■ オシムジャパンのこれまで昨年の夏に日本代表の監督に就任した、オシム監督。これまでのところ、10試合を戦って、7勝2敗1分という成績を残している。その中で、最低限のノルマであった、アジアカップの本大会出場の切符を獲得した。
日本監督就任の当初は、ホームのイエメン戦(2戦目)やアウェーのイエメン戦(4戦目)に苦戦を強いられるなど、危うい部分もあった。だが、ホームでのガーナ戦(5戦目)が1つの転機となった。
この試合の日本代表は、<3-1-2-2-2>。3バックが水本・阿部・今野で、鈴木啓太の1ボランチ。右に駒野、左に三都主を置いて、前目に遠藤と山岸で、2トップは巻と佐藤寿人という布陣で戦った日本代表は、左CBの今野が中心となって、頻繁なポジションチェンジをベースとした鮮やかな連動を見せて、ガーナ代表を苦しめた。
結果は、0対1で敗れたが、この試合が、オシム監督の目指すサッカーの披露宴となった。この試合を、06年のオシムジャパンのベストゲームと評する向きも少なくなかった。
オシムジャパン プレーバック第1戦 2006/08/09 T&T戦 見えた可能性と感じた限界
第2戦 2006/08/16 イエメン戦 微妙なオシムジャパン
第3戦 2006/09/04 サウジアラビア戦
第4戦 2006/09/07 イエメン戦 苦労してつかんだ勝ち点3
第5戦 2006/10/05 ガーナ戦 感じたトータルフットボールの香り
+++ 2006/10/06 オシムジャパン トータルフットボール論に関して
第6戦 2006/10/11 インド戦 リスクをかけるサッカー
第7戦 2006/11/15 日本×サウジ ベストゲーム①
+++ 2006/11/18 日本×サウジ ベストゲーム②
第8戦 2007/03/24 日本×ペルー ジョーカー参上
第9戦 2006/06/01 日本×モンテネグロ 贅沢な中盤
第10戦 2007/06/04 日本×コロンビア 初タイトル獲得■ さて、トータルフットボールこのガーナ戦の後、一部では、「オシムジャパンのサッカーが、トータルフットボール的ではないか?」という議論が生まれた。そのなかで議論の対象となったのは、
① オシム監督は、日本代表で、トータルフットボールを実現させようとしているのかどうか?
② 果たして、日本代表でトータルフットボールは実現可能なものなのか?
という2点であったが、実は、この2点に関する答えは、すでに出ている。オシム監督自身が、インタービューの中で、「全員攻撃・全員守備のトータルフットボールは理想だが、現代サッカーでは実現不可能なユートピアであることも事実である。」と語っているのである。
実際問題として、現在の日本代表では、ヨハン・クライフ時代のトータルフットボールを実現させることは、不可能だろう。あのサッカーは、中心となるヨハン・クライフがいてこそのものであり、また、当時とは、オフサイドの解釈等を含めて、ずいぶんと事情が異なる。したがって、トータルフットボールをひとつの理想として、その理想に近づくためのトレーニングは行うが、どこかの段階で、妥協をして、現実的なサッカーとの中和点を探るというのが、オシム監督の取るべき道だろうか。
■ オシム監督を支持するか?支持しないか?で、本題は、「オシムを殺すな!!!」である。
彼が日本サッカーの救世主であるか否かはわからない。しかし、とびきりの航海術を備えた不世出の指揮官であることは疑いようもない。だから私達はこれから強くなるはずの波風に過剰に惑わされるべきではない。これは、サッカー批評の「issue33」のタイトルと、キャッチコピーであるが、同意できる部分が、少なくない。
■ オシム監督を支持するか?ボクは、オシム監督を、支持している。
オシムジャパンを支持しますか?投票中。 → クリックこれまでのところ、オシムジャパンが、すべての試合で素晴らしいサッカーを見せたわけではないが、着実な進歩を感じる。そして、その進歩は、オン・ザ・ピッチでの話に限定するわけではない。若年層との融合、多くのJリーガーを代表に抜擢することによるJリーグの活性化、海外組の立場への理解と尊重・・・。
