■ 第90回大会の決勝戦節目となるの第90回大会の決勝戦は千葉県代表の市立船橋高校と、三重県代表の四日市中央工業高校の対戦となった。市立船橋は1994年、1996年、1999年、2002年と過去4度の全国制覇の経験がある。対する四日市中央工は、小倉隆史、中西永輔、中田一三を擁した1991年大会で帝京高校との両校優勝に輝いている。四日市中央工が決勝に進出したのは、この時以来で初の単独優勝を目指す。四日市中央工は実に20年ぶりの決勝進出となった。
9年ぶりの全国制覇を目指す市立船橋は「4-5-1」。GK積田。DF米塚、種岡、小出、鈴木。MF松丸、渡辺、杉山、菅野、和泉。FW岩渕。キャプテンで10番を背負うMF和泉は、今大会3ゴールを挙げている。守護神のGK積田はU-18日本代表に選ばれた経験がある。1トップでプレーするFW岩渕は188センチの長身で、準々決勝の矢板中央戦でヘディングシュートを決めている。
対する四日市中央工は「4-2-2-2」。GK中村。DF川本、坂、西脇、藤山。MF生川、松尾、寺尾、田村大。FW浅野、田村翔。2年生コンビのFW浅野とFW田村翔が6ゴールずつを挙げている。キャプテンでエース№17を背負うMF国吉は累積警告で出場停止のため、同じ3年生のMF生川がスタメン出場となった。1年生のGK中村は、今大会で2度のPK戦を制する原動力になっている。
■ 市立船橋が5度目の王者に・・・試合は開始早々に四日市中央工が先制する。MF寺尾が粘って右CKを獲得。MF田村大の蹴ったボールをFW田村翔がシュートを放って、GKがはじいたボールを2年生のFW浅野が蹴りこんで前半1分に四日市中央工が先制に成功する。FW浅野は6試合連続ゴールで、大会通算7ゴール目。得点ランキングでも単独トップとなった。その後も、前半45分は四日市中央工のペースで進んで、サイドを起点にした攻撃で試合の主導権を握る。一方の市立船橋は188センチのFW岩渕のところでボールが収まらず、いい形を作れないままで前半をビハインドで折り返す。
後半になると、市立船橋が前掛かりになって、厚みのある攻撃を見せるようになる。劣勢となった四日市中央工は、FW浅野を中心としたカウンターで追加点を狙うが、徐々にボールがつながらなくなって、自陣でクリアするのが精いっぱいという展開になる。しかしながら、市立船橋も決定機までは作れず、試合はロスタイムに突入。四日市中央工の初の単独優勝が目前に迫ってきたが、後半46分に市立船橋がCKの混戦から10番のMF和泉が決めて土壇場で1対1の同点に追いついて、10分ハーフの延長戦に突入する。
延長戦で決勝ゴールが決まったのは延長後半5分で、市立船橋はカウンターからMF宇都宮のパスを受けたMF和泉がフェイントで相手をかわしてから、強烈な右足のシュートを決めて2対1と逆転に成功する。MF和泉は今大会5ゴール目となった。最後は四日市中央工も総攻撃を仕掛けるが同点ならず。結局、2対1で延長戦を制した市立船橋が9年ぶり5度目の全国制覇に輝いた。対する四日市中央工は初の単独優勝は成らず。しかしながら、2年生の浅野が今大会7ゴールを挙げて、得点王に輝いた。
■ キャプテン和泉竜司2ゴール開始早々にゴールを奪われて苦しい展開になった市立船橋だったが、キャプテンのMF和泉が劇的な同点ゴールと、鮮やかな逆転ゴールを決めて5度目の王者に輝いた。先制点を許すきっかけとなったCKは、市立船橋らしくない判断のミスから与えてしまったが、その後は、何度か、FW浅野のドリブル突破に苦しめられながらも、守備陣が踏ん張って2点目を許さなかった。市立船橋の伝統とも言えるが、最終ラインだけでなく、中盤にも1対1の守備力の高い選手が揃っていて、市立船橋らしい粘り強い戦いで「高校日本一」に輝いた。
