■ 準々決勝アジアカップの準決勝は韓国と対戦することになった。前回の2007年大会では3位決定戦で対戦しており、日本がボールを支配していたが、延長戦を含めて0対0で終了。結局、PK戦の末に韓国が勝利し、日本は4位と終わったという苦い思い出がある。
ただ、この試合は3位決定戦であり、近年、東アジア選手権で対戦したことはあるが、アジアカップやワールドカップ予選で、世界大会や上位進出をかけて日韓が激突したことはなくて、リアルファイトは、1997年のワールドカップ予選以来といえる。両チームともにチームを作り始めたところであり、まだチーム作りの途中ではあるが、プライドにかけても負けるわけにはいかない。
■ 韓国の守備陣韓国チームは、ここまでは4試合で3失点とまずまずの成績であるが、盤石とは言えない。もともと、攻撃的なスタイルのチームで、先の南アフリカW杯でも、日本が4試合で2失点だったのに対して、韓国は4試合で8失点。(得点は日本が4試合で4得点、韓国が4試合で6得点。)両サイドバックが果敢に上がっていくが、その裏を取られてあっさり失点するケースも少なくない。
正GKはチョン・ソンリョン。Kリーグの城南一和に所属しており、12月末に行われたクラブW杯にも出場した日本でもお馴染みのキーパーである。190㎝と大柄な割に俊敏性もある非常にレベルの高いキーパーであるが、ポジショニング等の軽率なミスからゴールを許すシーンも見られる。グループリーグ2試合目のオーストラリア戦の失点も飛び出すタイミングが遅れて同点ゴールを許してしまった。
センターバックは、2010年途中まで鹿島アントラーズでプレーしたDFイ・ジョンスが警告累積で出場停止のため、京都サンガのDFカク・テヒの先発が濃厚。DFファン・ジェウォンとコンビを組むことになりそうだ。
まず、南アフリカW杯でも2ゴールを奪っているDFイ・ジョンスがいないのは日本にとってはありがたい。DFカク・テヒは2010年シーズンは京都サンガでプレーしたがミスも多くJ2降格の原因の一人となった選手で、安定しているとは言い難い。DFイ・ジョンスはフィードも正確で、攻撃のスタート地点になることもあったので、韓国としては痛手である。
とはいっても、伝統的に韓国のセンターバックはハイボールには強くて、サイドから単純にクロスを上げただけでは競り勝つことは難しい。DFカク・テヒも空中戦には非常に強い選手である。日本は機動力を生かして攻め込みたいが、韓国のセンターバックはラフなところもあるので、いい位置でセットプレーをもらえれば得点チャンスは膨らむだろう。
サイドバックは右がDFチャ・ドゥリ、左がDFイ・ヨンピョという2002年の代表戦士が入っている。スコットランドリーグのセルティックでプレーするDFチャ・ドゥリの父親はアジアサッカー史上最高の選手とも言われる車範根(チャ・ボングン)氏。ブンデスリーガで通算95ゴールを記録している名選手である。このDFチャ・ドゥリのスピードとパワーは圧倒的で、果敢なオーバーラップは迫力十分で脅威を与えるだろう。マッチアップするDF長友との体格差が心配であるが、クロスの精度はそれほど高くはなくて、本職がフォワードなので守備で危なっかしいところもある。身体能力は脅威であるが、狙い目ではある。
一方、左サイドのDFイ・ヨンピョはテクニックのある選手で、シザーズ・フェイントからクロスを上げるのが得意。パス出しも出来るが、176㎝と韓国の最終ラインの中では小さい選手なので、最終ラインからロングボールを蹴るときは彼のスペースに蹴って勝負したいところである。
■ 韓国の中盤①キーとなる中盤は、MFパク・チソン、MFク・ジャチョル、MFイ・チョンヨンが攻撃的な位置に入る。右にMFイ・チョンヨン、中央にMFパク・チソン、左がMFク・ジャチョルとなることが多いが、MFパク・チソンとMFク・ジャチョルはポジションチェンジも多く、ポジションにとらわれない動きを見せる。
マンチェスター・ユナイテッドでプレーするMFパク・チソンは、現時点でアジア最高の選手であり、マンチェスター・ユナイテッドでは、常にスタメンというわけではないが、貴重な戦力となっておりファーガソン監督にも重宝されている。
武器は世界最高レベルといえる「運動量の多さ」であり、攻守ともに献身的である。近年は、攻撃的なセンスも備えるようになってきており、バイタルエリアでボールをもらうのがうまくて体の使い方も巧み。いい位置でファールをゲットすることも多い。MFパク・チソンがバイタルエリアでボールを持つと、韓国の選手は次々と上がってくるので攻撃に厚みが出るので要注意である。ただ、「パスセンス」や「決定力」は最上級という訳ではないので、MFパク・チソンだけを警戒しすぎるのも危険である。
