■ 関西ダービー東京V、京都、札幌と続いた昇格組との3連戦で1分2敗という結果に終わったヴィッセル神戸。今度は、G大阪、鹿島、浦和といういわゆるJ1の3強との対戦が続く。まずはガンバ大阪とホームのホムスタで対戦した。
G大阪はミッドウイークのACL第4節のメルボルン戦をいい形で勝利し、チーム状態は良好。DF加地がこの試合から復帰しベンチ入りし、FW播戸も復帰間近と明るい話題も多いが、リーグ戦では2試合勝利が無い。


神戸は<4-4-2>。GK榎本。DF石櫃・北本・柳川・鈴木規。MF金南一・ボッティ・栗原・古賀。FW大久保とルーキー馬場。FWレアンドロとDF河本は怪我で戦線離脱中である。
一方のG大阪も<4-4-2>。GK松代。DF橋本・山口・中澤・安田。MF明神・遠藤・倉田・ルーカス。FW山崎・バレー。中盤は、MF二川ではなくMF倉田を今シーズン初スタメンで起用。怪我の癒えたDF加地がベンチ入り。

■ 大久保の2ゴール試合は立ち上がりから神戸が優勢。激しいプレスでG大阪のミスを誘い、FW大久保とMFボッティを中心に攻め立てる。すると、前半39分に左サイドを突破したMF古賀のクロスをフリーのFW大久保がヘディングで決めて先制に成功。
後半からG大阪はMF遠藤とMF倉田のポジションを入れ替えて、MF遠藤を前目のポジションに上げる。攻め込むG大阪は、前半7分にセットプレー崩れから中央に待ち構えていたFWバレーがボレーシュートを決めて同点に追いつく。FWバレーは今シーズン5ゴール目。
追いつかれた神戸だったが、後半12分に勝ち越しに成功する。ハーフカウンターからMFボッティのパスを受けたFW大久保がゴールに突進。G大阪のDF中澤とDF山口のマークを受けながらボールを保持し、シュートコースを作ると、右足から放たれた強烈なシュートがゴールに突き刺ささった。
その後、G大阪はMF二川を投入し、MF二川のテクニックを生かした攻撃でリズムを作るが、神戸のDFが何とか踏ん張ってそのまま2対1で終了。神戸は貴重な今シーズン3勝目を挙げた。

■ 「大阪には負けへん。」神戸は苦しい状況の中でエースFW大久保2ゴール。最高の形で試合をリードし、久々の勝利をつかんだ。ここ数試合は立ち上がりが非常に悪かったが、この試合はモチベーション高く試合に入り込むことが出来たことが勝利のポイントになった。
神戸はどちらかというとカウンターを主体としたチームであるが、同格以下のチームと対戦するよりも、中盤でしっかりとつないでくる格上の攻撃的なチームと対戦する方が相性がいいのかもしれない。G大阪、鹿島、浦和と続く3連戦でいいスタートを切った。
勝利した相手がG大阪ということもチームのムードを押し上げるという意味では大きい。間違いなく、現状ではG大阪が関西で№1のチームであり、全国的な注目度という意味では浦和レッズ戦の方が大きいのかもしれないが、ヴィッセルの選手やサポーターにとっては明らかにガンバ戦の方が大きなウエイトを占める。モチベーションも高いはずで、この心理状態には、少なからず、大阪と神戸という微妙な関係をもつ都市同士の対戦ということも拍車をかけている。

■ 愛される大久保①2ゴールを挙げたFW大久保は素晴らしい出来だった。体のキレは抜群で、立ち上がりにG大阪のDFに囲まれながら突破していったシーンを見て、調子が上がってきていることを確信した。第3節にFWレアンドロを負傷で失って以降はFW大久保も苦しんでおり、ノーゴールが続いていたが、完全に吹っ切れただろう。価値あるゴールだった。
神戸はもともとフォワードの層が薄い。日本代表候補にも選ばれたFW近藤は昨シーズン限りでFC東京に復帰し、大分から快速FW松橋章太を獲得したものの、まだチームにフィットしておらず、現在は中盤が本職のMF馬場がFW大久保と2トップを組んでいる。MF馬場の動きも悪くはないが前線で張るタイプではないので、どうしてもFW大久保の1トップのような状態になることが多い。
G大阪の分厚い攻撃を食い止めるためにはFW馬場がやや下がり目でプレーし、中盤の選手の助けになるようなプレーを続けたことは功を奏したが、そうなるとゴールが遠くなってしまうが、その問題点をFW大久保が1人で解決した恰好となった。
■ 愛される大久保②1点目は得意の形だった。G大阪のディフェンダーのマークミスもあったが、フリーでゴール前に入り込んで豪快にヘディングでたたき付けた。170cmという身長のためゴール前ではどうしても高さ勝負では不利であるが、フリーでヘディングの出来るような状態になれば、非常に高い精度でヘディングシュートを放つことが出来る。
2点目はかなり難易度の高いゴールであり、あの状態でシュートまで持ち込むことが出来ることが彼の能力の高さを示している。相手DF中澤のマークの仕方がやや甘かったが、CB2人を背負った状態でもしっかりとボールをキープし、しっかりとシュートコースを作って、ネットに叩き込んだ。
■ 愛される大久保③スタジアム内はライバル(目の上のたんこぶ)のG大阪に勝利したことで騒然となったが、最大の立役者がFW大久保嘉人であることに疑いようはない。MFボッティのゲームメイクやMF古賀の高精度クロスも光ったが、やはりこの試合はFW大久保嘉人のための試合であった。
ヴィッセル神戸のエースとしての重責を果たし、ヴィッセルのエースストライカーとしてゆるぎない地位を築いたFW大久保だが、改めて考えてみると、まだ神戸に加入して1年弱の時間しか経過していない。ただ、そのわずかな期間で、完全にヴィッセルサポーターの心をつかんで離さない状態となった。それはいったい何故だろうか?
その理由が、ヴィッセル神戸のユニフォームを着てマークしたゴールの数というだけではないはずだ。