決勝戦でヒーローとなったのはMF和泉竜司である。三重県の四日市のクラブ出身であるというところも面白いが、類まれな勝負強さを発揮してビハインドを跳ね返し、延長戦では個人技から決勝ゴールをもぎ取った。こういう展開で終盤まで進むと精神力の勝負になってきて「勝負運」も必要となるが、MF和泉は、その「勝負運」を持っていて、普通では考えられないような活躍を見せた。どういう舞台であれ、こういう土壇場で力を発揮できるというのは見事だが、それが高校選手権の決勝の場ということで、生まれながらにして何かを持っている選手なのだろう。
後半のロスタイムにCKから押し込んだ同点ゴールも見事だったが、個人技で奪った2点目のゴールも見事だった。ちょうど、その前のプレーで四日市中央工のDF西脇が素晴らしいインターセプトを見せて前線に駆け上がっていったが、うまい具合にボールを奪い返すと、逆カウンターの状況を作って、エースが見事なシュートフェイントから相手をかわしてから、ニアサイドに右足のシュートを突き刺した。中心選手がファイナルの舞台で、同点ゴールと決勝ゴールを奪うという出来過ぎたストーリーで、90回大会は終了することになった。
■ 20年ぶりの優勝はならず・・・一方の四日市中央工は、後半ロスタイムまで1点リードしていたが、後半の終了間際に立て続けにセットプレーを与えると、十分なクリアができなかったところを突かれて失点を喫した。追いつかれたとはいえ、まだ同点だったので、延長戦は気持ちを切り替えて戦う必要があったが、こういう感じで終了間際に追いつかれてしまうと、切り替えるのはプロの選手でも容易ではない。高校生なので、立て直すことができなかったことも仕方がないといえるだろう。
2失点目は、インターセプトしたDF西脇が勝負に出て前線に駆け上がって勝ち越しゴールを狙ったが、攻めきれずに逆カウンターを許してしまった。1対1の同点の場面だったので、バランスを崩してまで攻め上がる必要はなかったように思うが、勝負どころと判断してDF西脇も攻撃に参加したのだろう。いい形でボールを奪うことができたので、上がるべきか、上がらないべきか、難しい状況になって、結果として、人数が足りなくなってところを突かれたが、ここでのDF西脇の判断を責めることはできない。勝負を分けたシーンとなったが、見ごたえ十分のワンシーンだった。
■ FW浅野拓磨が7ゴールで得点王惜しいところで20年ぶりの優勝を逃した四日市中央工だったが、今大会は旋風を巻き起こした。特に目立ったのは2年生のFW浅野で、この試合でも、スピードとテクニックを兼ね備えたドリブルでチャンスを作っていた。相方のFW田村翔は市立船橋との決勝戦は持ち味を出し切れず消えてしまう時間が長かったが、FW浅野は前線で奮闘し、大きな可能性を感じさせた。
しかも、スピードに頼るだけでなく、フィジカルも強いので、対峙するDFにとっては厄介な存在である。四日市中央工は、2年生が中心のチームなので、来年はさらに強力なチームになる可能性が高いため、来年も全国制覇のチャンスがある。残念ながら、初の単独優勝はならなかったが、91回大会にも大いに期待したいところである。
ここ最近になって、ほとんどのJリーグクラブが選手育成に力を入れてきて、優秀な人材が高校サッカーに集まらなくなっている。その傾向は、今後、さらに加速するはずで、高校サッカーの置かれた環境は厳しいと言わざる得ないが、国立競技場に4万人に以上の観衆を集めるなど、まだまだ、注目度の高い大会である。優秀な選手のほとんどがJクラブの下部組織に在籍するようになってきたので、競技レベルの低下も心配されるが、中学年代はクラブチームに所属し、高校年代は「高校サッカー」を選択する選手も少なくない。両者は、いがみ合うことなく、いい関係を築いてほしいところである。
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