■ ナビスコ決勝 ナビスコカップの決勝戦。リーグ戦で9位のサンフレッチェ広島と、リーグ戦で11位のジュビロ磐田のカード。関東のチームが決勝に進出しなかったのは、大分トリニータと清水エスパルスが対戦した2008年以来で2回目。舞台は東京の国立競技場である。
1993年のJリーグ開幕に先駆けて、その前年の1992年にスタートしたナビスコカップ。第1回大会から第3回大会までは黄金時代のヴェルディ川崎が3連覇を成し遂げたが、その後は、群雄割拠の時代に入った。リーグ戦で3連覇中の鹿島アントラーズが1997年、2000年、2002年とヴェルディと同じく最多タイの3度のナビスコ制覇を達成していて、この2チームに続くのが、ジェフ千葉とFC東京。ともに2度のナビスコ制覇を達成している。
複数回のチャンピオン経験があるのは、この4チームのみで、清水、磐田、柏、横浜FM、浦和、G大阪、大分が各1回ずつ。決勝に進んできた広島は初制覇、磐田は1998年以来となる2度目のナビスコカップ獲得を目指す。
■ スタメン準決勝で川崎フロンターレを下して決勝戦に進んできたジュビロ磐田は<4-2-2-2>。GK川口。DF山本康、古賀、イ・ガンジン、山本脩。MF那須、上田、西、船谷。FWジウシーニョ、前田。MF岡田、MF成岡、FW山崎らがベンチ入り。DF駒野、DFパク・チュホは欠場。MF上田がスタメンに復帰。
一方、清水エスパルスを下して決勝進出を果たした広島は<3-6-1>。GK西川。DF森脇、中島、槙野。MF森崎和、森崎浩、ミキッチ、山岸、高萩、高柳。FW李忠成。怪我から回復してきたFW佐藤寿がベンチ入り。DFストヤノフ、DF横竹、MF青山敏、FW山崎らがベンチスタート。
■ 2対2で後半終了試合はファイナルらしく、両チームとも慎重に試合に入って静かな展開となる。双方ともになかなかシュートチャンスを作れないままで迎えた前半36分に磐田は相手のGK西川のキックミスをMF船谷が拾って右サイドに開いたFW前田に展開。FW前田が右足でクロスを上げると、ゴール前でドフリーになっていたMF船谷がヘディングで決めて先制する。
ビハインドになった広島だったが、前半43分に右サイドからMFミキッチがドリブルで仕掛けて相手DF二人を外してペナルティエリアに侵入。ニアサイドへのクロスをFW李忠成が合わせて同点に追いつく。リーグ戦でも絶好調のFW李忠成のゴールが生まれて前半は1対1で終了する。
後半3分に広島はミドルエリアからのパスに反応したMF山岸が裏のスペースに抜け出すと、落ち着いて右足で決めて2対1とリードを奪う。そのままのスコアで試合は進んで、広島が逃げ切るかと思われた後半44分に、磐田がコーナーキックを獲得すると、最後はゴール前のFW前田が押し込んで土壇場で同点に追いつく。試合は30分間の延長戦に突入する。
■ 磐田が突き放す延長戦は土壇場で追いついた磐田が勢いに乗る。延長前半12分に再びコーナーキックからチャンスを作ると、最後は途中出場のMF菅沼が押し込んで3対2。その直後にもFW前田のパスからFW山崎が決めて4点目。一気に2点リードを奪う。あきらめない広島も、延長の前半ロスタイムにDF槙野が直接フリーキックを決めて3対4と迫る。
延長後半の立ち上がりは広島が攻め込むが、延長後半4分に、またしても磐田のFW前田が個人技から鮮やかなシュートを決めて5対3と2点差をつける。終了間際に広島はDF槙野がPKを得るが失敗。結局、そのまま5対3で磐田が勝利。2004年の天皇杯以来となる7年ぶりのタイトルを獲得した。一方の広島は悲願のタイトル獲得はならなかった。
■ 死闘を制したジュビロ5対3という最終スコア。延長になってから4つのゴールが決まるという稀に見る壮絶な死闘となったファイナルは、磐田のFW前田が2ゴール2アシストの大活躍でチームをタイトルに導いた。ポイントになったのは、後半終了間際の同点ゴール。
後半に逆転された後の磐田は慎重なサッカーを見せた前半とは打って変わって前に出てきて、広島を押し込んでいく。なんとか耐えていた広島は後半32分にサイドから突破でチャンスを作っていたMFミキッチに代えてDF横竹を投入し、DF森脇との連携で右サイドを守って2対1のままで逃げ切ろうと試みたが、結局、追いつかれてしまった。その前にも、MF青山敏、FW山崎を投入していて、交代カードを使いきった広島としては、延長戦のことは頭から外してなりふり構わずに1点を守ろうとしたが、守備を重視して早めの選手交代を行って3枚のカードを使いきったため、延長戦では、守備的な布陣になって延長で攻め手が磐田と比べると、少なくなってしまった。
バランスを重視して、MF青山敏、FW山崎、MF横竹を投入した広島と、MF菅沼、FW山崎というアタッカーを投入した磐田。結局、磐田は、MF菅沼とFW山崎が延長戦で3点目と4点目のゴールを決めたが、完全に中盤がなくなって行ったり来たりの展開になった中で、アタッカーに元気(=余力)が残っていた磐田が力で押し切った形となった。
■ 前田遼一がMVPFW前田遼一は2ゴール2アシストの活躍。誰が見てもMVPといえるほどの活躍を見せた。前半から広島のDF槙野とマッチアップすることが多く、DF槙野に抑えられるシーンもあったが、後半になるとリズムをつかんで大事な同点ゴールと5点目のゴールを奪った。120分間、フル出場で最後までスタミナが落ちずに、決定的な仕事ができたことが素晴らしかったといえる。