■ 試合は支配するボッティそのFW大久保の決勝ゴールをお膳立てしたのはやはりMFボッティだった。背番号10を背負うMFボッティは試合を作る仕事と決定的なラストパスを供給する仕事の2つの命題を高いレベルでこなすオンリーワンのプレーヤーである。
昨シーズンはダブルボランチの相方が固定されなかったが、今シーズンは韓国代表のMF金南一が加入し、MF金とのコンビが確立されたことで攻撃に多くの力を注ぐことが出来るようになって、多くの決定機に絡んでいる。

■ 改善すべき左サイド一方で左サイドのMF古賀とDF鈴木規の関係は改善されておらず、効果的な攻撃につなげることが出来なかった。MF古賀はFW大久保の先制ゴールをアシストするなどいくつか光るプレーを見せたが、DF鈴木は攻撃的な良さを発揮できなかった。
今シーズン、松田監督はどちらかというと相手が強豪チームのときはDF内山を左サイドバックで起用し、同程度以下の力を持つチームと対戦する時はFC東京から獲得したDF鈴木規を左サイドバックで起用している。MF古賀とDF鈴木規という破壊的な左足を持つサイドアタッカーコンビは相手チームの脅威となるはずであったが、どうも持ち味を殺し合っているようで、相乗効果とはなっていない。
もともとDF鈴木規は守備が得意ではなく、ある程度は守備面に目を伏せてサイドバックで起用している状態でもあるので、このサイドが攻撃で機能しないようだと、守備でも破綻をきたすことになる。
■ 痛い敗戦・・・一方のG大阪は立ち上がりから神戸のプレスに苦しんだ。ボールの取られ方が悪く、持ち味の中盤の組み立てに威力が無かった。
順調にスタートを切っていた鹿島アントラーズもここに来て失速しているが、やはりACLと並行してリーグ戦を戦うのは非常に困難なことであり、チームとしてACLの経験が乏しいだけに、今後もいろいろな苦労が発生するかもしれない。

■ 倉田秋に求められるもの①G大阪は19歳のMF倉田秋が今シーズンのリーグ戦で初出場。いきなりMF二川に代わって、スタメンで抜擢された。パンパシフィック選手権やACLでは出場機会を得ていたが、リーグ戦はずっと出番が無く、前半はMFルーカスと並んで攻撃的MFでプレーし、後半に入るとMF明神とダブルボランチを組んでフル出場を果たした。
MF二川の疲労という事情もあったにせよ、結果的に見ると途中出場のMF二川(FW山崎との交代で出場)が好プレーを見せていただけに西野采配の失敗とも見れるが、こういう思い切った若手起用は悪いし、西野監督らしい采配であって、過去にも多くの成功体験がある。
■ 倉田秋に求められるもの②ただ、肝心のMF倉田のプレーはもう一つだったというのが、正直なところである。立ち上がり早々に積極的にミドルシュートを放っていったシーンはあったが、前半はなかなかプレーに関与できなかった。後半はポジションが下がったこともあってボールに触る機会は増えたが、消極的に見えるシーンもあった。
彼の持ち味は言うまでもなく、ボランチの位置からでも高い技術を生かしたドリブルで局面が打開できることであり、今の日本のミッドフィールダーをみても、同じような特性を持つのは、ヴォルフスブルグのMF長谷部くらいしか見当たらない。
こういったタイプの選手は、ボランチの位置からドリブルで相手を1人・2人とかわしていくプレーだけでなく、数メートルに渡ってドリブルで前にボールを運んで前進させることが出来るので、視野が広がり、刻々と局面を変えることが出来る。
■ 倉田秋に求められるもの③ただ、この試合では、MF倉田のドリブルが出来るという特性が逆にマイナスに働いて、アタッキングエリアでパスを出すのか、もっと仕掛けるのか、迷いが見られて、結果的にチームのリズムを壊すことになった。
ボールを持てる選手に共通する課題ではあるが、いつドリブルをすればいいのか、どういうタイミングでパスを出せばいいのかをしっかりとトレーニングを重ねて、状況判断を磨かなければならない。


- 関連記事
-