアクシデントである。相手DFからハードタックルを受けて、「右足関節脱臼骨折」という重傷を負って、ドイツW杯行きのチャンスを逃した。ジーコ監督が、どう考えていたかは分からないが、パス出しのできる選手は揃っていたので、動き回ってボールを受けることができて、自分で突破することもできるFW田中達のような選手がいれば、結果は変わっていたのかもしれない。
キャリアを大きく左右するような出来事となったが、怪我を負わせてしまった選手への中傷に対して、「そういうことは止めてほしい。」という主旨の談話を発表したことも印象的である。もっとも、心が沈んでいるときに、相手選手のことを気遣うことができるというのは、簡単なことではない。プレーだけでなく、人間的にも優れていたからこそ、これだけレッズのサポーターに愛されたと思う。
振り返ってみると、2001年に浦和に入団してからチーム一筋で、12年間、プレーしてきた。浦和が初めてタイトルを獲得したのは、2003年のナビスコカップだったので、全てのタイトル獲得に関わっていることになる。「ミスター・レッズ」というと、元日本代表の福田正博の代名詞となっているが、貢献度で言うと、甲乙つけがたいものがある。
■ 移籍先はどこになるのか?(1)今シーズンは、大きな怪我もなくて、コンディションは悪くなかったという話であるが、リーグ戦は6試合に出場しただけで、チャンスは与えられなかった。結局、「将来のことを考えて」という理由で、今シーズン限りで、浦和を去ることになった。
ワンダーボーイと言われたFW田中達も、11月27日で30歳となる。学年で言うと、FW大久保(神戸)、DF今野(G大阪)あたりと同じであり、まだまだ、老け込むような年齢ではないが、去り時というのは、フロントも悩んだと思うし、また、本人も、いろいろと考えたと思う。
近年、浦和は、毎年のように、2列目のアタッカータイプを獲得してきて、ライバルも多くなった。怪我がなくても、出場のチャンスを得るのは、難しいような状態になっていたので、この先のことを考えるのであれば、1年前や2年前の時点で、「クラブを離れる。」という選択をしても良かったと思うが、クラブにとって、大きな存在なので、そういう結論を出すことが難しかったというのも、理解できる。
移籍先については、「いくつかのクラブが興味を示している。」と報道されているが、7000万円とも言われる年俸が、大幅にダウンするのは間違いないだろう。ネームバリューがあって、集客力があって、戦力としても期待できる選手なので、「獲得したい。」と思うクラブは少なくないと思うが、近年、フル稼働できていない高年俸の選手を獲得できるほど余裕のあるクラブは少ないのが、実情である。
■ 移籍先はどこになるのか?(2)よって、移籍先の候補は、かなり限られてくる。ここ最近、代表クラスの選手を獲得してきた実績のある神戸は、MF大久保とMF小川がいて、MF野沢もいるので、ポジション的な空きは無い。また、オフの主役になることが多い大宮も、移籍先の候補と言えるが、浦和の象徴だった選手が同じ街のクラブである大宮に移籍することは、考えにくいため、ゼロに近い話といえる。
年俸が半額程度になるのであれば、J1の上位クラブも興味を示すと思うが、どのチームも、比較的、1.5列目や2列目は豊富なので、獲得に名乗り出そうなチームというのは、見当たらない。一方、J2では、資金力があって、FW永井、DF堀之内など、浦和OBを獲得してきた実績のある横浜FCなどは有力候補であり、1.5列目タイプで、ゴールを奪うことを仕事にしている選手は少ないので、今のところ、もっとも可能性が高いように思うが、浦和のユニフォーム以外を着ているところを想像しにくい選手なので、イメージはわいてこない。
いずれにしても、来年で30歳になるので、まだ、数年間は、プレーヤーとして活躍できる年齢である。20代の後半は、怪我もあって苦しんだが、コンディションのいいときは、「さすが、田中達也!!!」というプレーを見せていたのも事実である。いい移籍先が見つかって、ピッチで躍動するところを楽しみに待ちたいところである。
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