■ 野球場で感じたこと 西武ドームに行って来た。
日本にプロ野球が誕生したのは昭和11年。日中戦争がはじまる1年前の事である。数えてみると、すでに70年以上の歴史があることになる。サッカースタジアムにはサッカースタジアムの良さがあるけれども、野球場にも、その伝統が生み出すまた違った独特の良さがあると思う。
残念ながら、西武ドームは完全な屋外式の野球場ではないけれど、その空気やにおいは、その場所以外では感じられないものがあった。
で、その試合を観ていて一番、驚いたのは、(ありきたりな話になるが、)投手が投げる『スピードボール』。テレビ画面で感じるプロのスピードボールと、実際の球場で感じるスピードボールは全く違ったものであった。ただ、バッターもさすがにプロ。どう考えても打てそうもないスピードボールをうまく見極めて、跳ね返していく。
そのとき、非常に残念に思ったのは、一塁側の内野スタンドから見ていただけでは、その凄さが本当の意味では良く分かっていないことに気付いたからである。正直、超一流である岩隈久志や石井一久の投げるボールと、それ以外のピッチャーの投げるボールの違いが良く分からなかった。簡単に言うと、岩隈や石井一に限らず、プロのピッチャーが投げるボールは一様に凄いと思ったのである。
その凄さの違いが分かれば、もっと面白く野球が観れたのかもしれないが、それはなかなか無理な話であり、だから、単純に、「野球のスカウトさんは本当に凄いなぁ。」と感じたのである。バッターボックスに入ったならば、その凄さの違いが良く分かるのかもしれないけれども、真横から、あるいは、真後ろから見ているだけで、その選手を評価しなければならないのであるから、大変な眼力が必要な職業だと感じた。
■ 中村俊輔のケース次は、1996年の秋の思い出である。
19歳以下で争うアジアユースの準決勝。すでに翌年のワールドユース本大会出場を決めていたU-19日本代表はU-19韓国代表と対戦する。
初のアジア制覇まであと2勝と迫った日本代表は、FW柳沢敦、FW吉田孝行、MF山口智、MF広山望、DF宮本恒靖、MF明神智和といったJリーグでも活躍を始めていた、そして未来の日本サッカーを担うスター候補生が集まっていた。が、そのタレント集団の中で、華奢な体で中盤を仕切る1人の無名の高校生レフティに釘づけになった。
柔らかいボールタッチ、フィールド上の全てが見えているかのようなダイナミックな展開、相手をあざ笑うかのようなドリブル、正確無比な左足のキック、・・・。ファンタジスタとしか表現できない華麗なプレーの連続だった。そのとき、やや線の細さは気になるものの、彼には明るい未来が待っていると確信した。
その彼は、翌年、横浜マリノスに入団。当初は出番が少なかったが、間もなく、マリノスの、そして、シドニー五輪代表チームの中心となった。世界のサッカーがファンタジスタを排除していこうとしていた受難の時代に、彼はプロサッカー選手として、当時、多くの人が思い描いていた予想以上の成果をおさめたといえる。
■ 今野泰幸のケースもう1人、今野泰幸のケース。
彼は、2001年に東北高校から岡田監督率いるコンサドーレ札幌に入団する。その札幌時代の2002年に、何度か彼のプレーを見たが、3バックのストッパーの位置でプレーする彼のプレーからはスペシャルな部分を感じなかった。ごく平凡な選手のように思った。
ただ、言うまでもなく、その認識は全くの間違いであった。2003年のワールドユースはキャプテンとしてベスト8進出に大貢献。2004年にFC東京に移籍し、アテネ五輪出場。日本代表にも継続して選ばれていて、日本有数のボランチとなった。
今野泰幸のケースは、自らの見る目の無さを痛感させられる苦い記憶である。
■ 若手選手の急激な進歩サッカーを観ていてワクワクさせられることの1つは、若手選手の急激な進歩を感じる時である。20歳そこそこの彼らは、たった数試合の経験で、見違えるような成長を遂げる事がある。だから、常に、全方向にアンテナを張り巡らせておかないと、後悔することになる。
セレッソ大阪のMF黒木聖仁。2009年2月のプレシーズンのガンバ大阪とのダービーマッチで初めて彼のプレーを生で見て、ちょっとした衝撃を受けた。180cmという恵まれた体格、強くて正確なロングキック、苦も無く組み立てに参加できる安定したボールコントロール、期を見たラストパスのセンス・・・。とても高卒2年目のプレーとは思えなかった。開幕当初はレギュラーではなかったが、ここ5試合連続スタメンフル出場。MF香川やMF乾に負けないパフォーマンスを続けている。
徳島ヴォルティスのDFペ・スンジン。2007年のワールドユースにも出場した21歳の韓国人ディフェンダーは、3年連続最下位からの上位進出を目指す徳島において、欠かすことのできない選手となっている。182cmの高さに加えて、柔らかさも備え持つ。課題だったイエローカードの多さも改善されつつある。今シーズンのJ2の中で、最高のディフェンダーの1人ではないかと考える。
■ 見る目の大切さMF黒木聖仁にも、DFペ・スンジンにも、そして、FW都倉賢にも、MF横谷繁にも、FW高崎寛之にも、非常に明るい未来が待っているとは思うが、一方で、彼らは、まだ、プレーヤーとしては未完成であり、国を代表する素晴らしい選手に育つ可能性もあるし、逆に、小さな花を咲かせるだけで、大半を期待通りではないキャリアを過ごすかもしれない。どちらに転ぶのか、今の段階では、正直、分からない。
ただ、それも、ある意味では、仕方のないことでもある。
サッカー人生は、多分に怪我や運にも左右されるし、今後、MF今野とは全く逆のケースで、自らの見る目の無さを痛感させられる記憶となるかもしれない。そのときは、また、「自分の見る目がなかった。」として反省しなければ・・・と。
- 関連記事
-