■ 大阪大会の決勝戦2012年1月1日に決勝戦が行われる第91回の天皇杯の大阪大会は、阪南大学と桃山学院大学の決勝戦となった。会場はキンチョウスタジアムで、試合は8月28日(日)に行われた。この試合に勝ったチームは、9月4日(日)に行われる天皇杯の1回戦で滋賀県代表チームと対戦し、ここで勝つと、2回戦でJ1のガンバ大阪と対戦することができる。
阪南大学は「4-2-3-1」で、GK原田。DF飯尾、岩本、永井、二見。MF谷本、窪田、村山、可児、井上。FW泉澤というスタメン。対する桃山学院大学は「4-2-2-2」。GK圍。DF中島、谷口、朴、草野。MF須ノ又、面家、道上、山瀬。FW齋藤、中東というスタメンになった。
■ 阪南大学が天皇杯出場へ試合は桃山学院がやや優勢で始まるが、徐々に阪南ペースになっていく。阪南は1トップのFW泉澤が「運動量」と「スピード」を生かしてチャンスメークを行い、右SBのDF飯尾も積極的に攻撃参加して、サイドからも攻撃を仕掛けてくる。
先制したのは阪南で、前半20分にDF飯尾の攻撃参加から右CKを獲得すると、MF窪田が左足で蹴ったボールをファーサイドのDF永井がヘディングシュートを決めて先制。さらに前半37分にも、中央をドリブルで切り裂いたFW泉澤の素晴らしいスルーパスから、裏に飛び出したMF村山がうまくDFの間をすり抜けて、GKの頭の少し上を超える「技ありシュート」を決めて追加点。2対0とリードを広げる。
桃山学院は前半30分過ぎから、右サイドアタッカーのMF道上のところからチャンスを作り始めるが、FW齋藤とFW中東の2トップにボールが入らず、決定機はほとんど作れない。前半は2対0と阪南がリードして折り返す。
後半も阪南ペースで進む。阪南は後半12分にも、キャプテンのMF井上のパスを受けた右SBのDF飯尾が右足で強烈なミドルシュートを決めて3対0とリードを広げる。終盤は桃山学院にもチャンスシーンが訪れるが、ゴール前での「積極性」を欠いてゴールには至らず。試合は、3対0で阪南が勝利し、天皇杯出場権を獲得。初戦で滋賀代表のSAGAWA SHIGAと対戦することになった。
■ 1トップのFW泉澤仁が活躍今年の両チーム対戦成績は「1勝1敗」ということで、僅差の試合になることが予想されたが、予想に反して、阪南が快勝した。セットプレーからDF永井のゴールで前半20分に先制したのが大きく、先制した後は、阪南が試合の主導権を握った。2点目、3点目を奪った時間帯も良くて、理想的な展開になった。
「攻撃のバリエーションの豊富なチームである。」という印象を持ったが、中でも、1トップで起用されたFW泉澤仁の活躍が光った。FW泉澤は165㎝という身長なので、「空中戦」で勝負することはできないが、抜群のスピードで多くのチャンスを作った。ゴールこそなかったが、この試合でもっとも活躍した選手で、強烈な印象を残した。6月に行われたアンジェロ・ドッセーナ国際ユース大会の全日本大学選抜にも選ばれている選手であるということで、試合前からクローズアップされていたが、期待通りの活躍だったといえる。
FW泉澤は千葉県の出身で、アルビレックス新潟のユースでプレーしたが、トップチーム昇格はならず、阪南大学に進んで、現在2年生である。DF酒井高徳の1年後輩に当たるが、これだけの「スピード」と「テクニック」を持つ選手でもトップチームに上がれないのだから、プロになるというのは大変なことである。
■ DF永井鷹也が先制ゴール阪南では、先制ゴールを決めたDF永井鷹也も大学2年生で、この試合では、空中戦の強さを発揮して勝利に大きく貢献した。DF永井はジュビロ磐田のユース出身で、アンダー世代の日本代表に招集されているが、「和製・パパドプロス」と表現したくなるほど「体の幅」があって、見るからに「フィジカルが強そうな体つき」をしている。そして、実際にフィジカル勝負ではほとんど勝っていて、セットプレーの場面では、常にゴールの可能性を感じさせた。
また、3点目のゴールを決めたDF飯尾竜太朗のプレーも光った。彼は大学3年生でヴィッセル神戸のユース出身となるが、タイミングのいい攻撃参加を見せていて、バランスのいいSBである。ゴールシーンは言うことなしのファインゴールだった。