一方、MFク・ジャチョルは今大会で4ゴールを挙げている選手で、乗っている選手である。今大会で韓国が挙げた8ゴールのうちの4ゴールを記録しており、フィニッシュに絡む動きを警戒したい。プレミアリーグのボルトンでプレーするMFイ・チョンヨンは典型的なサイドアタッカーで、ボルトンでもレギュラーポジションを確保している。身体能力が高く、ドリブル、パス、シュートとどれもハイレベルである。右サイドにポジションを取ることが多いが、左サイドからのクロスに対して中に入ってきてシュートを狙うことも多い。ヘディングも強いので怖い選手の一人である。
■ 韓国の中盤②ダブルボランチはMFキ・ソンヨンが下がり目で、レフティのMFイ・ヨンレが前目に位置する。スコットランドのセルティックでプレーするMFキ・ソンヨンはスケールの大きなセンターハーフで、186㎝の長身。ロンドン世代でもある。武器は右足のキックの精度の高さで、韓国の攻撃はMFキ・ソンヨンを経由することが多い。
警戒したいのはセットプレー。ほとんどの場合、MFキ・ソンヨンがキッカーとなるが、高確率で精度の高いボールが入ってくる。南アフリカでもMFキ・ソンヨンのセットプレーからゴールが生まれているので、セットプレーはもっとも注意したい。
一方で、運動量はそれほど多いわけではなく、クイックネスに優れているわけでもない。コンビを組むMFイ・ヨンレが積極的に攻撃に参加するため、MFキ・ソンヨンが中盤で一人で残っていることが多いが、相手のカウンターのときに、枚数が足りなくなってピンチになるケースは多い。日本は「カウンター」になったときは大きなチャンスとなる。
■ 韓国の前線フォワードは1トップ。南アフリカ大会ではFWパク・チュヨンが入っていたが、モナコでの試合中に負傷。アジアカップは当初の23人のメンバーには入っていたが、欠場することになった。
代わって起用されているのは19歳のFWチ・ドンウォン。186㎝と大きな選手であるが運動量もあって、フォワードの軸として起用されている。ただ、ストライカーとしてのセンスは、それほど高いとは感じない。サイドに流れたり、中盤まで下がってきて、起点となる動きをしてくるが、日本としては確実につぶしたいところ。DF岩政とマッチアップすることになるだろうが、特に、高さ勝負になったときは確実に跳ね返したい。
準々決勝のイラン戦では、FWチ・ドンウォンを目掛けてロングボールを蹴ることが多かった。日本のプレスに対して韓国がどういう対処をしてくるかは分からないが、FWチ・ドンウォンのところをつぶしてしまえば、それほど怖い攻撃にはならない。FWチ・ドンウォンのところでキープされて、MFパク・チソンあたりに前を向いてボールが渡ると大ピンチになるので、DF岩政の役割は重要である。
■ 試合展開 試合展開としては、これまでの試合と同様に、韓国は立ち上がりからフルパワーで入ってくるだろう。韓国のプレスは強烈なので、このプレスを日本がどう対応できるかが最初のポイントになる。MF遠藤やDF内田らを中心に落ち着いてボールを回せるか?リスクを避けるために最終ラインからロングボールを蹴ってプレッシャーが弱まるのを待つのも1つのアイディアである。不用意に中盤で奪われると、開始早々に韓国に先制ゴールを許す最悪の展開になるかもしれない。
安全策として、ロングボールを多用する場合、前線のFW前田やMF本田圭がどれだけのマイボールに出来るかも、勝負の分かれ目になる。ロングボールを蹴ってもすぐに跳ね返されると、相手のペースになってしまうので、前線の二人の出来も試合の行方を左右するだろう。
日本としては最初の30分は「0対0」でもOKである。序盤は韓国が押し気味になることが予想されるが、韓国というチームは「得点力」が高いわけではないので、先制ゴールを狙って押し込んできても、結果的にゴールが奪えずにリズムを失っていくケースが多い。また、必ずと言っていいほど、後半途中になると足が止まってくるので、日本がボールを支配できる時間がやって来るはずである。
日本が有利な点は、
・中3日という日程
・攻撃のバリエーションの多さと決定力
・中盤のボール回し
である。
韓国にはMF遠藤のようなボールを落ち着かせることの出来る選手はいないので、とにかく一本調子で来るだろう。序盤は韓国の勢いを殺すようなプレーをして、出来れば試合を落ち着かせたい。韓国はMFユン・ピッカラムがイラン戦で途中出場して決勝ゴールを挙げたが、他に目立った交代カードはなくて、行き詰ったときに流れを変えられるカードは持っていないので、日本のペースに持っていくことができれば、自然と得点チャンスは生まれてくるはずである。
日本も国際経験の乏しい選手が何人かいるが、韓国も同様であり、日本のキーマンはDF内田、DF岩政、MF本田圭、FW前田の名前を挙げておきたい。10月のアウェーの日韓戦を見る限り、勝機は十分にあるだろう。大勝利を期待したいところである。
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