■ 新しい4年間南米のパアグアイを相手にPK戦の末に敗れてワールドカップの舞台から去ることになった日本代表チーム。パラグアイに負けたその翌日から、新しい4年間がスタートしている。サポーターに出来ることは、「観ること」、「感じること」、「語ること」、そして、「応援すること」である。
日本代表メンバー23人のうちの19人が所属しているJリーグが再開する7月14日。もちろん、南アフリカのワールドカップの全日程が終了してからである。ということで、リーグ戦の再開までには少し時間がある。
しかし、JFLがある。初の「鳥取」、初の「山陰」である。
#1 とりぎんバードスタジアム前
■ ガイナーレ鳥取準加盟クラブの1つであるガイナーレ鳥取は、鳥取県のプロサッカークラブである。2008年は5位、2009年は5位。2年連続で悔しい思いをしてきた。しかし、今シーズンは大きなチャンスを迎えている。ちょうど半分の17節が終了して、2位に勝ち点「6」の差をつけて首位。残り試合で4位以内をキープし、かつ諸条件をクリア出来れば、夢のJリーグ昇格となる。
ホームスタジアムは「とりぎんバードスタジアム」。中国地方では唯一のサッカー専用スタジアムであるという。収容人数は16,033人。鳥取駅からはシャトルバスで約15分ほど。駅からのシャトルバスが「無料」というのが目を引く。
47都道府県の中でもっとも人口が少ない鳥取県の人口は60万人をわずかに下回る。鳥取県というと思い浮かぶのが、「鳥取砂丘」、「らっきょう」、「ゲゲゲの鬼太郎」。ガイナーレ鳥取は新しいシンボルになれるのだろうか?
#2 鳥取駅の中の鬼太郎商店
■ 対戦相手のV・ファーレン長崎この日の対戦相手はV・ファーレン長崎(ヴィ・ファーレンながさき)。長崎県を本拠地とするチームでJFLに昇格して2年目。こちらもJリーグ準加盟クラブチームである。ここまで7勝7敗3分け。イーブンの成績である。こちらも4位以内を目指しての戦いが続く。
高校サッカー界の雄である国見高校をもつ長崎県。その国見高校のサッカー部のOBが中心となって結成された国見FCと、有明SCが2004年3月に合併し、新生「有明SC」が発足。2005年3月にV・ファーレン長崎が誕生した。数多くの優秀なサッカー選手を輩出している長崎県からJリーグクラブが生まれるのか?
#3 V・ファーレン長崎のサポーター
■ 後期の開幕戦梅雨の時期に入っていて、この日の鳥取は朝からだった。キックオフは19:02。
スタメンは、まずホームのガイナーレ鳥取。GK小針。DF尾崎、中山、喜多、冨山。MF服部、実信、小井出、奥山、奥山、美尾。GK小針は元U-17日本代表、MF服部はフランス大会と日韓大会の日本代表メンバー。元U-20日本代表のFW阿部、元日本代表でフランス大会のメンバーであるFW岡野ベンチスタート。コートジボワール出身のFWハメドはベンチ外。DF尾崎は新潟、DF喜多は草津、MF美尾は京都などでプレーした。監督は昨シーズンの途中から東京ヴェルディを指揮した松田氏。
対する長崎はGK近藤。DF杉山、伝庄、藤井、神崎。MF熊谷、山本、川崎、山城。FW宮尾、有光。DF藤井は昨シーズン、ザスパ草津でレギュラーをつかんでいたセンターバック。158cmと小柄なMF山城はJ2のサガン鳥栖でキャリアを積んだ攻撃的MF。GK近藤はFC東京、MF山本はロアッソ熊本、FW有光はアビスパ福岡でプレー経験を持つ。そしてベンチにはモンテディオ山形、FC東京、横浜FMマリノスでも活躍したMF佐藤由紀彦が控える。監督は昨シーズンは草津を率いた佐野氏。
#4 売店
■ 美尾の決勝ゴール雨上がりのピッチの中、2019人のサポーターが駆け付けた後期の開幕戦は、前半はアウェーの長崎ペースで進む。昨シーズンまでロアッソ熊本でプレーしていたMF山本翔平を中心に長崎がボールをポゼッションする。鳥取はサンフレッチェ広島や浦和レッズ、湘南ベルマーレでもプレーした185cmのターゲットマンのFW梅田を起点に攻めようとするが、FW梅田のところでボールが落ち着かない。