他には、2点目のゴールを決めたMF村山拓哉のダイナミックなプレーも印象に残った。彼は大学4年生で、久御山高校の出身であるが、どこにでも顔を出すという感じで、ピッチ上で、もっとも目立った選手の一人である。意外といっては失礼だが、ゴール前では繊細なプレーもできて、ゴールシーンは「オシャレ」だった。「活動量」も素晴らしいレベルにある。
■ C大阪入りが決まったMF井上翔太チームを引っ張ったキャプテンのMF井上翔太は、先日、C大阪への加入が発表された選手である。愛媛県出身で東福岡高校を卒業して大学に進学しているので、日本代表のDF長友とよく似た経歴である。いかにもC大阪が好みそうな「テクニックのあるタイプ」で、3シャドーの一角として、活躍することが期待される。
この試合は、阪南にとって「楽な展開」になったので、MF井上が無理に攻める必要が無かったため、FW泉澤、MF村山らと比べて目立つシーンはなかったが、ボールを持ったときは「雰囲気のある選手」で、ボールの持ち方もいい。したがって、ドリブルをするのか、パスをするのか、シュートをするのか、読みにくい。
C大阪の3シャドーは、ドリブルで打開する力は求められるので、プロに進んでから「ドリブル」がどこまで通用するかが活躍できるかどうかのポイントになるだろうが、味方をうまく使えそうなタイプなので、(もし、来シーズンもチームに残るようだと、)MF清武、MFキム・ボギョン、MF倉田といった選手とは、いい関係を築けそう。近年、大学卒の選手が即戦力になっていることが多いので、クラブとしても、1年目から活躍することを期待しているはずなので、しっかりと準備をして、プロの世界に飛び込んでいってほしい。
■ 桃山学院は持ち味を出せず一方の桃山学院は、セレッソ大阪、サガン鳥栖、カターレ富山で監督経験のある楚輪監督が、2月からチームを率いている。タレントはいるので彼らを生かしたかったが、暑さの影響もあったのか、自分達のリズムでプレーすることができなかった。
こちらもユースから大学に進んだ選手が核になっているが、いずれもC大阪U-18出身となる長身のFW中東、サイドアタッカーのMF道上といった攻撃的なポジションの選手はゴールに絡むことができなかった。FW中東は大学3年生なので、MF山口蛍やDF丸橋と同期で、MF道上は大学2年生なので、FW永井龍やMF扇原を同期となるが、プロで活躍している選手に負けずに上を目指してほしいところである。
■ レベルアップする大学サッカーということで、大学生対決となった大阪大会は、阪南大学が勝利して天皇杯出場を決めた。大学サッカーというと、高校サッカーなどと比べても露出が少なくて目にする機会も少ないが、じっくり見るとレベルも高くて、いい選手がたくさんいることが分かる。「Jリーグでも活躍できるのでは?」と思える選手も何人もいて、彼らがどういうサッカー人生を歩んでいくのか?も興味のあるところである。
最近は、ユース年代で活躍しても、簡単にトップチームに上がれなくなっている。アンダー世代の代表歴のある選手でも、トップチーム昇格を逃すことも珍しくないが、彼らが大学に進んで、「大学」というステージでプレーすることで、全体のレベルも上がってきているように感じられる。
ここで活躍してプロを目指している選手も多いと思うが、大学を経由してから、ユース時代にお世話になったクラブに入団を果たす選手も増えてきることも見逃せないところで、浦和のDF宇賀神、横浜FMのMF森谷、愛媛FCのDF前野やMF小笠原らが、その例となる。こういうパターンが増えていくと、Jリーグのクラブにとっても、大学サッカーにとっても「いい話」で、両者は「いい関係」を築くようになってきている。
欧州では、大学を経由してプロに進むケースは稀なので、「選手育成」と絡めて「大学サッカー」をネガティブにとらえる人もいるが、その必要は全くない。「欧州」のスタンダードではないが、「欧州と違うから。」、「欧州ではありえないから。」というのは「否定の理由」とはならない。大学サッカーというのは、日本あるいは韓国といった特定の国だけが持つ「ストロングポイント」な部分であり、選手育成を考えると「大事な場所」である。
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