2013年シーズンも開幕から2ヶ月が経ち、各チーム明暗がはっきりと分かれ始めた。私が応援するサガン鳥栖は第8節終了時点で勝ち点7の13位と苦しんでいる。メディアでは「一体どうしたのか」という論調で語られることもあるが、一サポーターとしては妥当な戦績だと受け止めている。それは、昨シーズンが様々な幸運が重なったシーズンだったからだ。
昨シーズンは「監督交代のチームが多い」「鳥栖のロングボール&ハイプレスへの不慣れ」に加え、「エース豊田の出来すぎとも言える結果」がついてきたが故の戦績だ。逆に今シーズンのJ1は監督交代したチームを探す方が難しく、鳥栖の戦術も研究され、何より豊田へのマークが厳しい。
鳥栖は豊田がハットトリックを記録した磐田戦(結果はドロー)後、リーグ戦3連敗、ナビスコカップを含めると4連敗でしかも全試合無得点という結果となった。昨シーズン以上の「J1の壁」が鳥栖を苦しめている。
その後、ナビスコカップで新潟に勝利し、リーグ戦ではアウェイ仙台で勝ち点1を拾うことができ、やや上向きになりつつあるが、サガン鳥栖というチームは「J1の壁」にぶつかり、その壁を越えようともがいている段階にある。
得点源である豊田へのマークが厳しいとなると、やはり2列目の選手に期待がかかる。鳥栖の2列目というと、池田、水沼、金民友などのイメージが強いかもしれないが、私は「早坂良太」に期待している。
<早坂良太という選手>早坂良太という選手をご存じだろうか。おそらく、「早坂良太はこういうプレイヤーだ」と答えられる人は多くないだろう。なので、早坂選手(以下、早坂)についてまずは簡単に説明させていただく。
早坂は今年で28歳となるFWまたはサイドMFを主戦場とする選手で、鳥栖では主にサイドMFとして出場することが多い。2010シーズンにHondaFCから鳥栖に加入し、昇格を果たした2011シーズンにはエース豊田に次ぐ得点源として右サイドMFの出場ながら10得点を記録。昇格に大きく貢献した。
万能型のプレイヤーで、自分でもボールを運べ、キープもできる。元々サイドの選手ではないためクロスは今一つだが、183cmと上背もあり、守備も献身的に行う。シュートはミドルこそないものの、エリア内からのシュートは正確で、2011年はそれで得点を重ねることができた。
だが、これはあくまでも「J2での話」であって、「J1での話」ではない。
2012シーズンの早坂はリーグ21試合に出場して0得点。グロインペインの怪我で出遅れたものの、昇格に貢献した選手としてはあまりに寂しい数字で、2012シーズンに脚光を浴びたチーム、そしてポジション争いをしていた水沼宏太と明暗がくっきりと分かれる形となった。
先発でも途中出場でも明確な結果を残すことができず、早坂は「J1の壁」にぶつかっていた。「万能型」ということも1つの原因で、J1で戦うための「明確な武器」を持つことができていない。
私自身もそうであるが、他のサポーターも結果を残すことができない早坂に対して、「J1ではダメだ」「もう終わった選手かもしれない」という気持ちと、「まだやれる選手」「復活を信じる」という思いとが交錯するなんとも言い難い感情を持っていたことだろう。
<ナビスコカップ:ホーム新潟戦>去る4月24日(水)、ナビスコカップのグループリーグ第5節、新潟戦がホームであるベストアメニティスタジアムで行われた。リーグ戦とは半分ほどメンバーを入れ替えての試合となったが、「何とか現状を打破したい」という監督の気持ちが表れているスターティングメンバーだったように思う。早坂はベンチスタートとなった。
試合は鳥栖が61分にエース豊田のゴールで先制。1点リードのまま、84分にFWロニと交代で早坂がFWの位置に入る。残り少ない時間で何とか追いつこうと前がかりになる新潟。運動量が落ちた豊田に代わって最前線に入りプレスをかける早坂に思わぬチャンスが舞い込む。
新潟のDF濱田からDFキムクナンへのパスが弱くなり、それを早坂がカットする。カットしたボールをドリブルで前線へ運んだ早坂はDF濱田のタックルをかわし、キーパーとの1対1を左わきを抜いてゴールの隅に流し込んだ。