先制したのは長崎。前半13分にアビスパ福岡でもプレーしたFW有光がドリブル突破から相手を外してからシュート。シュートの威力はそれほどでもなかったが、雨の影響なのか、コースが変わったのか、GK小針が止められずに長崎が先制する。FW有光は7ゴール目。前半は1対0の長崎リードで終了する。
昇格を果たすためには取りこぼしは許されない鳥取だったが、後半開始早々に追い付く。左サイドでボールをもったFW美尾のクロスに対して長崎のディフェンスがハンド。PKとなると、これをミスター・ガイナーレのMF実信が決めて1対1の同点に追い付く。
そして試合のハイライトは後半34分。中央でボールを持ったMF美尾がドリブルで相手をかわしてシュートコースを作って左足で強烈なミドルシュート。これが決まって2対1と逆転に成功する。MF美尾は栃木ウーヴァFCに続く2試合連続ゴールとなった。
結局、2対1で鳥取が勝利。これで13勝1敗4分け。後期も白星スタートとなった。
#5 サッカー専用スタジアム
■ 前半は長崎、後半は鳥取ペース試合の前半は長崎ペース、後半は鳥取ペースとなった。
これは雨の影響も大きく、試合が始まる頃には雨は止んでいたが、ピッチの右側半分は水がたまっていて、グラウンダーのボールが突然止まったり、バウンドしたボールが急激に伸びたりと、攻撃側は組み立てに苦労した。比較的、雨の影響が少なかった左側に向かって攻めていたチームが優勢になったのは必然だった。
■ 決勝ゴールは美尾敦前半に1点ビハインドになった鳥取だったが、MF美尾の活躍で2対1の逆転勝利。後半戦も開幕白星スタートとなった。
甲府、京都、甲府とキャリアを積み上げてきたMF美尾は、今シーズンからJFLのガイナーレ鳥取でプレー。さすがに、この中でスピードとテクニックは1つ抜けていて、特に後半になると、相手の右サイドをズタズタにした。
京都サンガのJ1昇格に貢献した後、2008年と2009年は甲府でプレー。レギュラーというわけではなかったが、光るプレーを見せていて、まだまだ、Jリーグの舞台でも十分に出来る選手であることは間違いないところであるが、完全にテクニシャンタイプであり、いいプレーもあるがなかなか続かない部分もある。
波があることがプレーヤーとしての飛躍を阻んできた感もあったが、この日は運動量も多く、守備面での貢献も非常に高かった。いい意味での予想を裏切るプレー内容であり、以前とは別人のような雰囲気があった。この日のゴラッソなゴールで2試合連続ゴール。チーム内での地位も確立されていくだろう。
■ MOM級の働き決勝ゴールを決めたMF美尾がMOMに選ばれたが、個人的にはMF奥山泰裕でもおかしくはないと思った。
前半は雨のピッチに苦戦したが、後半になると鳥取はMF美尾とMF奥山の二人の動きが目立ちに目立っていた。いちおう、MF美尾はフォワード登録であるが、基本的にはポスト役のFW梅田(or FW阿部)が中央に構えていて、MF小井出、MF美尾、MF奥山の3人が動き回るスタイル。ゴールやアシストはなかったが、最後まで走り続けたMF奥山のプレーは見事だった。
多くの選手がJリーグを経験している鳥取であるが、彼もジェフ千葉の出身。ジェフ・リザーブズにも所属していたが、鳥取では2シーズン目。この辺りの、Jリーグに届きそうで届かない位置にいる選手はたくさんいるが、JFLからJリーグに上がって評価を高めていった選手はカターレ富山のMF朝日、GK中川、栃木SCのDF入江ら少なくない。このまま鳥取でポジションをつかんでJ2に上がれるとしたら、彼のキャリアも好転するはずである。
#6 岡野雅行(背番号30)
■ 阿部祐大朗のキャリア①鳥取には、MF服部年宏、FW岡野雅行の日本代表経験者がいて、前述のMF美尾やMF奥山、DF喜多といったJリーグ経験者も多い。どちらかというと、Jリーグを経験していない選手を探す方が難しいくらいであるが、この中でもFW阿部祐大朗という選手には注目せざる得ない。