黄金時代が過ぎて、黄金時代の後のチームを引っ張ってきたFW前田であるが、なかなかチームが浮上することが出来ずに苦しんでいた。日本代表へアピールするためには、「もっと強いチームへ移籍した方がいいのでは?」という声もあって、いくつか移籍の噂も出ていたが、ずっとジュビロ磐田でプレー。ようやく、実を結んだといえる。
黄金時代にはタイトルの常連で、「強すぎる」とイメージしかなかった磐田であるが、何とタイトルは7年ぶりということで、空白の期間は長かった。FW中山、MF名波、MF藤田、MF福西、DF田中といった選手もチームを去って、代わりに期待されていたMF成岡やFWカレンといった選手も、なかなか殻を破れずにいたが、この日、タイトルをつかんだことで、何かが変わるかもしれない。
■ 光ったダブルボランチ磐田の選手は、A代表クラスは少なくなったが、若年層の代表でプレーした選手が多く、ポテンシャルは低くはない。しかしながら、ナイーブというか、消極的というと、大事なところで凡ミスが出たり、精神的にタフではない選手が多いというイメージがあったが、この日はタイトルがかかった決勝戦ということで気持ちが入っていて、いい戦いを見せた。
本職ではない左サイドバックに入っていたDF山本脩、途中からセンターバックに入ったDF大井といった半レギュラークラスの選手が気持ちの入ったプレーを見せて、最後まで集中してプレーしていたことも印象的だったが、何と言ってもダブルボランチのMF上田とMF那須のプレーが見事だった。
ここ数試合はスタメンを外れることも多かったMF上田は、この試合も先発から外れるのではないか?という予想が多かったが、スタメンの座を勝ち取って、セットプレーで抜群の精度のキックを見せて勝利に大きく貢献した。MF上田は北京五輪代表チームでプレーした経験を持っているが、タフな試合になると消えてしまうことが多く、ゲームを作る能力が高いにもかかわらず、ここ数年、飛躍できずにいたが、この試合は非常に良かった。
また、MF那須のアテネ五輪代表。本職がセンターバックなのか、ボランチなのか、どちらなのか分からなくなるほど、センターバックでも、ボランチでも起用されていて、彼も所属クラブでレギュラーになりきれずにチームを移ったが、この試合に限らず、今シーズンのパフォーマンスは非常に高くて、この試合はザッケローニ監督も見に来ていたが、代表に招集されたとしても全く不思議ではないほどである。
1点ビハインドの後半に追いつくためにギアをチェンジした磐田はサイドが積極的に駆け上がってチャンスを作ったが、その時にMF那須がしっかりと前線まで上がって行って、攻撃に絡もうとしていた。キャラクター的にはMF上田の方が攻撃センスがあって、MF那須は守備に定評のある選手であるが、この日は、MF那須がうまく攻撃に絡んでいった。
■ 逃げ切りに失敗一方の広島は逃げ切りに失敗して3対5の敗戦。ナビスコ制覇はならなかった。やはり、逃げ切りに失敗したことがすべてであり、後半32分にMFミキッチに代えてDF横竹を入れたのは間違いではなかったと思うが、逆に、もう少し段階でDF横竹を投入していても良かったかもしれない。
2対1とリードを奪ってからは磐田に攻め込まれていて、最終ラインとボランチが苦しくなってきていた。20分ほどの間、磐田の猛攻をしのいできたが、この時間は結果的に失点はしなかったが、MF西の惜しいシュートなど、危ないシーンが多くて、ここで体力を消費してしまったように印象がある。全ては結果論になってしまうのが交代策は難しいが、一部の交代は早すぎたと思われるし、一部の交代は遅すぎたように感じてしまうペトロビッチ監督の交代の選択だった。
■ 槙野の奮闘は実らず延長前半終了間際のスーパーフリーキックを含めて両チーム最多の6本のシュートを放ったのが広島のDF槙野。ビハインドになってからは積極的に攻め上がってシュートを狙っていった。しかし、最後はPK失敗。ほとんど時間がなかったので、もしPKが決まっていても、そのまま5対4で試合は終了しただろうが、DF槙野にとっては悔しい試合となってしまった。
ここ最近はゴールパフォーマンスにばかり注目が集まっているが、フリーキックを武器にしつつあるなど、プレーヤーとしての幅を広げていて、見逃せない選手になってきている。磐田は前半からDF槙野の攻撃参加を過剰と感じるほどに警戒していたが、それだけの価値のある選手になってきている。
貴重な若手の代表クラスのディフェンダーであり、J1の中で争奪戦になっているという話もあって、また、一部では本人はブンデスリーガへの移籍を望んでいるとされている。独特なプレースタイルであり、ずっとペトロビッチ監督の元でプレーしてからこそ、自由にプレーできている部分もある。ノーマルなサッカーをするチームへ移籍すると、ゴールパフォーマンスが目立つ「普通のセンターバック」になってしまう可能性もある。移籍先を探しているのであれば、慎重に考えないといけないだろう。
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