■ 「理想主義」と「現実主義」古くから、サッカーの世界では、「理想主義」と「現実主義」の間で対立が起こる。
サポーターの多くは、「応援するチームがスペクタクルなサッカーで第三者をも魅了できるような素晴らしい内容のサッカーで勝利してほしい」と願うが、同時にそれが簡単ではないことも理解している。美しい勝利をおさめるには、「優れた指導者」と「優れた選手」が必要で、あまりにも「理想主義」に傾き過ぎると、それは「理想」ではなくて「妄想」になってしまう。古今東西、理想に傾きすぎて、現実を見失って崩壊してしまったチームは数え切れない。
難しいのは、「現実主義」のサッカーの方が勝ち点を得られやすく、「理想主義」のサッカーの方が勝ち点を取りこぼしやすい点であるが、サッカーというスポーツが芸術点を争うものではなくて、勝利を目指す戦いであることを考えると、知恵を絞って「勝利」の可能性を高める努力を続ける監督や選手を否定することは出来ない。
■ カメルーン戦の現実路線①その点で、先日のカメルーン戦は「現実主義」のサッカーであり、「スペクタクル性」には乏しかった。
思い出してみると、以前の岡田ジャパンは<4-2-2-2>もしくは<4-2-3-1>というシステムで、ボランチにはMF長谷部とMF遠藤という攻撃的なタイプを並べるかなり異質なダブルボランチだった。ドイツに渡ってからのMF長谷部は攻守ともにバランスの取れた選手に成長したものの、タイプ的に区分すると、現在のJリーグの中でも、ここまで攻撃的なダブルボランチを形成しているチームはない。現実主義的な岡田監督としては、かなり理想主義に傾いたメンバー起用であったと思う。
「横パスが多い。」、「仕掛けるパスが少ない。」、「ドリブラーがいない。」、「パス・パス・パスで退屈な試合が多い。」とあまり評判は良くなかったが、『ボール扱いに長けた選手を中盤に並べてボゼッション率を高めること』、『安易なボールロストをなくすことで相手のカウンターでの失点のリスクを減らすこと』をチームの根幹とした岡田監督のサッカーは、十分に機能していたとはいい難いが、意図としては分からないわけでもない。
現代サッカーでは、西部氏が語っているように、ボール・ポゼッションを行う目的が変わってきている。以前は、「ボールを回して相手を崩してゴールを奪うこと。」が唯一の目的であったが、現在は、「ボールを回す時間を作ることで守備の時間を減らして、スタミナの消費を抑えること。」がメインの目的になりつつある。
実際、得点の多くは「セットプレー」あるいは「カウンター」からのゴールであり、「横パスが多いこと」は必ずしも悪いことではなく、むしろパスがつながっていることが岡田ジャパンが目指す形が実現出来ていることの証ではあったが、FW陣にワールドクラスのカウンターマスターがおらず、ビハインドになった時の反発力も弱かったため、ワールドカップ仕様とはいえなかった。
■ カメルーン戦の現実路線②そのため、イングランド戦からアンカーにMF阿部を起用し始める。今シーズンの浦和レッズでは頻繁にゴール前に駆け上がってゴールに絡んでいるMF阿部であるが、日本代表で求められるのは、まずは「守備」であり、イングランド戦とカメルーン戦では期待以上のパフォーマンスを見せた。
付け焼刃的なアンカーでのMF阿部の起用であるが、たまたま上手くいったというわけでもない。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という野村克也氏の有名な言葉があるが、世界の中の日本の立場で言うと、「勝ちに不思議の勝ちなし」であり、単純に守備に人数をかけただけで勝利を得るのは難しい。偶然の要素もあるが、偶然ではない要素も多くある。その部分を見逃したままであると、確かに、つまらない試合に思えてしまう。
■ カメルーン戦の現実路線③ワールドカップの初戦だけに限定すると、2006年のオーストラリア戦と、2010年のカメルーン戦は同じように前半に日本が先制ゴールを挙げて1対0のままで終盤を迎えるという似かよった展開になったが、対照的な結果に終わった。対照的な結果となった理由としては、オーストラリアの監督がヒディンクという世界的な名将だったことも挙げられるが、それだけではない。
カメルーン戦を振り返るとき、「カメルーンの猛攻に耐える時間帯でパスがつなげなくなった。意図の感じられないクリアが多くて、アンチフットボールだ!!!」という意見も出てきたが、4年前は、同じように1点リードの場面でボール扱いに長けたMF小野伸二を投入した。この作戦は成功しただろうか?押され気味の展開の中で、「ボール支配率を高めて逃げ切る。あわよくば追加点!!!」というジーコ氏の考えは分からなくもないが、これでチームバランスは崩れて逆転負けを喫した。
その4年後、岡田氏は、交代要員として、FW岡崎、FW矢野を投入。フォワード登録の選手ではあるが、求められたのは前線からの守備であり、献身なプレーである。この交代もあって、終盤はつなぐサッカーは全く出来なくなったし、クリアするのも精いっぱいの状態になったが、あわよくばで追加点を狙いにいって逆転負けを喫したオーストラリア戦と、守備重視で逃げ切ったカメルーン戦。どちらの選択がベターだったか?