もちろん、すべての面で、オシム監督の考え方を受け入れるわけではないし、また、その必要性はないのだが、彼のひとつひとつの思考に、意味を感じずにはいられない。
ところがである。人それぞれに、異なったサッカー観があるので、それぞれがもつ多様な考えを否定することもないのだが、どうも、一部の反オシム勢力の考え方には、同意しかねる部分が多く、今後、オシム監督が、無駄な労力を使ってしまうのではないかと、危惧せずにはいられないのである。
ひとつ例を挙げると、オシム監督のサッカーが「面白くない。退屈だ。」とか、「個性を殺している。」と、表現している人がいるらしいのだが、これが、非常に理解しづらいのだ。
「面白い。」「面白くない。」には、個人差はあるのは理解しているが、例えば、「Jリーグの中で、一番、面白いサッカーをしているチームはどこですか?」という質問をされたら、最近では、「ヴァンフォーレ甲府のサッカーが一番、面白い」と答える人が多いかもしれないが、同じような質問を、1・2年前にしたとしたら、「ジェフ千葉のサッカーが一番、面白い。」と答えた人が、圧倒的に多かったのではないだろうか?リスクを恐れないオシム監督のサッカーは、ジェフ千葉の時代から、高く評価されてきた部分である。
「走るサッカー」という泥臭い部分が大きくクローズアップされたためか、「技術軽視のサッカー」という誤った認識をされている部分もあるが、どうにも、「オシムジャパンのサッカーは、面白くない。」とネガティブな主張をする人の考えの裏に、別の理由が潜んでいる気がしてならない。
■ 無意味な前任者との比較オシムジャパンのサッカーが、何と比較されているかというと、やはり、その多くは、ジーコ監督が率いたチームだろう。「オシムジャパンが面白くない。」とか、「個性を殺している。」と考える人の意見には、枕詞として、「ジーコジャパンと比較して」というフレーズが付く。
だが、まず、ジーコジャパンとオシムジャパンを比較すること自体、あまり意味が無いように思う。ジーコの代表チームの初期段階には、25歳の中田英寿がいて、24歳の中村俊輔と、23歳の小野伸二と、23歳の稲本潤一がいた。彼らは、1人でも新聞の一面を飾ることのできるスター選手であり、まだ、サッカー選手としての底を見せていなかった。しかしながら、オシム監督の代表チームには、4年間で、着実なスケールアップを果たした中村俊輔こそ控えるものの、中田英寿は引退し、小野伸二と稲本潤一は、依然として、ベストフォームを取り戻せないでいる。
確かに、ジーコ監督の率いた日本代表チームは、ときどき、豪華な中盤を中心に、夢のようなサッカーを披露した。それは、まったくもって事実である。03年のフランス戦や、05年のブラジル戦や、06年のドイツ戦が、その典型例である。しかし、彼のやり方では、ドイツW杯でグループリーグ突破という目標を達成できなかった。内容が伴った中での敗退であるならば、まだ、救われるのだが、現実は、結果も内容も散々だった。ジーコ監督の掲げたブラジルスタイルのサッカーは、ブラジル代表クラスの選手が集まるチームでは、力を発揮できたとしても、真剣勝負の場で、日本代表が戦うには、難し過ぎたのだろう。
ボクは、ジーコ監督が、「ジーコ的なサッカー」をするのは理解できる。ドイツW杯に向けて、ジーコ監督が、「ジーコ的なサッカー」を貫こうとしたことも、部分的には、理解できる。瞬間最大風速で考えると、ジーコジャパンのそれは、オシムジャパンのそれを上回るだろう。だが、ドイツW杯を終えた今、同じような失敗を繰り返すだけの時間的な余裕は、もう残っていないのである。残念ながら、確率の低いギャンブルをする余裕はないのである。
■ 個を生かせているのはどちらか?それでも、まあ、面白いかどうかについては、賛否両論あるので許容できなくもないが、もうひとつ、「オシムのサッカーは、制約が多すぎて、選手の個性を殺している。」という主張には、口をあんぐりするしかない。
それでは、問うが、ジーコジャパンの試合のビデオと当時のジェフ千葉の試合のビデオを、1つずつランダムに選んで試合を見比べたとき、いったい、どちらのチームの選手が生き生きとプレーできているだろうか?個性が発揮されているだろうか?観客に訴えるサッカーが出来ているだろうか?
