■ JFLの後期4節全18チームの2回戦総当たり方式で行われるJFLは後半戦に入っている。後期4節のこの日は、17位のFC刈谷と3位のニューウェーブ北九州が愛知県刈谷市のウェーブスタジアムで対戦。JFLの生観戦は、岡山と富山に次いで3回目となる。
FC刈谷の前身はデンソーサッカー部。2001年には、現在、徳島ヴォルティスでプレーするFW徳重隆明がMVPと得点王を獲得する大活躍を見せて5位に食い込むが、翌年、FW徳重がセレッソ大阪に移籍。その後はチーム成績も低迷し、2005年には休部となった。
チーム存続の危機が訪れたが、2006年に刈谷市の市民が中心となって、市民のクラブとして生まれ変わり、「FC刈谷」が誕生する。現在は、Jリーグの準加盟クラブではないため、Jリーグ昇格の可能性はないが、将来的なJリーグ加盟も視野に入っているという。
#1 富士松駅のホーム
■ ホームタウンの刈谷市FC刈谷のホームタウンである刈谷市は愛知県のほぼ中央に位置し、人口は約14万人。豊田自動織機、デンソー、トヨタ紡織、トヨタ車体、アイシン精機等、トヨタグループの中心企業の多くが本社や主力工場を構える日本有数の自動車工業都市である。
JRの刈谷駅はJR名古屋駅から快速電車で約20分。ただ、ホームスタジアムのウェーブスタジアムの最寄り駅は名鉄本線の富士松駅になる。富士松駅からスタジアムまでは徒歩で約20分。刈谷駅から富士松駅までは名鉄で4駅である。
#2 富士松駅前
■ 徒歩で20分キックオフ2時間前にあたる16時の少し前に富士松駅に到着。
富士松駅からウェーブスタジアムまでの道のりは、予想以上の田園風景であったが、雨も上がって天気の心配はなさそう。しばらくすると、逢妻川の向こうにスタジアムが見えてきた。
#3 スタジアムまでの道のり

#4 逢妻川とスタジアム
■ ウェーブスタジアムホームスタジアムのウェーブスタジアムは、1994年のわかしゃち国体のサッカー競技で使用されることを目的に球技専用グラウンドとしてオープンしたが、その後、1999年に全面改修が行われて陸上競技場兼用として生まれ変わったという。
1996年からはJFLに昇格を果たしたデンソーのホームグラウンドとして使用されてきて、2007年に『ウェーブスタジアム』という名称がつけられた。収容人数は約4000人。メインスタンドは屋根付きの比較的、きれいなスタジアムである。
#5 スタジアム周辺
■ JFLの現状実力的には、「J1」、「J2」の下に位置し、3部リーグに相当する「JFL」であるが、チーム事情はピンキリである。プロのサッカークラブとしてJリーグ昇格を目指しているクラブもあれば、ジェフ・リザーブズのようなクラブもあり、流通経済大のような大学のクラブも存在する。
「日本サッカーのレベルアップのため、JFLをJ2のすぐ下のJ3に置き換える。」という構想もないわけではないが、JFLの現状を見ると、かなり難しいことは良く分かる。
FC刈谷もホームの観衆は数百人規模であることがほとんど。この日は、土曜日の夜ということもあって1000人をオーバー。大観衆がスタジアムに集まったものの、人を集めるのはなかなか難しいものである。
#6 スタジアム内
■ アマラオの現役復帰低迷するFC刈谷にとって、ここ最近のビッグニュースというと、コーチのアマラオ氏が現役に復帰したことである。
東京ガス(FC東京)時代には、JFLで165試合で101ゴール、J2で26試合で15ゴール、J1で101試合で49ゴールを記録。「キング・オブ・トーキョー」と愛されたFWアマラオの現役復帰はサッカー界全体にとっても、大きな話題であった。
42歳のストライカーは、さっそく、7月5日のアルテ高崎戦でFC刈谷の一員としてデビュー。7月11日のSAGAWA戦でホームデビュー。この日もベンチから出番を待つ。
#7 キング・アマラオ
■ ニューウェーブ北九州についてこの日の対戦相手はニューウェーブ北九州。