■ 日本サッカーの未来は?①カメルーン戦では<4-1-2-3>という守備重視の作戦が成功したが、同じような戦いがオランダやデンマークに通用するとは限らない。そして、カメルーン戦のサッカーがイコール日本のサッカーというわけでもない。
たぶん、(アンチ・フットボールだったとしても、手放しで喜べるような内容ではなかったとしても、)カメルーン戦の勝利を多くの人が喜んだのは、4年前のオーストラリア戦の失敗から得られた教訓が生かされた勝利であったこと、4年前のトラウマを払しょく出来る可能性のある勝利であったこと、選手たちに戦う姿勢が見られたこと、チームが一丸となって戦う姿が見られたからであり、失っていたもの、失いつつあったものを取り戻すことが大きな勝利となり得るものだったから、という理由があるだろう。「たまたま挙げた勝利」でも、「未来につながらない勝利」でもなかった。
■ 日本サッカーの未来は?②ただ、勝利した一方で、同時に、「もっといいサッカーが出来るはず」と思うのも、決して間違いではない。むしろ、自然である。この試合は、カメルーンにとっても完ぺきな試合ではなかったが、日本にとっても完璧な試合ではなかった。理想を求め過ぎるとマイナスに働くことがあるが、少し上を見ることはマイナスではない。盲目的に全てを受け入れる必要は全くない。
それでも、(再び、アンチ・フットボールという都合のいいワードを使うと、)「勝利は挙げたものの、アンチ・フットボールだった。アンチ・フットボールではないサッカーを行うべき。」と主張する資格があるのは、カメルーン戦で1点リードした日本代表の姿に精いっぱいの声援を送っていた人であり、真に日本のサッカーの未来を考えている人であり、仮に、後半にカメルーンに同点ゴールや逆転ゴールを奪われていたとき、しばらくの間、立ち直れないくらいのショックを受けてはずの人のみである。繰り返しになるが、自説の正しさを証明するために、「ほれ見たことか!」と言うために、カメルーンの同点ゴールや逆転ゴールを願っていた人にその権利はない。
試合を見ていれば、カメルーン戦で追加点を狙って2点目を奪えた確率と、追加点を狙ったがために同点に追いつかれていた確率のどちらが高かったかは、よく分かるだろう。攻撃的なサッカーには、常に、リスクが付きまとうが、リスクを共有することもせず、やあくもに第三者的な立場からリスクばかりを強要・強制する人はむしろ有害であり、その意見は説得力を持たない。
■ 日本サッカーの未来は?③今回は守備重視のメンバーの守備重視のサッカーに落ち着いている。が、将来的には、むしろ、ボールを大切に扱ってつなぐサッカーを志す方が日本にとっては可能性が広がるだろうと思う。そのためには、「運動量」や「連動性」は必須条件であるが、「耐えて、耐えて、耐えて」というサッカーは、あまり日本の得意とするところではない。
これまで、「ワールドカップに出場すること」、「ワールドカップでゴールを奪うこと」、「ワールドカップで勝ち点を奪うこと」、「ワールドカップで勝利をつかむこと」、「ワールドカップのグループリーグを突破すること」、「アウェーのワールドカップで勝利をつかむこと」と、順調に一歩一歩、道を進んできた日本サッカーにとって、その次の大きな目標は、『ワールドカップという舞台で「日本のサッカーは面白い。」と世界中のサッカーファンに思ってもらえるような試合が出来るチームを作ること』である。
ブラジルのような、オランダのような、スペインのような、世界中にファンがいるような魅力的なサッカーである。これは本当に夢である。そして、将来的には決して不可能なことではないと思う。しかし、現時点では厳しいのも事実である。
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カメルーン戦を終えて・・・。オランダ戦を前に・・・。