組織的に戦うことは、世界的な常識である。それは、日本でも例外ではない。Jリーグでトップを走る、ガンバ大阪のサッカーは、(基本的には、)いつも素晴らしいが、選手が好き勝手にプレーしているから個人能力が発揮できているのではなく、むしろ、全ての選手が、忠実にタスクをこなすように整備されていて、その上に成り立っているチームだからこそ、「強さ」と「美しさ」を両立できているのである。
オシムジャパンは、まだ、個と組織を完全に両立出来ているわけではないが、進む方向性としては、世界的に見ても、自然なものであり、当たり前のものである。そして、その過程で、「与えられたタスクをこなすことの出来ない選手」や、「タスクをこなすことで個の才能を発揮できなくなる選手」が出てきたとしたら、その選手は、日本代表からも、現代サッカーからも、取り残されていくことだろう。
■ ひそむ裏の事情ジーコ監督が選んだ、メンバー選考は、オーソドックスだった。スター選手を、上から順番に選考していったからだ。新戦力の抜擢に臆病だったという側面はあったが、不満度は、少なかった。
通常、スター選手には、多くのサポーターがついている。日本代表を愛するサポーターにとっては、日本代表が強くなれば、誰が代表に選ばれてもOKだと考えられるが、特定の選手を応援するサポーターにとっては、好きな選手が落選すると、「なぜ、○○が、代表に入っているのに、××は、代表に選ばれていないのか?」という思考につながる。
それは仕方がない。だから、それほどサッカーに興味のないおばちゃんたちが、「中田英寿がいないから、オシムジャパンは魅力がないし、つまらないわよ。」という考え方をすることは、充分に理解のできる範疇であり、自然なことだと思う。そして、ボクは、「オシムのサッカーは、面白くない。」、「魅力的でない。」、「個性を殺している。」と考える、反オシム派の大多数は、このような考え方に基づいているのでないだろうかと想像する。
だが、彼らは、はっきりと、「私の好きな××が代表に入っていないから、オシムジャパンのサッカーは、見る気がしない。」、「面白くない。」とストレートには言わない。何か、別の理由をつけて、別の角度からオシムジャパンを批判しようとする。だから、問題が分かりにくくなる。(この傾向が、顕著なのは、スポーツ報知だろうか。彼らは、一貫して、反オシムを貫いているが、その理由をはっきりとは主張しておらず、不可解さはきわまっている。)
■ 腰を落ち着かせてボクは、オシム監督は、難解な部分はあるが、誠実に日本代表監督という仕事をこなしており、成果も上がってきている。だから、十分に腰を落ち着かせて、代表監督という仕事に取り組んで欲しい。
代表監督に難癖をつけたいという気持ちは、世界共通のものではあるが、やや、的外れな意見が散乱しているような気がする。この点を危惧する。
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>>> 壬生さん
どうも、コメントありがとうございます。
実際問題、オシムさん以上の監督は、現状、見つからないでしょうね。妙な圧力をかけて、オシム監督が、無駄な苦労をすることなく、代表の強化に集中できる環境を作って欲しいです。
>>> 雅さん
反オシムの戦力というのは、間違いなく、存在しますね。残念ながら・・・。
>>> x365さん
スポーツ新聞に文句をいうのは、大人気ない気もしますがね。たとえ、報知新聞の記事であっても、真に受けてしまう人が、少なからず存在しますからね。やっかいです。
報知の場合、全体が反オシムというよりは、異様に偏執的な人間が‘紛れて’書いているという感じでしょうかね。派閥みたいなものかもしれませんが。
例えば、あらゆる要素を中村俊輔選手(や海外組?)の持ち上げに歪曲解釈したかと思えば、あらゆる要素をオシム監督(やジェフ勢)の(悪意を感じる程の)叩きに歪曲解釈する、その書き手の存在。一方で、普通に読める記事を書く書き手も存在。
面白く煽れればどちらでもいいと、新聞社は両方を生かしているのかもしれませんが、限度を超えてますね。
私はあの悪夢のドイツW杯後のこの時期に、日本代表監督としてオシムさんが指揮を執っているのは奇跡と言えるほどベストなタイミングだと思っています。若手発掘などチームを土台から作るという大きな動機が就任前から存在していた事が一つの大きな理由です。彼の言葉は難解かもしれませんが、その裏に隠れている理論は日本人的な発想を多く含んでおり、オーソドックスで説得力のあるものだと思います。さらに、これまで世界で培ってきたサッカー理論をベースとして、日本人でしか完成させる事ができない独自の戦術への探究心と強い確信を感じます。また、Jリーグを舞台とした勢力的な活動からは、サッカーへの情熱と代表監督への真摯な使命感が伝わってきます。ですので個人的には現在の日本代表について、絶対的な支持と大きな期待を持っています。反オシム勢力というのは意識した事がないのですが、もしそういうものが存在するのであれば、じじさんが言われるように、純粋な代表強化以外の所から生まれてきている物なのでしょう。次のW杯が終わった時、オシム監督は日本代表史の中で最も人々の記憶に残る偉大な監督になっているような予感がしてなりません。
初めて投稿させて頂きます。いつも更新楽しみにしています。
サッカー素人ですが、素人なりの見方で意見を述べさせて頂きます。
私は特にジェフファンではない事を最初にお伝えしておきます。
前祖母外GMが三顧の礼を持って迎えたというオシム監督、彼が今もジェフの監督であったならば、間違いなくジェフはJの上位に今もいたことでしょう,断腸の思いで彼
を手放したであろう千葉の選手サポーターに思いを寄せた時、もし仮に志半ばでオシムを辞任に追い込むような事があれば、彼らに対して非礼この上ないですし、世界のサッカー界から冷笑されるでしょうね、いくらお金を積んだところで彼以上に優秀な監督を獲得できるとは思えません。じじさんも心配されているように何か大きな圧力みたいなのがあるんじゃないかと、これからそれが大きくなるんじゃないかと危惧しています。
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