2010年からのJリーグ参戦を目指す準加盟クラブの1つである。昨シーズンはリーグ10位。しかし、今シーズンはここまで3位と好位置につける。昇格のための最低条件である平均観客動員3000人以上という数字もクリアしそうな勢いであり、あとは順位だけである。
3位の北九州としては下位に沈むFC刈谷との試合はアウェーとはいえ、絶対に落とせない試合である。北九州からも10数人程度、黄色のユニフォームをまとったサポーターが駆け付ける。
#8 ニューウェーブのイレブン
■ 18:00にキックオフ試合は18:00にキックオフ。
アウェーの北九州はGK水原。DF重光、川鍋、伊藤、冨士。MF関、桑原、日高、小野。FW宮川、長谷川。
GK水原は名古屋、横浜FC、東京Vでのプレー経験があるベテラン。四中高トリオの1つ下の学年になる。チームの要であるMF桑原は広島、新潟で長く主力として活躍してきた経験豊富なボランチで2006年から北九州でプレー。横浜FCでの活躍が印象深いMF小野信義も2006年から北九州でプレーする。彼が攻撃の中心の1人である。
2トップを組むのはFW宮川大輔とFW長谷川太郎。C大阪でプロデビューを果たしたFW宮川は1999年5月22日のジェフ市原で初出場で初ゴールを挙げているが、J1での出場経験はこの1試合のみ。2002年からはザスパ草津、2006年から北九州でプレーしている。
#9 アップの様子

FW長谷川は言うまでもなく2005年の甲府で17ゴールを挙げてJ1昇格に大貢献した小柄なゴールハンター。北九州に移籍してきた今シーズンは、リーグ3位の9ゴールを記録している。サブのフォワードにはヴェルディ川崎でプレーした人気者のFW藤吉信次が名を連ねる。
また、この日はベンチからも外れたが早熟の天才として注目を集めた清水商出身のMF佐野裕哉もチームの一員である。FW佐野は昨シーズン、28試合で7ゴールをマークしている。
監督は与那城ジョージ氏。「ミスター・ヨミウリ」といわれた日系ブラジル人選手で、1985年には日本に帰化して日本代表でのプレーしている往年の名プレーヤーである。ということで、ややヴェルディ色の強いメンバー構成である。
#10 ニューウェーブのスタメン
■ 北九州が3対0で勝利試合の前半はやや硬さがあったのか、北九州の動きがイマひとつ。実力的には劣るはずの刈谷に何度か攻め込まれてチャンスを作られる。刈谷も決定的なシュートを外してゴールは奪えずに前半は0対0で終了する。
しかし、後半になると、北九州が準加盟クラブの実力を発揮。後半7分に左サイドを突破したDF冨士のクロスからFW宮川が押し込んで先制。さらに、後半16分に、右サイドのMF関のドリブルからMF日高が決めて2対0とする。
前半はサイド攻撃が不発に終わった北九州だが、後半は両サイドからの突破が効果的。刈谷のサイドバックの対応ミスもあって、サイド攻撃から2つのゴールが生まれた。精神的にも優位に立つ北九州は後半29分にFW宮川がドリブルで相手をかわしてから見事なシュートを決めて3対0。
意地を見せたい刈谷は、残り10分の段階で切り札のFWアマラオを投入。FWアマラオは卓越した技術を見せて前線で起点になるが、シュートは1本のみ。復帰ゴールを奪うことは出来ず、そのまま3対0で北九州が勝利。昇格に向けて貴重な勝ち点を奪った。
#11 試合前の整列
■ 貫禄の勝利前半は不出来だったが、後半に3ゴールを奪って勝利を勝ち得た北九州。大混戦になっているJFLの昇格争いの中で大きな白星であり、暫定で2位に浮上した。アマチュアであるFC刈谷と比べると練習量は大きな差があるはずで、刈谷のイレブンが後半に足がとなってしまったのに対して、北九州のイレブンは最後までスタミナを維持した。
前述のようにヴェルディカラーも強く、FW宮川を起点にダイレクトでパスが回るシーンもあって、攻撃力はさすがに刈谷のイレブンでは太刀打ちできないだけの威力があった。
後半のようにサイドをうまく使うと中央からの攻撃も機能するはずで、今シーズンの昇格だけでなく、来シーズン、J2で戦うことも視野に入れて強化を進める必要がある。