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本当のアンチフットボールは今のところメキシコvsウルグアイです。
ともに決勝トーナメント進出が最優先ならキックオフ後ボールに1回も触らないで談笑するのが最もいい戦術ですから。
分析内容が素晴らしい。カメルーン戦の勝利を、06W杯の教訓が生きた勝利だということを外していない。
98年W杯からはじまった世界との戦い。99年ナイジェリアW杯の準優勝で加速した日本のサッカーは、幾度となく打ち砕かれた世界の壁にようやく足跡を残した。
確かにカメルーン戦の後半は見るのもひやひやの展開。ディフェンスラインもドン引きのただ耐える時間がつづく。何度も心で叫ぶ。「はじきかえせ!」ドリでぺナに侵入されそうになると何度も思う。「1枚でろ!引くだけじゃだめだ!」
応援に疲れたのか、試合後は気持ちのいい疲労があった。そしてカイザースラウテルンのことも思いだした。日本のサッカーは進歩しているんだ、カイザースラウテルンから確実に学んでいる、そう思えることがなによりうれしかった。
オランダ戦も同様に守備から入ってくると思う。オランダは横パスで日本を食いつかして縦パスを狙うだろうから、横パスには丁寧に対応すべきで、簡単につられないのと、各自持ち場を離れないほうがいいと思う。
あと個人で気になるのは川島。たしかにビッグセーブはあったが、何度かボールを取りに行ってかぶるシーンが目に付いた。これは川口にもいえるがGKとして致命傷だ。確かにカメルーン戦は高地でボールが伸びたのだろうが、気をつけてほしい。オランダ戦は平地での試合なのだからなおさら。
オランダで注意しなくてはいけないのは、先にも書いたが横パスの守備、そして1枚出ては戻り、また1枚出ては戻るをきちんと。カメルーン戦では出来てなかった。どうしても横パスを見てしまう。そしてきっちりロングボールをはじき返す、セカンドボールの処理、前線でのキープ。たぶん1トップは本田でくるだろうから、本田にはまずキープしてもらいたい。カメルーン戦では無理に前を向いてというシーンがあった。そういう意味では森本が使えそうだが。
日本の攻撃の最たるものはセットプレーである。流れのなかで得点となると、どうしても守備に力を奪われるので厳しい。ベントナークラスのFWもいない。ではそのセットプレーはどうかというと、カメルーン戦を見る限り脅威とは言えない。カメルーン戦ではトリックプレーもしなかったが、オランダ戦ではぜひしてもらいたい。遠藤の狙いもわかるが、壁にはじかれている。そいう意味では中村俊輔がいるが。。出てくるかな。
オランダ戦、確かに負けてもまだ望みはつながるが、リスクマネジメントをきちんとできるかどうかだと思う。0-1で前半を終えた場合、1点取りに行くか、0-2にしないか、判断がいる。1-0の場合、引くのか、2点目を狙うのか。僕個人は大量失点は避けたいとは思うが。
小野を間違えたのではなく代える選手を間違えたのであってばてた選手を替えていれば小野の投入もうまくいっていたでしょう。
ジーコの采配の失敗です。
カメルーン戦については現有戦力ではやむを得ない守備固めだと思いますが、
そうした戦術しかとれないようにしてしまった過去4年間(8年間)が問題だと思います。
少なくともトルシエジャパンのときはもっと高い位置で防御ができたため
幾ら守備に時間賭けても最終ラインから相手のゴールをカウンターで脅かすという陣形が可能でした。日本は8年間で弱体化しています。
トルシエジャパンが続いていれば南アフリカ大会はベスト4が狙えたでしょう。
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