■ 13年目で悲願達成!!!J2は最終節が終了し、FC東京、鳥栖、札幌の3チームが、来シーズン、J1に昇格することになった。鳥栖は、J2がスタートした初年度の1999年からリーグに参加している「オリジナル10」の1つであるが、10チームのなかで、唯一、J1昇格を経験していないクラブだったが、晴れて、13年目にして悲願の昇格を達成した。
今シーズンは、それほど前評判は高くなかった。京都からレンタル中だったエースのFW豊田がレンタルを延長してチームに残ったのは朗報だったが、即戦力級の補強もなくて、現状維持が精一杯かと思ったが、広島からレンタル移籍のMF岡本がレギュラーに定着し、2年目のMF藤田、MF早坂、MF金民友がJ2の中でも、トップレベルの選手に育って、中盤が厚みを増した。特に、MF藤田の存在は大きく、ゲームをコントロールするだけでなく、ロングスローと精度の高いキックで、たくさんのゴールをアシストした。MF藤田のロングスローは、鳥栖の新しい名物となって、ロングスローから直接、ヘディングでゴールが決まるシーンも多かった。
失点数の少なさも光った。終わってみると、38試合で34失点でリーグ3位の少なさだったが、ベテランのDF木谷を中心に、韓国人のDF呂成海も試合に出続けることで成長を見せた。DFラインは、「層の薄さ」を感じるポジションだったが、DF木谷も、DF磯崎も、ほぼフルシーズン怪我なくプレーし、来シーズンは、夢の舞台に立つことになる。
DF木谷は、2001年に大宮に入団した後、ずっとJ2でプレーしてきたので、33歳にして初のJ1挑戦となる。一方、DF磯崎は、1999年に平塚でプレーしているので、J1でも6試合に出場した経験があるが、2年目以降はずっとJ2でのプレーしているので、13年ぶりのJ1のピッチとなる。ともに、J2時代の仙台を支えた選手であるが、今回の昇格を人一倍、喜んでいることだろう。
■ 「ひたむきさ」と「ストライカー」一緒にJ1に昇格することになったFC東京、札幌も、タフなシーズンを乗り切って昇格を手にしたが、クラブ規模を考えると、鳥栖の昇格は「快挙」といえる。来シーズン、J1でプレーする18チームの中で、もっとも小さいクラブであるのはもちろんのこと、J2の中でも中位レベルといえる。J1とJ2は合わせて38クラブが存在するが、規模でいうと「30位程度」のクラブであり、そのチームが、18チームの枠の中に入って、J1で戦える権利の得たのだから、鳥栖のフロントや尹晶煥監督は評価されるべきである。
チームの武器の1つは「ひたむきさ」である。過去にも、鳥栖にやって来た選手が「ひたむき」を身に付けて、プレーヤーとしても、人間としても、大きくなっていった例を、何度も見ているが、この街には、そういうものを生み出す「何か」があるのだろう。有名どころを獲得するのは難しいが、無名の選手や、伸び悩み気味の選手を、大きく育てることが得意なクラブで、「ひたむきさ」の無い選手は、今の鳥栖に存在しないといっても過言ではないくらい、チーム全体に浸透している。
もちろん、技術のある選手も多いので、それだけではないが、「みんなで頑張る」という部分は、鳥栖というクラブがずっと大切にしてきた部分であり、よそのクラブのサポーターからも、一目置かれるところである。他チームのサポーターも、鳥栖の苦しかった時代をよく知っていて、さらに、チームのスタイルに好感を持っている人も多いので、今回の鳥栖の昇格を喜んでいる人は、たくさんいると思う。
また、ストライカーが育つことでも知られている。代表的なのは、FW新居辰基、FW藤田祥史、FWハーフナー・マイク、FW豊田陽平の4人で、FW新居は2005年、2006年と2年連続でJ2の日本人得点王になって千葉にステップアップし、そのあとを受けたFW藤田祥も2007年に24ゴールを挙げて、J2の日本人得点王となった。FWハーフナー・マイクは甲府に移籍し、2010年にJ2の得点王になって昇格に大きく貢献したが、ストライカーとして開花したのは2009年の鳥栖時代で、33試合で15ゴールを挙げている。近年、どのチームも、日本人ストライカーを育てるのに苦労しているが、このチームだけは「ストライカー」で困ったことはない。
■ 後押ししたサポーターの盛り上がり快挙を目前にして、ベストアメニティスタジアムには、たくさんのサポーターが集まるようになった。観客動員数を抜き出してみると、10月23日(日)のFC東京戦は15,489人、11月6日(日)の横浜FC戦は11,372人、11月20日(日)の北九州戦は12,884人で、J1昇格が決まった12月3日(土)の熊本戦は、22,532人を動員した。トータルでも平均で7,731人を記録し、過去最高だった2005年に迫る勢いを見せたが、最終節の2万人オーバーというのは、これまでの鳥栖には考えにくいことであり、スタジアムの雰囲気は凄まじいものがあった。
鳥栖は、松本監督時代の2006年に4位に躍進して以降、毎年のように上位争いに加わっており、シーズンの最終戦を入替戦進出の可能性を残したままで迎えることができたシーズンもあったが、ここまでの雰囲気になることはなかった。街の規模が小さいこともあって、土日の試合でも、5,000人程度しか入らない試合も多くて、観客動員で苦労してきたが、最後になって、これだけのサポーターに集まってもらったら、選手達も下手なプレーはできなくなる。「初昇格」というのが、呼び水になったと思うが、同じようにJ1昇格を目指して戦っていたクラブと比べても、サポーターの盛り上がりは段違いのものがあった。サポーターが昇格を後押ししたのは間違いない。