#12 歓喜のイレブン
■ 2ゴールの宮川大輔北九州のFW宮川大輔が2ゴールの活躍で勝利に貢献。J1時代のC大阪では出場機会はほとんどなかったが、2006年に北九州に加入すると、2006年に16試合で7ゴール、2007年に8試合で4ゴール、2008年に32試合で9ゴールを記録している。
前半は181cmの高さを生かした空中戦で強さを見せて、後半はスピードと決定力を見せて先制ゴールとダメ押しのゴールをマーク。相方のFW長谷川が何度か訪れた決定機を逃したのに対して、確実にネットを揺らした。
■ 39歳の藤吉信次北九州には元Jリーガーが少なくない。前半から左サイドで存在感を発揮したDF冨士は昨シーズンまで徳島でプレーした選手であり、ドリブル突破が光ったMF関は元ロアッソ熊本の選手である。
そんな中で、懐かしい顔は元ヴェルディ川崎のFW藤吉。ユニークなキャラクターで人気を集めたFW藤吉はスタメンではなかったが後半途中から出場。左サイドでのプレーとなったが、さすがに技術の高さはうかがい知れた。
1970年生まれで、あの若かったFW藤吉も現在、39歳。川崎から京都に移籍し、更に仙台でもプレー。2003年には中国リーグにも移籍したが、2007年から北九州でプレーしている。もう、現役を退いていてもおかしくない年齢にも関わららず、真摯にプレーし続ける姿は、若い頃のパフォーマーとしてのFW藤吉だけを知っている人からすれば、想像出来ないだろう。頭の下がる思いである。
#13 藤吉信次
■ 注目のアマラオ2009年の4月から元チームメイトの浮氣哲郎が監督を務めるFC刈谷にコーチとして加入したFWアマラオだったが、7月3日に現役復帰を発表。「選手と同じ目線に立てるということで決意した。」ということだが、すでに42歳。1966年10月16日ということで、横浜FCのカズと同学年にある。
どの程度のプレーが出来るのか、というのは楽しみであったが、42歳とはいえ、さすがにテクニックがあって空中戦も迫力がある。この日は3点ビハインドの状態での投入であったが、FWアマラオが投入されると、スタジアムのムードと試合展開は一変した。
スタミナの問題があってスタメンというのは難しいだろうが、スーパーサブとしては打ってつけの存在といえる。「Jリーグでプレーする。」というのはさすがに難しいだろうが、少しレベルの下がるJFLであれば、十分に戦力になりそうだと感じた。
守備力に問題のある刈谷がそういうシチュエーションを作れるかどうかは別にして、相手チームにとっては、残り時間が少ない状態で同点あるいは1点リードの場面でFWアマラオが出てきたら、非常に厄介ではないかと思う。
#14 アマラオ登場
■ JリーグとJFL昨今、不況の影響もあって、J1のチームでも、J2のチームでも、経営に苦しんでいるチームがある。ただ、それでも、Jリーグは華やかであって、サポーターも多いし、テレビ中継もあって、メディアでも取り上げられる。改めて、JリーグとJFLとでは、状況が大きく違っているということを実感する。
この日、ウェーブスタジアムに集まった観衆は1000人。与那城ジョージやアマラオといったサッカー人が、(間違いなく金銭的にも過酷な状況の中で、)それでも、後輩たちのために(もちろん、自身のためにも)懸命に仕事をしている姿は、強く印象に残った。
先日、後藤健生さんは自身のコラムの中で、「JFLを見れば、日本サッカーが理解できる」と書いている。それも真であるが、逆に、「JFLのことをカバーできていなければ、『日本サッカーのことを真に理解できている』とはいえないのではないか。」とも思った。
新鮮な気持ち、なつかしい感情、驚きの思い・・・。いろいろな感情が交じった刈谷の夜であった。
#15 ジョージとアマラオ

#16 試合終了後のスタジアム
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