現地の状況はスカパーで観ていた私には分からない。だが、少なくとも私は叫んでいた。5試合ぶりの得点、エース豊田の得点の際よりも大きく、何より気持ちを込めて。早坂は体を回転させるお決まりのゴールパフォーマンスもほどほどにベンチにいるチームメイトと駆け寄る。その早坂の姿に、私は思わず涙ぐんでしまった。
この試合はカップ戦であって、依然厳しいリーグ戦への影響はない。早坂の得点も相手のミスをついたものであって、流れの中から得点したものではない。早坂自身、J1と戦っていく上で厳しい部分があることには変わりはない。全て分かっているが、早坂のこの得点は彼自身のこれからと、サガン鳥栖を応援していくサポーターの気持ちに、一筋の光をもたらした。そう思っている。
<壁を越えるために必要なもの>07年のフッキ、09年の香川、10年のハーフナー・マイク、11年の豊田と、J2の得点王がJ1でも通用することは明らかで、一種のブランドとなっている。(08年の佐藤寿人はJ2以前から実績十分のため省略)
一方で、2桁得点を挙げた選手は必ずしも活躍するとは言い難い。鳥栖出身の選手であれば、新居(06~07年。11年に引退)、藤田祥史(07~08年。現:横浜FM)が該当し、若干年代が偏るが、荒田(08~09年水戸、現:岡山)、高崎(09年水戸、現:徳島)あたりもそう言えるだろう。
昨シーズンだと柏が補強したリカルド・ロボ(10~11年:栃木)が記憶に新しいが、どの選手も「J1の壁」にぶち当たって、結果を残すことができなかった。一定の結果を残していると言えるのは、石原(08年湘南。現:広島)、都倉(09年草津、現:神戸)あたりだろうか。
早坂の10得点という数字は上記の選手らに比べて少なく、さらに万能型であるが故に上記の成功例といえる石原や都倉のような明確な武器はない。先のとおり、J1と戦っていく上では間違いなく厳しい。
それでも、私は早坂を信じたい。ただの感情論になってしまうが、当時のチームの主力が流出し再スタートとなった2010年に加入し、苦しい時期も、そしてJ1昇格という夢を実現したシーズンも、共に闘ってきた選手だからだ。サポーターは選手を信じて声援を送ることしかできない。けれど、その声援が「大きな期待が含まれたもの」か「そうでないものか」は選手も聞き分けがつくはずだ。
試合中に選手が気持ちを切り替えるのが難しいように、サポーターが声援の中に込める気持ちを切り替えるのも難しい。今回の早坂のゴールは、声援をいい方向へと導くきっかけとなることを期待したい。
サッカーだけではなく、誰もが人生の中で何らかの壁にぶち当たる。それを越えられるか否かには「信じてくれる人の存在」が不可欠だと思う。大きな期待を含んだサポーターの声援はその選手への偽りのない信頼の表れとなる。その声援は、チャンスを掴み、結果を出した選手を1つ上の次元へ持ち上げることができる。
ホームタウンから遠く離れた地だが、そう信じて、何より選手を信じて応援しようと思った。
(おわり)
(ライター紹介)【 自己紹介文を150文字程度で記述してください。(省略可) 】:
関東在住のサガン鳥栖サポーターです。なかなかホームゲーム観戦ができないため、現地で応援されている方には本当に頭が下がります。今回はこのサイトにセレッソの応援の記事と、本文の件があったので書いてみました。信じることがいつも正しいとは限らず、またプロの世界は厳しいため悠長なことばかり言っていられませんが、今は「J1の壁」と戦っている選手を、チームを信じたいと思い、綴っています。
【 管理人にメッセージがあればお書きください。 (省略可) 】:
毎朝ブログを拝見しています。試合の戦評も好きですが、現地観戦等で感じられたことなどを見るのも現地でしか分からないことなどが分かり興味深いです。簡易版の方はなかなか見られていません・・・すいません。
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2013/01/31
鳥栖サポーターにとっての豊田陽平とは? 2013/03/13
応援とチャントが作り出すもの
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読者エントリー 2013/01/04
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