桐蔭学園時代から年代別の日本代表に名を連ねていた世代を代表するストライカーで、2003年に横浜Fマリノスに加入。将来の日本代表のエースと目された時期もあったが、期待通りのキャリアとはならなかった。
思い出されるのが2003年末のワールドユース。MF今野主将を中心に、GK川島、DF菊地、DF徳永、MF山岸、MF小林大、FW坂田といった多彩なメンバーをそろえた日本代表はグループリーグを突破し、決勝トーナメントでも韓国を撃破しベスト8に進出する。このチームのストライカーがFW阿部祐大朗だった。
大熊監督の起用方法にも疑問は残ったが、結局、この大会でFW阿部は期待外れに終わり、代わって、エジプト戦、ブラジル戦でゴールを決めた国見高校3年のFW平山相太が台頭してくる。その大会の直後に行われた高校サッカー選手権でFW平山相太はヒーローとなってアテネ五輪にも出場するが、そのFW平山自身もFW矢野の代役としての選出だった。南アフリカ大会の23人のメンバーに選ばれたFW矢野、選ばれなかったFW平山、そして、JFLでプレーするFW阿部と3者3様のサッカー人生であるが、また、彼らが交わることはあるのだろうか。
■ 阿部祐大朗のキャリア②そのFW阿部は2007年、2008年に徳島でプレーした後、ガイナーレ鳥取に加入。昨シーズンは30試合で5ゴール、そして今シーズンはここまでチームトップの7ゴール。この日はFW梅田に出番を譲ってスタメンから外れていたが、後半途中から投入。1対1の状況。前期の長崎戦で2ゴールを決めて逆転勝利に貢献した彼に期待する声援は非常に大きかった。
試合途中で彼のやや遠回りしたキャリアを思い出している時、「彼が逆転ゴールを決めて鳥取が勝利」という展開を期待したが、その通りにはいかなかった。ただ、多くの人に絶賛された柔らかいボールタッチとポストプレーは健在だった。
■ 強小弐年チーム名のガイナーレは、「ガイナ(=出雲伯耆地方の方言で「大きな」という意味)」から来ているが、鳥取県は大きな県ではない。むしろ、全国的に見れば小さな部類である。
その「大きな」チームのチームスローガンは「強小」。去年が「強小元年」、今年が「強小弐年」。今年が2年目のシーズンとなる。「強」とは?「小」とは?
以下が社長の言葉である。
『強小元年』 (2009年1月12日)
強さの魅力と小ささの魅力
その融合がガイナーレ鳥取の価値
新たな価値「強小」の時代が始まる
今ガイナーレ鳥取は 「強」 であることを求められていると思います
我々もそうありたいと思っておりますし とことん追い求める決意です
常々申し上げておりますように 勝敗だけがサッカー/スポーツの魅力とは考えておりませんが
Jリーグ昇格を必達目標とする今 明確にその重要性を掲げたいと考えております
「小」 強大という言葉は辞書に載っておりますが強小はございません
しかし昨シーズン 「小」であるが故の この地方の底力を思い知りました
「小」であるが故の強固な結びつきに支えて頂きました
大が小を兼ねた時代は過ぎ去った と感じています
強と小の融合が新たな価値となる時代が到来しつつあると感じています
小であるからこそ強 強であるからこそ小
とにもかくにも 「全力」で 「創意工夫」のもと
「感謝」の気持ちを忘れず シーズン終了まで戦い抜きます
皆様と共に戦ってまいりたいと願っておりますので
今シーズンも何卒宜しくお願い致しますhttp://gainare.blog77.fc2.com/blog-entry-76.html立派なスタジアムと、温かいサポーターを持つ小さな県の小さなクラブは、この秋、夢を叶えることが出来るだろうか?もし、その夢が叶うとしたら、「強」や「大」が支配的なJリーグの中で、別の風を持ったJクラブが誕生することになる。
#7 試合終了後

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