■ サガン鳥栖に期待したいこと (1)晴れて「昇格」となったが、ここがスタートラインでもある。地元も盛り上がっていて、初のJ1に向けて期待も高まってくると思われるが、少しひいき目で見ても「J1では厳しい戦いになる。」と予想せざるえない。クラブ規模の大きなチームを相手にして、18チームの中で「15位以内」に入るのは、相当に厳しいチャレンジであり、『1つ勝利するのも大変』という状況になることも十分に考えられる。
それほどお金のないクラブなので、出来ることは限られてくるが、エースのFW豊田を残留させられるかどうかが、オフの注目点となる。幸いにして、『京都との契約は今シーズンで切れる』ということなので「移籍金」はかからないが、G大阪、清水などの大きなクラブも獲得を希望していると報道されており、条件面では、相当に不利となる。FW豊田は2009年にJ1の京都で失敗しているのでクラブ選びは慎重になるだろうが、彼がいるのと、いないのでは大きく違ってくるので、残留してもらわないと困る選手である。
また、広島からレンタル中のMF岡本も大事な選手である。攻撃でも、守備でも、ここまでハイレベルにできる選手はいないので、彼も必要不可欠な選手である。広島も監督が代わっているので、「2年連続で借りる」というのは、かなり難しいと思うが、もし、彼がいなくなるとボランチが大変なことになるので、彼を慰留できるかも、大きなポイントになる。
■ サガン鳥栖に期待したいこと (2)せっかく、ここまで頑張って「J1昇格」を達成したので、フロントも、監督・コーチ陣も、選手も、サポーターも、頑張りどころで、出来ることをすべて行って「残留」という大目標に向かって一丸になる必要がある。それによって、「J1定着」ができれば、それに越したことはないが、現実的には、鳥栖のような規模のクラブが、ずっとJ1に居続けることは難しい。
これは、J2降格となった甲府、福岡、山形にも当てはまることで、一緒に昇格する札幌にも同じことが言えるが、J1には「18」というチーム数の上限があって、同じように「J1残留」や「J2昇格」を目指しているクラブがたくさんあるので、それらのライバルたちを出し抜いて、ずっとJ1に定着するというのは、やはり不可能に近いことであり、自分たちの頑張りだけで、どうにかなるレベルの話でもない。これらのクラブの場合、最善を尽くしても、降格となってしまう可能性は、低くないと思う。
個人的には、この中では、大都市のクラブということもあって、福岡や札幌には、もう少し上のレベルに到達できるだけのポテンシャルがあると思うので、もう少し頑張って欲しいところであるが、J2の千葉、東京V、京都、徳島、栃木SC、熊本あたりまで含めて、これらのクラブは、J1に上がったり、J2に下がったりしながら、少しずつ前進していくのがクラブとして、今、出来ることであり、J1に定着できる力を蓄えるまでは、しばらく辛抱しながら戦う必要があると思う。
したがって、サポーターも、現状を受け入れて、我慢することも必要になってくる。鳥栖も「J1昇格」を果たしたが、大盤振る舞いはできないと思うので、「なぜ、もっと補強をしないのか?」、「J1に残留する気があるのか?」という無責任な周囲の声に耳を傾ける必要はないと思う。本当に「微妙なところ」で成り立っているクラブなので、無理をして選手を補強しても、返却できなくなる可能性もあって、結果として、クラブ消滅の危機を迎えてしまっては、何をしているのか分からなくなる。
■ サガン鳥栖に期待したいこと (3)期待したいのは、たとえ、J2に落ちても、クラブが下がり目になっても、サポートし続けてくれる「スポンサー」や「サポーター」をたくさん見つけることであり、そのためには、J1の舞台で、人の心を惹きつける試合を見せることが大切になる。もちろん、勝ち続けることで、周囲の人を引き込むことができるということを、今シーズンの鳥栖が証明しているが、J1では同じようにはいかないだろうし、人を惹きつける要素というのは、サッカーの場合、勝利だけとは限らない。
1つの理想として挙げられるのは、甲府のケースである。甲府も同じように経営難のため、クラブの消滅の危機に陥ったが、それを乗り越えて2006年に初のJ1昇格を果たすと、大木監督のもと、戦力が乏しい中で、J1でも存在感を示した。結局、2007年にJ2に降格することになったが、J2に降格しても、観客動員はあまり減ることもなく、J1昇格を決めた2005年は平均6,931人だったが、J1に昇格した2006年は12213人、2007年は13734人で、J2に降格した後も、2008年が10354人、2009年が11,059人と、大きく落ち込むことなく、2005年以前と比べると、大幅に動員力をアップさせた。
甲府の場合、普通の陸上競技場がホームスタジアムとなるので「ハンディ」もあるが、初のJ1の舞台で、アグレッシブで、かつ、魅力的なサッカーを見せて、地元のサポーターの関心を呼び込むことに成功し、「ヴァンフォーレ」は完全に地元に定着した。甲府も、昇格や降格を繰り返しているクラブであるが、J1を経験したことで、クラブとして、確実ステップアップしているように思える。J1に昇格したシーズンは動員数が増えるが、J2に降格すると元に戻ってしまうクラブが多い中、異例のケースであり、成功をおさめたクラブの1つだと思う。
「勝負の世界」なので、勝てなくなると、人々の関心も薄くなってしまうので、並大抵のことではないが、そういう「スポンサー」や「サポーター」を多く見つけない限り、さらに上を目指すことは難しくなる。これは、簡単なことではないと思うが、「勝利」以外で人を惹きつけられる要素を、サガン鳥栖というクラブは、長い間、J2で戦ってきた中で、いくつか身に付けているようにも感じる。苦しいシーズンになるかもしれないが、期待したいところである。
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